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信義誠実の原則(民法1条)-賃借人の更新拒絶による賃貸借契約の終了と転借人への対抗(最高裁平成14年3月28日判決)をわかりやすく

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転借人の地位

民法判例百選Ⅰ[第8版] No.3 信義則~賃貸借契約の終了と転借人への対抗 (最高裁平成14年3月28日)

今回は、信義則の判例。

賃貸借の事案です。

以前、『賃貸借契約における転借人の地位まとめ』という投稿を書きました。

今回の判例は、この投稿の中の、場面③「基本賃貸借契約が終了した場合における転借人の地位」を補完する判例になります。

そこで、今回の投稿は、

【完全版】「基本賃貸借契約が終了した場合における転借人の地位」

ということで、書こうとおもいます。

photo credit: huub zeeman Amsterdam, Vijzelstraat - 2017 via photopin (license)

原則論と問題意識

まず、原則論です。 転貸借契約は、基本賃貸借契約の存在を前提としています。 したがって、基本賃貸借契約が終了したときは、転貸借契約は、その存在の前提を失うことになり、その結果、転借人は、その地位を、基本賃貸借契約の賃貸人に対抗できなくなってしまいます。例えると、「親亀コケると子亀もコケる」。。これが、原則論です。 ただ、転借人にとって借りている土地や建物の利用は、その生活や事業の基盤をなすものであることを考えると、場面によっては、「子亀もコケる」‥と簡単に切り捨てることなく、「転借人の保護」を図る必要もあるのではないか。これが、問題意識です。 この原則論と問題意識をおさえた上で、「基本賃貸借契約の終了原因」ごとに場合分けをして、順番にみていくことにしましょう。

基本賃貸借契約の終了原因ごとの場合分け

「基本賃貸借契約の終了原因」ごとに、場合分けします。
ア、期間満了による終了の場合 イ、債務不履行解除による終了の場合 ウ、合意解除による終了の場合 エ、賃貸人の更新拒絶または解約申入れによる終了の場合 オ、賃借人の更新拒絶による終了の場合(今回の判例)
では、順番に、みていきましょう。

適法な転借人がいる事案で、基本賃貸借契約が終了した場合、転借人の地位はどうなるのでしょう?

まず、原則型として、基本賃貸借契約が、 ア、期間満了で終了した場合 イ、債務不履行解除で終了した場合 この場合は、転貸借契約も、同時に終了します。 例えるなら、「親亀コケると子亀もコケる」。分かりにくいですか?。。 親亀が基本賃貸借契約で、その上に乗っかっている子亀が転貸借契約。親亀の基本賃貸借契約が期間満了や債務不履行解除でコケた(終了した)時は、上に乗っかっている子亀の転貸借契約もコケる(終了する)。これが原則型です。 つまり、転貸借契約は、基本賃貸借契約を前提としている、ということです。 これに対して、

ウ、合意解除で終了した場合

合意解除の場合は、特殊な例外となります。つまり、基本賃貸借契約が合意解除で終了した場合には、「合意解除を転借人に対抗することができない」つまり、「合意解除では子亀はコケない」とされています。 なぜでしょう? なぜなら、、 合意解除とは、期間満了してないのに、債務不履行もないのに、つまり、終了の理由がないのに、「賃貸人と賃借人が合意して(申し合わせて)基本賃貸借契約を解除すること」です。これを転借人にも対抗できるとしたらどうなりますか? 「転借人を追い出したい、でも、賃料の未払いもないし、きれいに使ってるし、追い出す正当な理由がない‥じゃあ、賃貸人と賃借人で申し合わせて基本賃貸借契約を合意解除してしまえばいいじゃん!」そういうことが可能となってしまいます。それは不当ですよね。 そこで、「賃貸人と賃借人による基本賃貸借契約の合意解除は、当事者以外の第三者(ここでは転借人)に、対抗することができない」と解することで、転借人の保護が図られています。賃貸借の条文には、これを直接定めた規定はありませんけど、そういう趣旨の条文は、民法に存在します。398条や538条です。
(抵当権の目的である地上権等の放棄) 第三百九十八条 地上権又は永小作権を抵当権の目的とした地上権者又は永小作人は、その権利を放棄しても、これをもって抵当権者に対抗することができない。 (第三者の権利の確定) 第五百三十八条 前条の規定により第三者の権利が発生した後は、当事者は、これを変更し、又は消滅させることができない。 (第三者のためにする契約) 第五百三十七条 契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。 2 前項の場合において、第三者の権利は、その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する
判例(最判昭和31年4月5日)も、次のようにいっています。
合意解除においては、賃借人において自らその権利を放棄したことになるのであるから、これをもって第三者に対抗し得ないものと解すべきであり、このことは民法第398条、民法第538条の法理からも推論することができるし、信義誠実の原則に照しても当然のことだからである。」 (基本原則) 第一条 2  権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない
398条には、「その権利を放棄しても」と書かれています。したがって、賃借人が「賃借権を放棄しても」、「これをもって転借人に対抗することができない」といえそうです。 で、合意解除というのは、賃借人からすれば「賃借権を放棄した」ことを意味する、といえますから、「合意解除をもって転借人に対抗することができない」といえます。 「合意解除の対抗を認めてしまったら、転借人を正当な理由もなく追い出すことが可能となってしまい不当!信義誠実の原則に照しても許せない!」そういう趣旨の判例といえそうです。そりゃそうだと納得して覚えてしまいましょう。 (参照:賃貸借契約における転借人の地位まとめ)

