民法改正 賃貸借

「賃貸人の地位の移転(605条の2)」「賃借人の地位の移転(622条の2)」に伴う敷金関係の承継の有無(最判昭和44年7月17日判決/最判昭和53年12月22日判決)をわかりやすく

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敷金

賃貸借契約のお話です。

「敷金の判例まで手が回ってないよ!」…

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 ただ、敷金の判例としては、

1)「賃貸人の地位の移転」に伴う敷金関係の承継の有無(肯定)

2)「賃借人の地位の移転」に伴う敷金関係の承継の有無(否定)

この2つの判例は、敷金では、基本の判例といってもよいものです。「敷金まで手が回ってないよ」という方は、ここで押えてしまってくださいね。

この判例、全然、難しい判例ではないです。

判例というのは、国民の多数が納得する結論を取るものです。当然ですよね。司法の基盤は国民の信頼です。国民の多数意思から離れた司法判断はあってはならないですからね。

だとすれば、判例を勉強する受験生としても判例の結論に納得できるはずです。「納得できん!」という少数意見の方、受験生である以上はひとまず信念は脇に置いといて、納得してしまいましょう。

何度も何度も納得すること。納得したことは忘れてしまっても試験会場で出てきますからね。「えーと、ここはBが可哀想だから、こうでしょ。」みたいに。

とりわけ、敷金関係のように、一見、難しそうで腰が引けそうな、そんな判例は、とにかく何度も納得すること。「そりゃそうだろうなあ。」と何度も何度も。

決して暗記しようなんて思わないこと。暗記したものは100%忘れます。忘れたら出てきませんからね。

小難しい言い回しの判例。最初は「ややこしい言い回しをするなあ」と思いつつ、「なるほどねえー」と何度も何度も納得を繰り返す。それをすることで、変な言い回しであっても自分の中では常識になっていきます。小難しい言い回しも暗唱できることに快感を覚えるようになっていきます。

敷金判例。「賃貸人の地位の移転」の場合。ここは判決文の記憶なんてほぼゼロ状態。でも、「新賃貸人に敷金関係が承継されないと賃借人が困るんだよな」、そう受験生時代に納得したことだけは思い出して。。何度も納得した知識は数年経っても出て来るのです。

*2020年4月1日施行の改正民法により

1)「賃貸人の地位の移転」に伴う敷金関係の承継の有無 については605条の2第4項で、

2)「賃借人の地位の移転」に伴う敷金関係の承継の有無 については622条の2第1項2号で、明文化されました。

(不動産の賃貸人たる地位の移転)
第六百五条の二 前条、借地借家法(平成三年法律第九十号)第十条又は第三十一条その他の法令の規定による賃貸借の対抗要件を備えた場合において、その不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人に移転する
2 前項の規定にかかわらず、不動産の譲渡人及び譲受人が、賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨及びその不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意をしたときは、賃貸人たる地位は、譲受人に移転しない。この場合において、譲渡人と譲受人又はその承継人との間の賃貸借が終了したときは、譲渡人に留保されていた賃貸人たる地位は、譲受人又はその承継人に移転する。
3 第一項又は前項後段の規定による賃貸人たる地位の移転は、賃貸物である不動産について所有権の移転の登記をしなければ、賃借人に対抗することができない。
4 第一項又は第二項後段の規定により賃貸人たる地位が譲受人又はその承継人に移転したときは、第六百八条の規定による費用の償還に係る債務及び第六百二十二条の二第一項の規定による同項に規定する敷金の返還に係る債務は、譲受人又はその承継人が承継する

第四款 敷金
第六百二十二条の二 賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない
一 賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき。
二 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき
2 賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。

肢1、費用償還請求権ですね。

費用償還請求権はちょこちょこ顔を出すところから、受験生としては押えておくべき基本知識なのだと思います。

ご使用のテキスト等をみると、費用償還請求の基本条文である196条のところに比較の表がはいっていると思います。

196条を基本規定として、留置権や使用貸借や賃貸借について比較している表です。

ざっと見ていくと、まず、原則規定は196条です。

(占有者による費用の償還請求)
第百九十六条  占有者が占有物を返還する場合には、その物の保存のために支出した金額その他の必要費を回復者から償還させることができる。ただし、占有者が果実を取得したときは、通常の必要費は、占有者の負担に帰する。
2  占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、悪意の占有者に対しては、裁判所は、回復者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。

占有者(占有取得の根拠・原因は問いません)は、必要費(修繕費、飼養費など)の全額を償還請求できます。ただし、占有者が果実を取得したときは通常の必要費(小修繕費など)は占有者の負担となります。つまり、償還請求できない。果実と通常の必要費とで相殺されてるでしょ、プラスマイナスゼロでチャラね、という趣旨です。

