今回は、「賃貸借契約における転借人の地位」について、書いてみようと思います。
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賃貸借契約は、民法の中でも重要かつボリュームのある部分で、多くの論点&判例のあるところです。
そんななかで、ちょこちょことですけど「転借人の地位」が問題となる場面が出てきます。
ちょこちょこと顔を出す程度で、大論点というわけではありません。
「転借人の地位」なんていうと、重箱の隅をつつくような細かな知識のようで、そこまで目が届かなかったり、目が届いてもそこまで頭に入れる余裕がなくて、「目は通したんだけどな。。?」状態だったり。。
そこで、こういった隅っこ知識は一か所にまとめておいて、スジの通った理解のもとに頭に入れてしまうのがいいんじゃないかなと思って、ここに書いておきます。
難しいことではなくて、これまで記事に書いたことの再確認だったりします。
まとめておくという趣旨ですので、気軽に読んでもらえたらと思います。
場面は以下の通り。
1)無断(賃貸人の承諾のない)転貸借における転借人の地位
2)適法な(賃貸人の承諾のある)転貸借における転借人の地位
3)原賃貸借契約が終了した場合における転借人の地位
ア、期間満了による終了の場合
イ、債務不履行解除による終了の場合
ウ、合意解除による終了の場合
では、それぞれについて、みていきましょう。
1)無断(賃貸人の承諾のない)転貸借における転借人の地位
(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
第六百十二条 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
2 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。
「賃借物の無断転貸」を考える際の思考順序としては、
ⅰ、そもそも612条にいう無断で賃借物を「転貸」したといえるのか?→ yesとして、
ⅱ、承諾なく無断転貸されたときは、賃貸人は、賃貸借契約を無催告で解除できる(2項)。ただし、「信頼関係理論」により解除を制限される(詳しくは後述)。つまり、、
→ 「賃貸人に対する背信的行為と認めるにたらない特段の事情」があるときは、賃貸人は解除不可。
→ 「賃貸人に対する背信的行為と認めるにたらない特段の事情」がないとき、初めて賃貸人は解除可。
となります。
ⅰ、そもそも無断「転貸」したといえるのか?について
まず、大前提として、「転貸」したといえるには、「現実に転借人に賃借物の使用・収益をさせること」が必要です。「転貸借契約を結んだだけ」では足りません。
612条2項にも、「前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは」とありますね。
現実に使用・収益させて初めて、賃貸人の信頼を裏切った、「あんなやつに貸した覚えはないぞ」ということになるわけです。
その上で問題となる場面として、
- ①土地の賃貸借契約をAB間で締結し、賃借人Bが土地上に建物を建造。その建物がCに売却された場合、これが土地の「転貸」にあたるのか?
- ②①と同じ土地の賃貸借契約の事例で、賃借人Bが建造した建物がCに賃貸された場合、これが土地の「転貸」にあたるのか?
- ③①と同じ土地の賃貸借契約の事例で、賃借人Bが建造した建物に譲渡担保権が設定された場合はどうか?
