相続

限定承認(民法992条)/相続回復請求権の期間制限(民法884条)/特別受益者の相続分(民法903条)/欠格事由OR排除原因/遺産分割の本質(民法907条)をわかりやすく

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今回は、相続に関するいくつかのお話です。

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ア)限定承認

民法の勉強量は、膨大です。親族/相続までたどり着くのも大変。限定承認!?そこまで押えられないよ。。そんな声も聞こえてきそうです。

限定承認は、相続人全員が共同してのみすることができる(923条)。

どうでしょう?あなたにとって基本知識ですか?それとも、「こんな細かい知識まで必要だとしたらキリがないよ。。」でしょうか?

たしかに、細かいです。

でも、いっそのこと、親族/相続については、腰を据えて取り組んで、むしろ得意にしてしまう。その知識は合格後、実務の仕事のうえでもきっと役に立つ。自分の強みになるかも。やってみる価値はあるとおもいます。

僕の受験生時代のお話をすると、民法は好きで、僕の頭と相性が良かったようで、事例をあれこれ変えては考えを巡らしたりしていました。

けれど、僕も(あなたも?)最初は親族/相続には抵抗感を感じていました。それまでの物権や債権の勉強とはなんか違うんですよね。

とくに、親族。子の認知をするにはどうの、養子縁組ができる場合はどうのこうの。。正直、面白くない。

でも、やらないと全く解けない。やらない訳にはいかない。ならば、徹底的にやってしまおう。気が乗らないけど、やらなければいけないこと、結局、やるしかないこと。そうであるなら、むしろ、徹底的に取り組んで得意にしてしまえ。それが僕の追い詰められたときのやり方です。(いつもこんな感じで、追い詰められるまでやらないことの繰り返しです。。)

で、とりわけ親族については、心のなかで泣きながら、チクショーチクショーとぶつぶつ言いながら、徹底的にやりました。

で、気付くと、親族・相続には強くなっていました。ホントに。

で、限定承認。

(限定承認)
第九百二十二条  相続人は相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して相続の承認をすることができる

(共同相続人の限定承認)
第九百二十三条  相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。

(限定承認の方式)
第九百二十四条  相続人は、限定承認をしようとするときは、第九百十五条第一項の期間内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければならない。

(相続の承認又は放棄をすべき期間)
第915条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
2 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。

(相続債権者及び受遺者に対する公告及び催告)
第九百二十七条  限定承認者は、限定承認をした後五日以内に、すべての相続債権者(相続財産に属する債務の債権者をいう。以下同じ。)及び受遺者に対し、限定承認をしたこと及び一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならないこの場合において、その期間は、二箇月を下ることができない。
2  前項の規定による公告には、相続債権者及び受遺者がその期間内に申出をしないときは弁済から除斥されるべき旨を付記しなければならない。ただし、限定承認者は、知れている相続債権者及び受遺者を除斥することができない。
3  限定承認者は、知れている相続債権者及び受遺者には、各別にその申出の催告をしなければならない
4  第一項の規定による公告は、官報に掲載してする

限定承認とは、「相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすること」をいいます。

債権者にとっては、迷惑な話です。ある相続人のところに弁済を求めたら、「私は少ししか相続していないので、これしか弁済しませんよ。」とか言われる。複雑ですよね。誰がいくら弁済してくれるのか。

「過大な債務の承継から相続人を守るため」に限定承認の制度が必要だとしても、煩雑な手続きを回避する必要もあります。

そこで、限定承認する時は、「共同相続人の全員で共同して」やってくださいね。その際、「財産目録を調製して家庭裁判所に提出、申述して下さい」。さらに、「官報に公告or個別に催告して、債権者に情報提供して下さい」。とされています。

以前の記事で書きましたけど、親族/相続については、《制度の定義(どんな制度なのか)》と《制度の趣旨(どんな目的の制度なのか)》、この2点を頭に入れた上で、「そこから導かれる幾つかの手続的な知識」を押さえるだけで、大抵の問題は解けます。

細かな条文知識に振り回されることなく、右の2点、つまり、基本をしっかりと納得して覚えておけば得点できるとおもいます。

肢アは、「相続人全員で共同してする必要はない。」としており、誤り。

イ)相続回復請求権の期間制限

ここは基本知識ですね。

(相続回復請求権)
第八百八十四条  相続回復の請求権は相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から二十年を経過したときも、同様とする。

『「Aの死亡の時から」5年以内に』ではなく、「相続権を侵害された事実を知った時から」5年以内ですね。

限定承認も「相続の開始があったことを知った時から」3ヶ月でした。

相続では「3ヶ月」というポイントの期間がありますけど、これは「知った時から」です。

3ヶ月なんてあっという間です。知った時にはすでに3ヶ月経過していたなんてよくあります。「被相続人の死亡の時から」では、権利行使の機会を逃してしまう相続人が続出してしまうのです。