有益費(改良したり価値を増加させた費用)については価格の増加が現存する限り費やした金額又は増加額を償還請求できます。

必要費&有益費ともに返還時に償還請求することを予定しています。これが原則。

留置権者(299条)と質権者(350条)は、ほぼ原則通り。

(留置権者による費用の償還請求)
第二百九十九条  留置権者は、留置物について必要費を支出したときは、所有者にその償還をさせることができる。
2  留置権者は、留置物について有益費を支出したときは、これによる価格の増加が現存する場合に限り、所有者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、裁判所は、所有者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。

(留置権及び先取特権の規定の準用)
第三百五十条  第二百九十六条から第三百条まで及び第三百四条の規定は、質権について準用する

注意点は、必要費で「ただし、果実を・・」がないという点。つまり、留置権者や質権者は担保権者なので取得した果実を弁済に充当できる(297条)、つまり、弁済にあてるだけで得するわけじゃないのでチャラにされるいわれがないのです。キッチリ全額償還してよと言えるのです。少々細かいですね。。

(留置権者による果実の収取)
第二百九十七条  留置権者は、留置物から生ずる果実を収取し、他の債権者に先立って、これを自己の債権の弁済に充当することができる。
2  前項の果実は、まず債権の利息に充当し、なお残余があるときは元本に充当しなければならない。

これに対して、使用貸借では通常の必要費は借主の負担となります(595条)。つまり、償還請求できない。

(借用物の費用の負担)
第五百九十五条  借主は、借用物の通常の必要費を負担する
2  第五百八十三条第二項の規定は、前項の通常の必要費以外の費用について準用する

(買戻しの実行)
第五百八十三条  売主は、第五百八十条に規定する期間内に代金及び契約の費用を提供しなければ、買戻しをすることができない。
2  買主又は転得者が不動産について費用を支出したときは、売主は、第百九十六条の規定に従い、その償還をしなければならない。ただし、有益費については、裁判所は、売主の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。

タダで使用収益しているんだから通常の必要費は負担しなよ、タダの使用収益と通常の必要費とでチャラね、という趣旨。

特別な必要費(大修繕費など)は償還請求できます。

有益費は原則通りでOKです。

そして、賃貸借の場合はタダではありませんから、賃借人は支出した必要費の全額をキッチリ償還してよと言えます。賃借人が修繕費を負担するいわれはありません。修繕義務を負担するのは賃貸人の方ですからね(606条)。

しかも、必要費の償還請求は「直ちに」できます。ここはよく出題されます。修繕義務を負っているの賃貸人の方だからです。

有益費は原則通りでOKです。

(賃借人による費用の償還請求)
第六百八条  賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる
2  賃借人が賃借物について有益費を支出したときは、賃貸人は、賃貸借の終了の時に、第百九十六条第二項の規定に従い、その償還をしなければならない。ただし、裁判所は、賃貸人の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。

(賃貸物の修繕等)
第六百六条  賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う

なお、相当の期限の許与うんぬんという部分は無視してOKです。細かすぎますから。償還請求の可否とその時期の2点を押さえれば十分です。

ということで、肢1は誤り。有益費の償還請求は「賃貸借終了の時に」です。

肢2&肢5、【当事者の地位の移転に伴い敷金関係も一緒に移転するか】という論点についての判例です。

2つの判例を納得する上で前提となるのが「敷金とは何なのか?」という、まさに基本です。ここから考えて判例の結論を納得する。「そりゃそうだろうなあ」と繰り返し納得する。

では、「敷金とは何なのか?」

敷金とは、「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。」(622条の2第1項本文)です。

第四款 敷金
第六百二十二条の二 賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない
一 賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき。
二 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき
2 賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。

例えば、未払い賃料がある場合には、その金額分が敷金から充当されて、残額が、明け渡し後に賃借人に返還されるわけです。賃貸人側からすれば、賃借人が賃料を払えなくなっても敷金から充当できるので安心というわけです。

「賃借人の地位の移転」に伴う敷金関係の承継の有無

で、こういう敷金関係が、『賃借人の地位の移転』があった場合に、一緒になって新賃借人のところに移転するのか?この論点について答えたのが肢2の判例です。

どうでしょう?もし敷金関係も移転・承継されるとすると、その敷金で新賃借人の負担する未払い賃料債務などを担保することになりますね。新賃借人の未払い賃料分をこの敷金で充当することになる。。

でも、この敷金って(旧)賃借人のお金でしょ?なぜ、(旧)賃借人が新賃借人の未払い賃料の充当に自分のお金を差し出さないといけないのでしょう?(旧)賃借人がそのつもりならいいんです。「私のお金を新賃借人のために使って下さい」というつもりなら、それはそれでOKです。でも、普通は他人のためにそこまでしません。「なぜ、私のお金を使うのよ!」ですよね。普通は。

ということで、原則として、敷金関係は承継されません。ただし、(旧)賃借人が「私の敷金を新賃借人のために使って下さい」というつもりのときは、それはそれでOK。そういう例外的な場合を、判例は次のように言っています。

「敷金交付者が、賃貸人との間で敷金をもって新賃借人の債務不履行の担保とすることを約し、又は新賃借人に対して敷金返還請求権を譲渡するなど特段の事情」

よろしいでしょうか?繰り返します。

『賃借人の地位の移転』があった場合、原則として、敷金関係は承継されない。(なぜ、私のお金を使うのよ?)