①の場合は「転貸」にあたります。
建物は、C所有です。建物は土地の利用権なくして存立できませんから、建物所有権が移転したときは、建物所有権の「従たる権利」として土地の利用権も移転します。87条2項類推適用とされていますね。
(主物及び従物)
第八十七条 物の所有者が、その物の常用に供するため、自己の所有に属する他の物をこれに附属させたときは、その附属させた物を従物とする。
2 従物は、主物の処分に従う。
従って、建物所有権を取得したCは、土地の利用権も取得。612条にいう「転貸」があったとされてしまいます。
これに対して、
②の場合は「転貸」にはあたりません。
Cは、借地上の建物を借りただけです。この場合、建物は、借地人B所有のままですね。つまり、土地を使用しているのは、B所有の建物なんですね。
たしかに、Cは、建物に住んで日常的に土地を使っているわけですけど、それは建物を借りて住んで生活している反射的効果として使えているだけで、土地の独立の使用収益権はないのです。借家人にすぎないのであって土地まで借りたわけではない、ということです。
①と②の違いは、「借地上のB建造の建物の売却(所有権移転)の事案か、建物の賃貸の事案か」つまり「Cが土地を独立に使用・収益しているといえるか否か」の違いです。
で、
③借地上のB建造建物に譲渡担保権が設定された場合(担保権者C)は、ちょっと面白いことになります。
①で、借地上の建物の所有権移転の場合は、土地利用権もCに移転して「転貸」にあたると書きました。建物所有権の「従たる権利」、87条2項類推適用でしたね。
この点、譲渡担保権というのは、担保のために所有権を債権者に移転するものです。とすると、建物に譲渡担保権が設定された場合、建物所有権は債権者(C)に移転するわけですから、土地利用権もCに移転して「転貸」にあたる、となりそうですよね。
ただ、譲渡担保権というのは、担保のために「形式的に」所有権を移転させるものにすぎません。建物は、債務者が依然として占有しているのが普通です。
この点は、抵当権と同じです。抵当権では、抵当権者が建物を占有したりしませんね。抵当権を実行して、競売にかけて、初めて占有を取得します。「非占有担保」といわれます。譲渡担保権も「非占有担保」なのです。
で、「転貸」にあたるには、「現実に使用・収益させること」が必要でした。である以上、「非占有担保」である譲渡担保権を設定しただけでは、まだ「転貸」したとはいえないわけです。
繰り返しますね。
譲渡担保権では、「形式的に」建物所有権が移転するだけで、「現実の使用・収益」はないから、「転貸」にあたらない、というわけです。
ちょっと面白いでしょ?
で、これで終わりません。
譲渡担保権は「非占有担保」だから「転貸」にはあたらないけど、でも、「現実に譲渡担保権者が建物の引き渡しをうけて建物を使用していた場合」(あるんですね。判例で問題となった事例です)その場合は、「形式的に建物所有権はCに移転していて、かつ、現実に建物の使用もCがしている」わけですから、これはもう「転貸」にあたるわけです。
頭の体操になりそうな、ちょっと面白い事案です。最判平成9年7月19日の事案です(少しシンプルにしてあります)。
ということで、無断「転貸」にあたるか?→YES.の場合には、
ⅱ、賃貸人は賃貸借契約を無催告で解除することができます(2項)。ただし、「信頼関係理論」により解除は制限されます。
「信頼関係理論」については、以前の記事/『民法177条「第3者」とは?基本は正確に!というお話。』の中で書きました。
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小難しい言い回しをしている判例って、結構あります。
例えば、賃借権の無断譲渡、無断転貸の事例で、賃貸人の解除権の行使を制限する判例があります。
判例は次のようにいっています。
賃借人が賃貸人の承諾なく第三者をして賃借物の使用または収益をなさしめた場合でも、賃借人の当該行為を賃貸人に対する背信的行為と認めるにたらない特段の事情があるときは、賃貸人は契約を解除することはできない。
ややこしいですね^^;
条文上は、賃借権の無断譲渡、無断転貸があった場合、賃貸人は、原則として解除できます。
(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
第六百十二条 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
2 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。
ただ、賃借人の方にも、事情があってやむを得ないこともあります。例えば、「妻子に又貸しした形にして自分も引き続き同居していた」という事例があります。このような場合、利用実態に変化は無くて、賃貸人に何の損害も生じないのに、形式的に解除を認めていいのかと。。賃借人の立場は弱いから守ってあげないと。。そんなことから、解除に制限を加えました。
つまり、、
賃貸借契約は、「当事者間の信頼関係を基礎とする継続的な契約関係」です。「この人なら信頼できるから貸してもいいや」という契約で、一回だけでなく継続的に続いていく契約です。
であれば、「信頼関係が破壊されていない限り、解除を認める必要はないでしょ」と。「賃貸人に何の損害も生じないのなら、解除させる必要はないでしょ」と。「信頼関係理論」と言われます。
「信頼関係を破棄する背信行為がない段階では、解除を認めないよ。」そんな理論です。
これを判例は
「賃貸人に対する背信的行為と認めるにたらない特段の事情があるときは、賃貸人は契約を解除することはできない」
と言っているのです。「たらない特段の事情があるときは~解除~できない」。ホントややこしいですね。
よろしいでしょうか。もう一度確認します。
賃借権の無断譲渡、無断転貸があった場合、賃貸人は、原則として解除できる(612条2項)。ただし、賃貸人に対する背信的行為と認めるにたらない特段の事情があるときは、賃貸人は、契約を解除することはできない。
