譲渡担保/集合動産譲渡担保・集合債権譲渡担保/の判例について問う問題です。
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どんな問題にも基本から解く糸口があるものです。本問でも譲渡担保の基本といってもよい知識、理解からなんとか正解にたどり着くことは可能です。
過去問を解くことの意味は、一見難しく見える問題でも、実は基本から答えにたどり着ける糸口が必ずあるんだということを、そのことを十分に納得できるまで徹底的に問題を分析すること。そこにあるのだと思います。
では、各肢の判例を見て行きましょう。
肢1.受戻権の消滅時期(最判平成6年2月22日)
この判例は、譲渡担保が設定からはじまってどんな経過をたどって消滅にまで至るのか、つまり、「譲渡担保の一生」を理解しているかを問う、そんな内容の判例です。
そういう意味では基本知識なのでしょうか。細かいですけどね。。
事案は次の通り。
『弁済期後、目的不動産が債権者(譲渡担保権者)から第三者に譲渡された場合、債務者(設定者)はもはや目的不動産を受け戻すことは出来なくなるのか?』
そういう事案です。
わけわからない?(⌒-⌒; )
「譲渡担保の一生」を確認していきましょう。
まず、定義から。
「譲渡担保とは、担保の目的で目的物の所有権を債権者に移転して、弁済期に債務が履行されない時は、目的物自体を債務の弁済に充てる、つまり、債権者(譲渡担保権者)は目的物を処分して売却代金から債権の回収をすることができる、そういう担保権のこと」をいいます。
目的物の売却代金が債権額より多いときは、もちろん残金は清算されます。例えば、債権が1億円で売却代金が1億2千万円のときには、債権額より多い2千万円は、清算金として債務者に支払われます。当然のことですよね。
つまり、清算金というのは、「弁済期に債務者の弁済がなされず、担保目的物が債権者によって処分された場面」で出てくる話です。
では、事案にでてきた「受け戻し」とはなんでしょう?
「受け戻し」とは、債務者の有する、担保目的物の受戻権のことです。そのまんまですね。(^_^;)
時間の流れに沿って説明すると、、
譲渡担保というのは、担保の目的で担保目的物の所有権を債権者に移転するものでした。そして、弁済期に債務者の弁済がなかった場合は、担保目的物は債権者によって処分されて売却代金から債権の回収が図られるのでした。
では、弁済期に債務者の弁済がきちんとされた場合はどうでしょう?
その場合、被担保債権は満足して消滅しますね。担保権も存在する必要がなくなりますから消滅します。譲渡担保権が消滅した以上、債務者としては、所有権が移転した形になっている目的物を債権者から回復したいですよね。この、債務者が有する担保目的物を取り戻せる権利を、受戻権というのです。
つまり、受戻権というのは、「弁済期に債務者の弁済がきちんとされた場面」で出てくる話です。弁済したんだから担保に入れた目的物を返してよ、そういう話です。
ただ、弁済して債権は満足したんだから担保目的物を返してよ、ということであれば、弁済期の弁済である必要はありませんよね。たとえ弁済期を過ぎて遅滞になっていたとしても、遅延利息を加えた全額が弁済されれば債権者は満足なわけですから、弁済により被担保債権及び譲渡担保権は消滅して、債務者は担保目的物の受け戻しを請求できてよいはずです。
さて、たとえ弁済期を過ぎても、債務者は遅延利息を加えた全額の弁済をして、担保目的物の受け戻しを請求することが可能ではあります。
では、債務者はいつまでも弁済をして受戻権を行使できるのでしょうか?言い換えると、受戻権が消滅するのはいつの時点か?という問題です。
この点について、最判平成6年2月22日は次のように言っています。
不動産を目的とする譲渡担保契約において、債務者が弁済期に債務の弁済をしない場合には、債権者は・・目的物を処分する権能を取得するから、債権者がこの権能に基づいて目的物を第三者に譲渡したときは、原則として、譲受人は目的物の所有権を確定的に取得し、債務者は、清算金がある場合に債権者に対してその支払を求めることができるにとどまり、残債務を弁済して目的物を受け戻すことはできなくなるものと解するのが相当である。
弁済期に債務者の履行がないときは、債権者は担保目的物を処分して売却代金から債権の回収をすることができます。譲渡担保というのはそういう担保権ですから、この債権者の処分はなんの問題もない適法な処分です。債務者は文句をつける筋合いなどありません。弁済をしなかった結果であって、自業自得ですよね。