例外的な場合として、特段の事情。(私のお金を使っていいよ。)

これを判例(最判昭和53年12月22日)は、

賃借権が旧賃借人から新賃借人に移転され賃貸人がこれを承諾したことにより旧賃借人が賃貸借関係から離脱した場合においては敷金交付者が、賃貸人との間で敷金をもって新賃借人の債務不履行の担保とすることを約し、又は新賃借人に対して敷金返還請求権を譲渡するなど特段の事情のない限り、右敷金をもって将来新賃借人が新たに負担することとなる債務についてまでこれを担保しなければならないものと解することは、敷金交付者にその予期に反して不利益を被らせる結果となって相当でなく、敷金に関する敷金交付者の権利義務関係は新賃借人に承継されるものではないと解すべきである。」

と言っているのです。納得し易いでしょ。もう頭に入りましたよね。

*2020年4月1日施行の改正民法により

「賃借人の地位の移転」に伴う敷金関係の承継の有無については622条の2第1項2号で、明文化されました。

「賃貸人の地位の移転」に伴う敷金関係の承継の有無

では、肢5。今度は、『賃貸人の地位の移転』があった時に一緒に敷金関係も移転するのか?という判例です。

どうでしょう?敷金関係も一緒に承継されるとすると、まず、新賃貸人側としては嬉しいですよね。担保ですからね。賃借人の賃料不払いがあった時に敷金から充当できる、担保を持っている。担保、欲しいですよね。(ただ、旧賃貸人が敷金を持ち逃げした場合は返還義務の承継などゴメンですよね。このリスクを誰が負担するか?後述)

他方、賃借人側にとってはどうでしょう?ここでは他人のために自分の敷金を使われる心配はありません。

では、新しい賃貸人に承継されるほうがよいのか?言い換えると.「明け渡し時に誰から敷金を返してもらうのが賃借人にとって有利か?」

旧賃貸人は建物を新賃貸人に売却して賃貸借契約から離脱しています。もう建物所有者ではなく、貸主でもない。建物を処分した後どこかに行方不明になっているかもしれません。処分するくらいだからお金に困っているのかもしれません。そんな旧賃貸人から敷金を返してもらえますか?行方不明の旧貸主を探しだす?お金に困っている旧貸主が返してくれる?

そもそも賃貸人の地位の移転というのは賃貸人側の事情です。なぜ、賃貸人側の事情で賃借人がそんな不利益を受けないといけないのでしょう?賃借人としては理不尽な話です。

賃借人にとっては賃貸借契約から離脱してしまった旧賃貸人からより新しい賃貸人から返還してもらうほうがいいですよね。たとえ、旧貸主が敷金を持ち逃げしたとしても、そんなこと賃借人の知ったことじゃありません。「知るかよ、新賃貸人さん、あなたが返してよ。」それがいいですよね。旧貸主が敷金を持ち逃げしたリスクは新賃貸人側で負担するべきです。

そういうわけで、判例(最判昭和44年7月17日)も次のように言います。

敷金は、賃貸借契約終了の際に賃借人の賃料債務不履行があるときは、その弁済として当然これに充当される性質のものであるから、建物賃貸借契約において該建物の所有権移転に伴い賃貸人たる地位に承継があった場合には、旧賃貸人に差し入れられた敷金は、賃借人の旧賃貸人に対する未払賃料債務があればその弁済としてこれに当然充当され、その限度において敷金返還請求権は消滅し、残額についてのみその権利義務関係が新賃貸人に承継され

*2020年4月1日施行の改正民法により

「賃貸人の地位の移転」に伴う敷金関係の承継の有無については605条の2第4項で明文化されました。

(不動産の賃貸人たる地位の移転)
第六百五条の二 前条、借地借家法(平成三年法律第九十号)第十条又は第三十一条その他の法令の規定による賃貸借の対抗要件を備えた場合において、その不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人に移転する
2 前項の規定にかかわらず、不動産の譲渡人及び譲受人が、賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨及びその不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意をしたときは、賃貸人たる地位は、譲受人に移転しない。この場合において、譲渡人と譲受人又はその承継人との間の賃貸借が終了したときは、譲渡人に留保されていた賃貸人たる地位は、譲受人又はその承継人に移転する。
3 第一項又は前項後段の規定による賃貸人たる地位の移転は、賃貸物である不動産について所有権の移転の登記をしなければ、賃借人に対抗することができない。
4 第一項又は第二項後段の規定により賃貸人たる地位が譲受人又はその承継人に移転したときは、第六百八条の規定による費用の償還に係る債務及び第六百二十二条の二第一項の規定による同項に規定する敷金の返還に係る債務は、譲受人又はその承継人が承継する

よろしいでしょうか?