「知った時から」3ヶ月の期間内に、熟考して判断して下さいね、ということです。

相続回復請求権も同じ。「相続権を侵害された事実」はなかなか気付かなかったりします。

例えば、侵害されたのが相続した故郷の土地で、相続人は普段、別の土地で生活しているような場合。「相続権を侵害された事実」に気付かないほうが普通です。気付いたら5年経過していた、ということも十分ありえます。そのとき、もはや取り戻せませんというのは、あまりに理不尽です。

やはり、「知った時から」なんですね。

肢イも、誤り。

ウ)特別受益者の相続分

(特別受益者の相続分)
第九百三条  共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする
2  遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
3  被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。
第九百四条  前条に規定する贈与の価額は、受贈者の行為によって、その目的である財産が滅失し、又はその価格の増減があったときであっても、相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなしてこれを定める。

特別受益において、相続時の財産の価額に加えて計算するのは、”贈与による”特別受益ですよね。

相続財産が少ないなと思ったら、生前に一部の相続人にだけ特別に贈与されてた、それは不公平でしょ・・ということで、相続財産に生前に贈与された財産を加えたうえで(計算するうえで相続財産に戻した上で)相続分の計算をして、出た結果から、その相続人はすでに贈与財産を受け取っているのですから、その贈与財産の価額を計算結果から控除したものをその相続人の相続分とする。そうなります。

”遺贈”の場合はまだ財産は流出してないのですから、計算上、加える必要はありませんよね。

肢ウ、も誤り。

エ)欠格事由それとも排除原因?

(相続人の欠格事由)
第八百九十一条  次に掲げる者は、相続人となることができない。
一  故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
二  被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
三  詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
四  詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
五  相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者

(推定相続人の廃除)
第八百九十二条  遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる

(遺言による推定相続人の廃除)
第八百九十三条  被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。

「生前Aに対して虐待をし、またはAに重大な侮辱を加えた場合」とは、排除原因ですね。

欠格事由のほうは、故意の重大な非行があるときに法律上当然に相続人の資格を失わせる制度です。

排除原因は、欠格事由ほどではないものの、「被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったとき」に、被相続人の意思により(家庭裁判所に排除の請求をして)その推定相続人の相続権を完全に剥奪する制度です。

排除の対象となるのは、遺留分を有する推定相続人です。
遺留分とは何でしょう?

   第八章 遺留分
(遺留分の帰属及びその割合)
第千二十八条  兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける
一  直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一
二  前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一

遺留分とは、「相続人のために最低限これだけは保障されますよという取り分」のことです。

遺留分制度の趣旨は、「残された相続人の生活の安定」という点にあります。

例えば、愛人に全財産を遺贈する旨の遺言書があった時に、残された妻や子供の生活の安定のためには、最低限の相続分は保障されなければ、財産もなく住んでいる家からも追い出されて路頭に迷うということになりかねません。そういう事態を防ぐための制度です。

というわけで、兄弟姉妹には遺留分は認められていません。

で、排除に戻りますと、排除の制度は、「遺留分を有する相続人の遺留分まで否定して完全に相続権を剥奪する」という制度でした。

従って、もともと遺留分のない兄弟姉妹は排除の対象とはならないのです。排除などしなくても、兄弟姉妹以外の人に全財産を贈与や遺贈してしまえば、それで遺留分のない兄弟姉妹には一円も相続されないので、排除の必要ないというわけです。

肢エ、も誤り。

オ)遺産分割の本質を理解していますか?

(遺産の分割の協議又は審判等)
第907条 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除きいつでもその協議で、遺産の分割をすることができる
2 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができる
3 前項の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。

1項に「いつでも」とありますね。遺産分割協議に期間制限はないのです。

なぜ?

相続人は相続財産の所有者(共有者)です。

で、所有権に時効消滅なんてありません。10年経ったら所有権が時効消滅するなんてありません。空き地にして放おっておいたら10年で所有権がなくなるなんてありえませんよね。所有権は消滅時効になんてかからないのです。当然のこと。

で、遺産分割というのは、所有者(共有者)の間で分け前をどうするか、オレにもっとよこせとか、お前多すぎるでしょ、とか、そういう話です。

いつでも出来ますよね。所有者(共有者)間の分配の問題にすぎませんから。いつでもどうぞ、と。

で、話し合ったけど、結局、ケンカ別れになったとかいうときは、家庭裁判所で公平に審判してあげましょう、と。

この場合、2項には「各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができる。」とある通り、全員で共同して申し立てる必要はありません。裁判なんてしたくない。。そんな兄弟もいるでしょうからね。

「オレは家庭裁判所の世話になんかなりたくねえ」と言っている長男と長女の争い。長女だけで申請できるようにしてあげないと、意味ないですよね。

そこで、単独でも申し立て可なわけです。

肢オには2つの誤りがあるということで、判断はし易い肢であるといえます。

まとめ

本問は、相続の個数問題で全ての肢が誤りという、難問です。

個数問題自体、正答率が低くなります。問題作成者の側からすれば、点数を調整するための問題であったりします。

まして、親族・相続の個数問題となれば、正答率はかなり低いものとなります。

そういう問題なんだと、あらかじめしっかりと認識しておいた上で、本試験に臨んでくださいね。

今回は、以上です。

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