こういう判例の小難しい(ややこしい)言い回しというのは、記述式でそのまま書かされたりします。そういうものを全部書き出しておいて、記述式用に書けるように覚えてしまうことはとても有効な方法だと思います。
で、
→「賃貸人に対する背信的行為と認めるにたらない特段の事情」があって、解除不可のとき
この場合は、賃貸人の承諾がある場合と同じです。Cには、適法な転借人としての地位が認められます。これについては2)で後述します。
→「賃貸人に対する背信的行為と認めるにたらない特段の事情」がないとき、初めて解除が可能となります。(*否定の否定は、肯定です。つまり、「賃貸人に対する背信的行為と認められる」とき)
この場合、賃貸人Aは、賃貸借契約を解除可能です。
でも、「BC間の無断転貸借契約自体」は、債権的に有効です。なぜなら、他人物売買であっても債権的には有効ですよね。この560条が559条によって準用されます。
つまり、賃貸人Aの承諾のない無断転貸借は、他人物賃貸と同じということです。Bは、Aの承諾を得る義務を負います。承諾を得られないときは担保責任を負います(559条561条)。
(有償契約への準用)
第五五九条 この節の規定は、売買以外の有償契約について準用する。ただし、その有償契約の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
第二款 売買の効力
(他人の権利の売買における売主の義務)
第五六〇条 他人の権利を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。
(他人の権利の売買における売主の担保責任)
第五六一条 前条の場合において、売主がその売却した権利を取得して買主に移転することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の時においてその権利が売主に属しないことを知っていたときは、損害賠償の請求をすることができない。
BC間は有効だとしても、「Aとの関係」は別です。Aの承諾がなく、かつ、「賃貸人に対する背信的行為と認めるにたらない特段の事情」もないわけですから、Cは、転借権をAに対抗できません。
Aは、Cに対して、土地所有権に基づいて妨害排除請求をすることができます。「土地から出ていき、明け渡せ」と請求できます。
この請求は、AB間を解除しなくてもできます。なぜなら、Cは、Aの承諾なく無断で土地を使用している以上、Aからすれば、不法占拠者なのですね。AB間を解除したか否かは関係ないのです。この点はちょっと注意です。AB間を解除しなくても「出て行け」と言える!ここは判例もあり、問われる可能性があります。細かいようですけど、そりゃそうだと納得した上で覚えてしまいましょう。
2)適法な(賃貸人の承諾のある)転貸借における転借人の地位
この場合、「転貸人Bと転借人Cの関係」は、普通の賃貸借契約関係とほぼ同じです。
これに対して、「賃貸人Aと転借人Cとの間」には、契約関係はありません。にもかかわらず、613条で、「転借人は、賃貸人に対して直接に義務を負う」と規定されています。ここは注意したい、つまり出題されるところです。
(転貸の効果)
第六百十三条 賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人に対して直接に義務を負う。この場合においては、賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができない。
2 前項の規定は、賃貸人が賃借人に対してその権利を行使することを妨げない。
契約はないけど、「直接に」「義務を負う」のです。権利はありません!(ここ注意!)
「賃貸人と転借人との間」に契約関係はありません。契約はないのだから、権利義務関係はないはずです。
ただ、全くの無関係というわけではなくて、転借人は、賃貸人の承諾を得た上で賃貸人所有の不動産を現実に使用している、という事実関係はあるわけです。
そこで、転借人は、現実に使用収益している者として、賃貸人に対して「直接に義務を負う」べきではないか、それが賃貸人の利益保護になるのではないか。そんな趣旨の規定です。
そうなると、転借人は、1,転貸借契約に基づいて、「転貸人(賃借人)に対して」契約上の権利を有し義務を負う。かつ、2,契約関係はないけれど、「賃貸人に対して」「直接に義務を負う」。つまり、ダブルの義務を負っていることになります。
転借人の負う具体的な義務
転借人が負っている義務は、賃料支払義務(601条)、用法に従って使用する義務(616条594条1項)、目的物返還義務(616条597条1項)、付属物収去義務(616条598条)です。
(賃貸借)
第六百一条 賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
(使用貸借の規定の準用)
第六百十六条 第五百九十四条第一項、第五百九十七条第一項及び第五百九十八条の規定は、賃貸借について準用する。
第五百九十四条 借主は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用及び収益をしなければならない。
(借用物の返還の時期)
第五百九十七条 借主は、契約に定めた時期に、借用物の返還をしなければならない。
(借主による収去)
第五百九十八条 借主は、借用物を原状に復して、これに附属させた物を収去することができる。
転借人は、「賃貸人に対して」は、賃貸人の利益保護の観点から「直接に(上のような)義務を負う」のみであって、契約関係はない以上、権利はありません。転借人は、賃貸人に対して、修繕を求めたり、費用償還を請求したりすることはできないのです。
でも、実際に住んでいる転借人としては、「雨漏りするから直してくださいよ」とか、所有者である賃貸人にいいたいですよね。その場合はどうするのか?