で、担保目的物が第三者に処分されて売却代金から債権の回収が図られ、債権は満足して消滅しました。
このとき、債務者はもはや「今から弁済をするので担保目的物を返してくれ!」なんて言えませんよね。「あんたが弁済をしないから処分しちゃったよ。今頃何言ってんの?」そういう話です。
つまり、債務者は担保目的物を受け戻すことはもはやできません。
いつの時点で?そう。第三者に処分された時点(処分契約成立時)ですよね。債務者の自業自得で担保目的物が債権者から第三者に適法に処分された時点で、第三者は確定的に目的物の所有権を取得します。それについて債務者は文句をつける筋合いなどない。所有権は第三者に確定的に移ってしまった以上、債務者は、もはや債権者から目的物を受け戻すことはできません。清算金がある場合に債権者に対してその支払を求めることができるだけです。そのことを最判平成6年2月22日は言っているのです。
この流れ、よろしいでしょうか。
ただ、この判例は上に続けてこんなことを言っています。
この理は、譲渡を受けた第三者がいわゆる背信的悪意者に当たる場合であっても異なるところはない
唐突に背信的悪意者が出てきてビックリしますよね。まあ、関係ないよと言ってるわけですけど。。
なぜ、背信的悪意者に触れているのでしょう?関係ないよなんて念を押しているのでしょう?
背信的悪意者の議論は『民法177条の「第三者」にあたるか否か』で出てくる話です。『民法177条「第3者」とは?基本は正確に!というお話。』の記事で書いたように、”単純な悪意者”は「第三者」にあたるけれど、”背信的悪意者”はもはや「第三者」にあたらない。そういう話でしたね。
(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
第百七十七条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法 (平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
つまり、177条の適用場面での話でした。
しかし、本判例の事案には177条の適用はありません。なぜなら、債権者から第三者へと担保目的物が譲渡された時点で債務者の受戻権は消滅していますから、債権者から債務者へという所有権の流れ(受け戻しによる復帰)はありません。債権者から第三者への一本の流れがあるだけです。177条の予定する二重譲渡のような対抗関係は生じないのですね。
なのに、なぜ背信的悪意者に触れているのか?
実は、「債務者の有効な弁済があったか否か」という事実関係の有無によっては、まさに177条の適用場面となりうるからなのです。つまり、事実関係によっては、「債務者の受戻権行使による担保目的物所有権の債務者への復帰的変動」と「債権者の処分による担保目的物所有権の第三者への移転」とが、債権者を起点とした二重譲渡のような関係となり、177条の適用場面となりうるからなのです。
177条の適用場面
本判例の事案は、弁済期に債務者の弁済がなかったので、債権者は適法な処分権限に基づいて担保目的物を第三者に処分した(その時点で債務者の受戻権は消滅した)という事案で、債権者から第三者への一本の流れがあるだけで、177条の適用はありませんでした。
これに対して,177条の適用場面となるのは次のような事案です。
つまり、弁済期において(あるいは弁済期を経過して遅滞にあったとしても)、担保目的物が第三者に処分される前に、債務者から(遅延利息等を含む)全額の弁済がされて被担保債権は満足して消滅かつ譲渡担保権も消滅。債務者から担保目的物の受け戻し請求がなされ、担保目的物の所有権は債権者から債務者へと復帰しました。ところが、債務者が所有権復帰の登記を備える前に、債権者が第三者に担保目的物を譲渡してしまった!そんな事案です。
この場合は、債権者を起点として、「債務者への担保目的物所有権の復帰的変動」と「第三者への担保目的物所有権の移転」という二重譲渡の形となり、177条の適用場面となります。
177条の適用場面では、債務者は所有権の復帰を「その登記をしなければ、第三者に対抗することができない」ことになります。
ただし、譲渡を受けた第三者が”背信的悪意者”にあたるときは、譲受人はもはや177条の「第三者」(登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者)にあたらず,つまり、債務者に対して「所有権復帰の登記をしてないじゃないか!」と主張する正当な利益を有する第三者にあたらず、その結果、債務者は登記がなくても復帰した所有権を譲受人に対抗できることになります。