「賃借人の地位の移転」の場合(否定)と「賃貸人の地位の移転」の場合(肯定)とで結論が逆になります

何度も何度も納得して頭に入れてしまいましょう。決して暗記しようなどと思わないこと。どっちがどっちだか必ず忘れますから。

ということで、肢2は「賃借人の地位の移転」の場合ですから、敷金関係は承継されません。承継されないのですから、敷金は旧賃借人に返還されます。これが正解。

肢5は「賃貸人の地位の移転」の場合ですから、逆に、敷金関係は承継されます。承継されるのですから、敷金の返還義務は新賃貸人が負います。誤り。

以上、【当事者の地位の移転と敷金関係の承継の有無】の判例でした。

肢3&肢4、賃貸借契約の終了と転借人の地位

適法な転借人がいる事例で、賃貸借契約が終了した場合、転借人の地位はどうなるのか?

ちょっと細かい知識ではありますけど、一度、押えてしまえば何てことない知識です。

まず、原則型として、賃貸借契約が「期間満了で終了」or「債務不履行解除」で終了した場合、転貸借も同時に終了します。例えるなら、「親亀コケると子亀もコケる。」

分かりにくいですか?。。親亀が賃貸借契約で、その上に乗っかっている子亀が転貸借。親亀の賃貸借契約が「期間満了」や「債務不履行解除」でコケた(終了した)時は、上に乗っかっている子亀もコケる(終了する)。これが原則型です。転貸借は賃貸借契約を前提としているということです。

これに対して、「合意解除」というのは特殊な例外となります。つまり、賃貸借契約が「合意解除」で終了した場合には、その解除を転借人に対抗できない、つまり、合意解除では子亀はコケないのです。

なぜでしょう?「合意解除」とは、期間満了してないのに、債務不履行もないのに、つまり、終了の理由がないのに、賃貸人と賃借人が合意して(申し合わせて)解除することです。

これを転借人にも対抗できるとしたらどうなりますか?転借人を追い出したい、でも、賃料の未払いもないし、きれいに使ってるし、追い出す正当な理由がない。じゃあ、賃貸人と賃借人で申し合わせて賃貸借契約を合意解除してしまえばいいじゃん。そういうことが可能となってしまいます。それは不当ですよね。信義則に反します。

そこで、「合意解除」は当事者以外の第三者(ここでは転借人)には対抗できないとされています。賃貸借には直接定めた条文はありませんけど、そういう趣旨の条文は民法に存在します。第398条や第538条です。

(抵当権の目的である地上権等の放棄)
第三百九十八条  地上権又は永小作権を抵当権の目的とした地上権者又は永小作人は、その権利を放棄しても、これをもって抵当権者に対抗することができない

(第三者の権利の確定)
第五百三十八条  前条の規定により第三者の権利が発生した後は、当事者は、これを変更し、又は消滅させることができない

(第三者のためにする契約)
第五百三十七条  契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する
2  前項の場合において、第三者の権利は、その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する

判例(最判昭和31年4月5日)も次のように言います。

「合意解除においては、賃借人において自らその権利を放棄したことになるのであるから、これをもって第三者に対抗し得ないものと解すべきであり、このことは民法第398条、民法第538条の法理からも推論することができるし、信義誠実の原則に照しても当然のことだからである。」

「合意解除」を自由に認めてしまったら転借人を正当な理由もなく追い出すことが可能となってしまい不当!そういう趣旨の判例です。そりゃそうだと納得して覚えてしまいましょう。

ということで、肢3は「合意解除」の事例ですから、転借人に対抗できません。建物の明け渡しを求めることはできないので、誤り。

これに対して、肢4は「債務不履行解除」の事例ですから、原則型ということで、親亀コケると子亀もコケます。転貸借も終了するので、建物の明け渡しを求めることが出来ます。よって誤り。

以上から、正解は肢2です

まとめ

本問は敷金の2つの判例を問う問題でした。

敷金自体、なかなかそこまで手が回らないところでもあり、難度高めの問題ではあります。ただ、それゆえに、問われる知識は限られてきます。基本の判例は1つか2つ。それを何度も何度も納得して押えてしまえば、むしろ得点源とすることが出来ます。

判例に強くなれば記述式にも強くなれます。判例に強くなること、イコール民法に強くなること、イコール点を稼げる!基本判例をものにして民法で点を稼いでしまいましょうね。

今回は、以上です。

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