そのときは、「転貸人(賃借人)が賃貸人に対して有する修繕請求権(606条1項)」を使わせてもらう方法があります。。
つまり、賃貸人は、賃借人に対して「賃貸借契約に基づく目的物の修繕義務」を負っています。賃借人からすれば、「修繕請求権」がある。賃借人がこれを行使してくれないときは、転借人が自ら、「賃借人の有する修繕請求権を代位行使する」という方法があるのです(423条)。
(賃貸物の修繕等)
第六百六条 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。
(債権者代位権)
第四百二十三条 債権者は、自己の債権を保全するため、債務者に属する権利を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利は、この限りでない。
2 債権者は、その債権の期限が到来しない間は、裁判上の代位によらなければ、前項の権利を行使することができない。ただし、保存行為は、この限りでない。
転借人は、「賃貸人に対する権利」はもっていないけど、「賃借人が賃貸人に対してもっている権利」を代位行使する手はあるよ。というわけです。
ダブルの義務
転借人は、転貸人と賃貸人の双方に対してダブルで義務を負っています。
でも、ダブルで賃料を支払う義務は、ありません。2倍支払うわけではありません。
また、目的物の返還義務も、一方に返還すればそれでOKのはずです。
つまり、転借人としては、転貸人と賃貸人の双方に義務を負うけれど、どちらか一方に義務を履行したときは、他方に対する義務を免れることができます。
例えば、転借人は、賃貸人に直接賃料を支払えば、転貸人に対する賃料支払義務を免れます。
また、転借人は、転貸人に目的物を返還すれば、賃貸人に対して直接返還する義務を免れます。
ただ、一点、「転借人は、“賃料の前払い”をもって賃貸人に対抗することはできない」と、されています。
(転貸の効果)
第六百十三条 賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人に対して直接に義務を負う。この場合においては、賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができない。
つまり、転借人は、賃貸人に対して、「賃料はすでに転貸人(賃借人)に前払い(契約に定められた弁済期より前の支払い)をしました」ということをいえないのです。
なぜでしょう?
賃貸人が、転借人に対して、直接賃料支払いを求める場合というのは、「賃借人が賃料を支払ってくれないから‥」そんな場合が考えられます。
賃借人がお金に困っている。。お金が必要な賃借人は、転借人に賃料の前払いを頼んでいることも、十分ありえます。この時、賃貸人が、「賃借人は支払えそうにないから、転借人に対して直接賃料支払いを求めよう」と請求したら、転借人から「もう転貸人(賃借人)に賃料前払いしてしまいました。半年分の賃料を‥」とかいわれて支払ってもらえなかった。。賃貸人は結局、誰からも賃料を支払ってもらえない‥?
それでは、「転借人は、賃貸人に対して直接に義務を負う」と規定して賃貸人の利益保護を図ろうとした613条の意味がなくなってしまいますよね。
そこで、「賃料の前払いの言い訳はさせないよ」としたわけです。
対抗できないのは「前払い」のみであって、正規にというか、「弁済期に賃料を転貸人(賃借人)に支払い済み」という場合は、これを賃貸人に対しても対抗することができます。つまり、賃貸人に対する賃料支払義務を免れます。二重払いの義務まではありませんからね。
以上のように、「承諾を得た適法な転借人の地位」には、ちょっとした特殊性があるのです。
3)原賃貸借契約が終了した場合における転借人の地位:ア、期間満了による終了の場合。イ、債務不履行による終了の場合。ウ、合意解除による終了の場合。
これについては、「当事者の地位の移転と敷金関係の承継の有無」で書きました。
⚪︎
適法な転借人がいる事案で、基本賃貸借契約が終了した場合、転借人の地位はどうなるのでしょう?