177条の「第三者」について詳しいことはこちらの記事を参照してくださいね。~ 民法177条「第三者」とは?基本は正確に!というお話。
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弁済期後に、債権者(譲渡担保権者)が担保目的物を第三者に処分するより前に、債務者(譲渡担保設定者)から有効な弁済があって担保目的物の受け戻し請求が行使されて、債務者(譲渡担保設定者)に担保目的物の所有権が復帰、しかし、その登記がされる前に、債権者(譲渡担保権者)が担保目的物を第三者に譲渡してしまった場面では、債権者(譲渡担保権者)を起点とした「債務者(譲渡担保設定者)への所有権復帰」と「第三者への所有権移転」とが対抗関係となって177条が適用されることになるのです。
177条の適用場面か否か(債務者の有効な弁済の有無)は納得しておいてくださいね。
[なお、債務者の受戻権行使による所有権の復帰も物権の変動です。177条の適用場面となります。同様に、取消しや解除による所有権の復帰も物権の変動にあたり、さらに第三者への所有権移転があれば177条の適用場面となるとするのが判例の立場です。いわゆる【取消後/解除後の第三者】の論点ですね。177条は物権の変動があれば民法のあらゆる場面で出てくる条文ですので、正確に押さえておきましょうね。]
肢2.集合動産譲渡担保の対抗要件(最判昭和62年11月10日)
集合動産譲渡担保の対抗要件についての判例です。
集合動産譲渡担保とは、例えば、「債務者の特定の倉庫内の特定の区画にある特定の種類の商品すべてを担保にして融資を受ける担保権」といったものです。
債務者は営業を続けているわけですから、倉庫内の特定の種類の商品は当然、次々と入れ替わっていきます。債権者としても、在庫商品はどんどん入れ替わっていくことを当然のことと予定して融資するわけです。
営業の商品である担保目的物(集合物)はもちろん、債務者の現実の占有のもとにあります。つまり、担保目的物を債務者の現実の占有に置きながら、譲渡担保権は設定され、対抗要件も備えられる必要があります。
集合物は動産ですから、対抗要件は動産の引き渡し(占有の取得)です。
(動産に関する物権の譲渡の対抗要件)
第百七十八条 動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない。
物を債務者の現実の占有に置きながら、債権者に対抗要件を備えさせる方法として、占有改定があります。
(占有改定)
第百八十三条 代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したときは、本人は、これによって占有権を取得する。
代理占有している状態ですよね。債務者が「代理人」、債権者が「本人」にあたります。
債務者のもとに集合物はあるけれど、債務者が「債権者のために占有します」と意思表示することで、債権者は集合物の占有権を取得する、つまり、動産譲渡担保の対抗要件を具備するというわけです。
集合動産譲渡担保の対抗要件の具備はこれによります。債権者に占有改定された後も、集合物は債務者のもとに置かれ、債務者の営業活動が続く限り集合物を構成する物は次々と入れ替わっていきます。
集合物として同一性がある限り、新しく集合物に加わった動産にも占有改定による譲渡担保の対抗要件は具備されます。いちいち新たに加わる度に一つ一つ占有改定の意思表示など必要ないということです。
そういう流れになります。
最判昭和62年11月10日を見てみましょう。
構成部分の変動する集合動産であつても、その種類、所在場所及び量的範囲を指定するなどの方法によつて目的物の範囲が特定される場合には、一個の集合物として譲渡担保の目的とすることができるものと解すべきであることは、当裁判所の判例とするところである。そして、債権者と債務者との間に、右のような集合物を目的とする譲渡担保権設定契約が締結され、債務者がその構成部分である動産の占有を取得したときは債権者が占有改定の方法によつてその占有権を取得する旨の合意に基づき、債務者が右集合物の構成部分として現に存在する動産の占有を取得した場合には、債権者は、当該集合物を目的とする譲渡担保権につき対抗要件を具備するに至つたものということができ、この対抗要件具備の効力は、その後構成部分が変動したとしても、集合物としての同一性が損なわれない限り、新たにその構成部分となつた動産を包含する集合物について及ぶものと解すべきである。