エ、賃貸人の更新拒絶または解約申入れによる終了の場合

この場合は、借地借家法6条28条をそのまんま当てはめるだけのことです。
(借地契約の更新拒絶の要件) 第六条  前条の異議は、借地権設定者及び借地権者(転借地権者を含む。以下この条において同じ。)が土地の使用を必要とする事情のほか、借地に関する従前の経過及び土地の利用状況並びに借地権設定者が土地の明渡しの条件として又は土地の明渡しと引換えに借地権者に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、述べることができない。 (建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件) 第二十八条  建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない
条文に、「転借地権者を含む」「転借人を含む」とありますね。つまり、賃貸人による更新拒絶・解約申入れの「正当の事由」の有無の判断のなかで、「転借人の事情」も考慮されることで、転借人の保護が図られるわけです。ここは条文そのまんま。 問題は、

オ、賃借人の更新拒絶による終了の場合

ここが、今回の判例の事案です。 借地借家法6条28条は、地主や家主の側の更新拒絶の条文ですから、ここでは適用はありません。 たしかに、借地借家法34条という条文はあります。
(建物賃貸借終了の場合における転借人の保護) 第三十四条  建物の転貸借がされている場合において、建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了するときは、建物の賃貸人は、建物の転借人にその旨の通知をしなければ、その終了を建物の転借人に対抗することができない。 2  建物の賃貸人が前項の通知をしたときは、建物の転貸借は、その通知がされた日から六月を経過することによって終了する。
でも、「終了しますよ」旨の通知をしなければいけない、というだけで、転借人の保護としては十分ではありません。 「こういう場面では、転借人の保護を図るべきでしょ‥」そんな場面もありそうです。。 保護を図る‥どうやって‥? 判例はどうしたかというと‥ 原則は、「親亀コケると子亀もコケる」です。
ただし、「具体的な事実関係によっては、賃貸人は、信義則上、賃貸借の終了をもって転借人に対抗することはできない」と構成して、転借人の保護を図りました。
(基本原則) 第一条 2  権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない
で、「具体的な事実関係」として、判旨は次のことを挙げています。
賃貸人は、転貸借を承認したにとどまらず、転貸借の締結に加功し、転借人による転貸部分の占有の原因を作出した
そんな事情のある賃貸人が、「賃借人が更新拒絶したから、転借人さんも出てってね」とか言うのは、「信義則上、許されないよ!」と判断しました。
百選の解説では、これを一般的な規準に言い換えて、次のように書かれています。 「賃貸人が転貸借の締結に積極的に関与したと認められる特段の事情があるときは、賃貸人は、信義則上、賃貸借の終了をもって転借人に対抗することはできない」 賃貸人が自ら転貸借の契約に積極的に関わっておきながら、中間の賃借人が「私、抜けますね。」と抜けちゃったから、転借人さん、あなたも出てってね。っていうのは、勝手すぎでしょう、、そんな感じです。 実は、今回の判例の事案は、サブリースの事案です。つまり、賃借人は、ビルを管理する会社で、自らは住んだりせず、一括して借り上げて、それを第三者に転貸しするだけ。最初から、住んだり使用したりするのは転借人であることを予定している、そんな事案です。賃貸人も、最初から、「使用するのは転借人だ」と、認識しているのです。 そういうサブリースの事案ではあるものの、一般化して、上記のように、「賃貸人が転貸借の締結に積極的に関与したと認められる特段の事情があるときは、賃貸人は、信義則上、賃貸借の終了をもって転借人に対抗することはできない」と読むこともできるでしょ、ということです。 そうだろうなあ、と納得しておけば、OKだとおもいます。 以上、賃貸借契約における転借人の地位まとめの投稿と合わせて、【完全版】転借人の地位 でした。 ○ 今回は、以上です。 ○ ○ これを書いたひと🍊

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