まず、原則型として、基本賃貸借契約が、
ア、期間満了で終了した場合
イ、債務不履行解除で終了した場合
この場合は、転貸借契約も、同時に終了します。
例えるなら、「親亀コケると子亀もコケる」。分かりにくいですか?。。
親亀が基本賃貸借契約で、その上に乗っかっている子亀が転貸借契約。親亀の基本賃貸借契約が期間満了や債務不履行解除でコケた(終了した)時は、上に乗っかっている子亀の転貸借契約もコケる(終了する)。これが原則型です。
つまり、転貸借契約は、基本賃貸借契約を前提としている、ということです。
これに対して、
ウ、合意解除で終了した場合
合意解除の場合は、特殊な例外となります。
つまり、基本賃貸借契約が合意解除で終了した場合には、「合意解除を転借人に対抗することができない」つまり、「合意解除では子亀はコケない」とされています。
なぜでしょう?
なぜなら、、
合意解除とは、期間満了してないのに、債務不履行もないのに、つまり、終了の理由がないのに、「賃貸人と賃借人が合意して(申し合わせて)基本賃貸借契約を解除すること」です。
これを転借人にも対抗できるとしたらどうなりますか?
「転借人を追い出したい、でも、賃料の未払いもないし、きれいに使ってるし、追い出す正当な理由がない‥じゃあ、賃貸人と賃借人で申し合わせて基本賃貸借契約を合意解除してしまえばいいじゃん!」そういうことが可能となってしまいます。それは不当ですよね。
そこで、「賃貸人と賃借人による基本賃貸借契約の合意解除は、当事者以外の第三者(ここでは転借人)に、対抗することができない」と解することで、転借人の保護が図られています。
賃貸借の条文には、これを直接定めた規定はありませんけど、そういう趣旨の条文は、民法に存在します。398条や538条です。
(抵当権の目的である地上権等の放棄)
第三百九十八条 地上権又は永小作権を抵当権の目的とした地上権者又は永小作人は、その権利を放棄しても、これをもって抵当権者に対抗することができない。
(第三者の権利の確定)
第五百三十八条 前条の規定により第三者の権利が発生した後は、当事者は、これを変更し、又は消滅させることができない。
(第三者のためにする契約)
第五百三十七条 契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。
2 前項の場合において、第三者の権利は、その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。
判例(最判昭和31年4月5日)も、次のようにいっています。
「合意解除においては、賃借人において自らその権利を放棄したことになるのであるから、これをもって第三者に対抗し得ないものと解すべきであり、このことは民法第398条、民法第538条の法理からも推論することができるし、信義誠実の原則に照しても当然のことだからである。」
(基本原則)
第一条
2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
398条には、「その権利を放棄しても」と書かれています。したがって、賃借人が「賃借権を放棄しても」、「これをもって転借人に対抗することができない」と推論できそうです。
で、合意解除というのは、賃借人からすれば「賃借権を放棄した」ことを意味する、といえますから、「合意解除をもって転借人に対抗することができない」と推論できそうです。
「合意解除の対抗を認めてしまったら、転借人を正当な理由もなく追い出すことが可能となってしまい不当!信義誠実の原則に照しても許せない!」そういう趣旨の判例といえそうです。そりゃそうだと納得して覚えてしまいましょう。
(参照:【完全版】「基本賃貸借契約が終了した場合における転借人の地位」)
まとめ
「転借人の地位」について、まとめてみました。
こういうマイナーな部分について、きちんと納得したうえで頭に入れる、という作業をすると、基本的な知識についての理解が深まる、という副産物があったりするものです。
バラバラの箇所にあるものを、ここにまとめてみましたので、一貫性のある理解のもと、「そりゃそうだろうなあ」と納得して頭に入れてしまうことをお勧めします。
今回は、以上です。
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→・【完全版】「基本賃貸借契約が終了した場合における転借人の地位」
これを書いたひと🍊