2もマルです。
肢3.最判平成18年7月20日
集合動産譲渡担保の目的である集合物の中身は、債務者の営業活動によって次々と入れ替わっていきます。このことは 債権者(譲渡担保権者)も予定していることです。
ただし、それは「債務者の営業活動の範囲内で」の話です。
債権者(譲渡担保権者)も、集合物の中身が日々の営業活動で入れ替わることは予定しています。でも、「営業活動の範囲を超えての処分」は別です。「これじゃ担保にならないよ!」そういうのは困るわけです。
具体的に該当する事例というのは、債務者の営業活動の内容などにもよるでしょうから一概には言えませんけど、「債権者を害する目的で集合物を構成する動産すべてを処分してしまったような場合」とか(そりゃあたりますよね。。)ケースバイケースなんでしょうね。
詐害行為取消権の対象になりうるかもですね。
(詐害行為取消権)
第四百二十四条 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。
2 前項の規定は、財産権を目的としない法律行為については、適用しない。
3もマルです。
2と3は、集合動産譲渡担保とはどんなものかの理解があれば判断できます。細かな論点とか些末な知識を聞いているのではありません。
肢4.集合債権譲渡担保!?
集合債権譲渡担保。。(+_+)
細かいですね。。まあ、集合動産の債権版なんでしょうけど。
債権の発生が確実?私も判断できませんでした。別の条文でそんな判例があったような。。とは思いましたけど、ここは分からない。
5つある肢の中に1つは無視してよい細かな知識の肢があるものです。すべての肢の正誤を判断して力ずくで解いてやるぞ!なんて思い上がった考えを持ってはいけません。勉強が進んで少し自信がつくと陥りがちです。
知識が増えてきた時こそ、「基本だけで解く!」「基本ではない知識は無視!」何度も自分に言い聞かせましょう。
「基本で解く!」そのために細かな知識の肢は無視しましょう。ということで無視。。
肢5.集合債権譲渡担保の対抗要件(最判平成13年11月22日&最判平成19年2月15日)
この判例、ほとんどの受験生は知らないと思います。
それでいいんです。そんなこと承知の上で問題作成者は問題を作っています。
つまり、知っていることを期待していない。言い換えると、「知らなくても分かるでしょ?」そう思って作っています。「これくらい判断できるでしょ?」そう思っている。
対抗要件の話です。集合動産譲渡担保の対抗要件については肢2でありましたね。あれが債権になっただけじゃん。それだけ。
そう考えれば、集合動産譲渡担保では、「新たに次々と構成物となる動産にも、集合物の同一性がある限りは、占有改定の対抗要件の効力が新たな動産にも及ぶ」わけですから、集合債権でも、「将来発生する債権にも、集合債権の同一性がある限りは、対抗要件の効力が及ぶ」といってもいいですよね。同じようなことでしょと。
そして、債権譲渡について第三者対抗要件を具備するためには、指名債権譲渡の対抗要件(民法467条2項)の方法によります(最判平成13年11月22日)。
(指名債権の譲渡の対抗要件)
第四百六十七条 指名債権の譲渡は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。
2 前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。
最判平成19年2月15日は次のようにいいます。
譲渡担保の目的とされた債権が将来発生したときには、譲渡担保権者は、譲渡担保設定者の特段の行為を要することなく当然に、当該債権を担保の目的で取得することができる。
肢2と同じようなことでしょと。そんなんでいいんです。
以上、123は譲渡担保の基本ということでなんとか判断してもらって、4か5に絞って、4は知らない無視。5は2と同じでいいじゃないの。で、正解は4かなと。こういう解き方で十分だと思います。
まとめ
手が回りにくい分野、制度については、基本として、定義(その制度がどのようなものなのか)と、手続きの大まかな流れ(制度の一生)は少なくともチェックしておきましょう。それで十分正解にたどりつけるものです。
親族、相続なども後回しになりがちですけど、上の2点を意識して押さえておくだけで十分に解けてしまったりするものです。はじめから捨てるのはもったいないですからね。
今回は以上です。
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