民法判例百選Ⅰ[第8版] No.8 権利能力なき社団の成立要件 (最判昭和39年10月15日) N0.9 取引上の債務 (最判昭和48年10月9日) No.78 不動産の登記名義 (最判平成6年5月31日)
今回は、「権利能力なき社団」のお話です。
No.8とNo.9とNo.75、まとめてみてしまいましょう。
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photo credit: Spencer Means The house with green shutters, Saint-Saturnin-lès-Apt, Provence, France via photopin (license)
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権利能力なき社団の問題は、大雑把にいうと、《どのような団体が、どのような場合に、どのように権利を取得し、義務を負担するのか?》という問題です。
ここでの大事な視点は、社団に対比される概念である、組合との比較です。
「社団と組合の比較」の視点
「社団の構成員」は、直接には責任を負わない。
「権利能力なき社団」というのは、法人格を取得していないので、「権利能力はない」(権利義務の帰属主体になれない)けれど、団体としての組織をもっている「社団」のことですよね。
「社団」って何でしょう?
「組合」とどこが違うのでしょう?
いわゆる、「社団と組合の峻別論」というやつです。判例はこの立場に立っているとされています。
社団と組合の峻別論
両方とも、一定の目的をもった人の集団です。
その差は、結局、実体の程度の違いにすぎません。
社団としての社会的実体(組織)をもっているのが「社団」である。
それを判例は次のようにいいます。
①団体としての組織をそなえ、そこには②多数決の原則が行なわれ、③構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、しかして④その組織によつて代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているものでなければならない
「構成員の個性が重視されるか否か」とかもいわれますよね。
「構成員の個性」とは、誰が構成員であるのか、要するに、その構成員が資産を持っているお金持ちなのか否か、のことです。
言い換えれば、
債権者が、最終的に、構成員の財産による弁済をあてにして取引に入るのが、組合。その意味で、「構成員の個性」が重視される。
債権者が、組織の整備された社団の財産による弁済をあてにして取引に入るのが、社団。その意味で、「構成員の個性」は重視されません。判例も、”構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し”といっています。債権者からすれば、ある構成員が、一身上の都合により辞めてしまっても、いちいち気にしないよ、そんな感じです。
権利能力なき社団は、法人格はないので、形式的には、社団自体に財産帰属とはいえませんけど、実質的には、構成員の財産とは独立した社団自体の財産があって、債権者は社団の財産をあてにして取引に入るわけです。それを法律的にいうと、財産は構成員の総有に属する、社団の総有財産である、そういわれます。
総有?わかったようでよくわからない概念ですよね。
所有ではないから、構成員には、持分権とか分割請求権なんてありません。つまり、社団の構成員は、債権者に対して個人的な債務・責任を負わないし、社団の総有財産について持分権も分割請求権もありません。ないない、なのです。
「社団」というのは、ないない、なのです。
「社団」であるということは、構成員は個人的な責任を負わないし、持分権も分割請求権もない、社団とはそういうものだと。これを判例は次のようにいっています。
権利能力のない社団の代表者が社団の名においてした取引上の債務は、社団の構成員全員に一個の義務として総有的に帰属し、社団の総有財産だけがその責任財産となり、構成員各自は、取引の相手方に対し個人的債務ないし責任を負わない(NO.9判例)
取引相手としては、組織をもった社団と取引しているのであって、社団の財産を信頼して取引しているのですね。
社団法人と権利能力なき社団と組合の比較の表というのが、たいていのテキストには載っているとおもいます。「法人格(権利義務の帰属主体となれる地位)の有無」「社団という組織実体の有無」「構成員の個性重視の有無」、そんな視点から比較の表をチェックしておくといいとおもいます。
で、以上を前提として、各判例をみていきましょう。
No.8『権利能力なき社団の成立要件』
事案
団体A(権利能力なき社団)の構成員全体が土地の賃借権を取得、土地の賃借権は構成員全体に総有的に帰属しました。その後、団体Aの構成員全体は、団体Aの名のもとに、Xに対して、構成員全体に総有的に帰属していた土地の賃借権を譲渡しました。その結果、Xは土地の賃借権を取得、この賃借権に基づき、Xは、土地を占拠するYに対して、土地の所有者に代位して、土地の明け渡しをもとめました。
判旨
t団体Aは、上記の、権利能力なき社団であるための要件、つまり、
①団体としての組織をそなえ、そこには②多数決の原則が行なわれ、③構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、しかして④その組織によつて代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているものでなければならない
これらの要件を満たしており、権利能力なき社団としての実体を備えていたと認めた上で、その効果として、
権利能力のない社団の資産は構成員に総有的に帰属する。そして権利能力のない社団は「権利能力のない」社団でありながら、その代表者によつてその社団の名において構成員全体のため権利を取得し、義務を負担するのであるが、社団の名において行なわれるのは、一々すべての構成員の氏名を列挙することの煩を避けるために外ならない(従つて登記の場合、権利者自体の名を登記することを要し、権利能力なき社団においては、その実質的権利者たる構成員全部の名を登記できない結果として、その代表者名義をもつて不動産登記簿に登記するよりほかに方法がないのである。)。
といい、A団体の代表者によりA団体の名において本件賃借権の譲渡がなされた結果、Xは土地の賃借権を取得しており、土地を不法占拠するYに対して、所有者に代位して、土地の明け渡しを求めることができる。そう判断しました。
権利能力なき社団は、権利能力ない以上、取引主体にはなれないはずだけど、いちいち構成員全員の名で取引するのは煩雑で現実的でないので、便宜上、権利能力なき社団の名において取引していいよ、といっています。
No.9『権利能力なき社団の取引上の債務』
事案
A協会(権利能力なき社団)の代表者Bは、Aの名においてAの活動に充てるための取引を行い、この取引により、Xに対して、売掛代金債務と消費貸借債務を負担しました。その後、Aは不渡手形を出して事業継続ができなくなりました。そこで、Xは、債権の支払いを求めて、A協会の構成員であるYに対して、売掛代金等請求の訴えを提起しました。
判旨
A協会が権利能力なき社団としての実体を有することを認定した上で、
権利能力のない社団の代表者が社団の名においてした取引上の債務は、社団の構成員全員に一個の義務として総有的に帰属し、社団の総有財産だけがその責任財産となり、構成員各自は、取引の相手方に対し個人的債務ないし責任を負わない
といい、構成員Yは、債権者Xに対して、直接の義務を負わない、と判示しました。
「社団」であるということは、構成員は個人的な責任を負わないのだと、社団とはそういうものだと。
で、権利能力なき社団については、もうひとつ、NO.75に判例があります。
No.75『入会(いりあい)団体による総有権確認請求権』(最判平成6年5月31日)
この判例は、訴えの原告適格の有無について判断した判例です。難しい論点なので、ここでは、民事訴訟法29条を引用しておくにとどめます。(なお、本判例は、問題となった、権利能力なき社団である入会団体、その代表者、登記名義人とするとされた構成員個人、の全ての原告適格を認めました)
(法人でない社団等の当事者能力)
第二十九条 法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものは、その名において訴え、又は訴えられることができる。
権利能力なき社団であっても、代表者の定めがあるものは、民事訴訟の当事者能力をもちます。
で、この判例で、押さえておきたいのは、権利能力なき社団である入会団体の、構成員全員の総有に属する不動産の登記はどのようにするか?という問題です。
上の判例でも、でてきていましたね。
本件では、入会団体の規約等により、代表者ではない、ある構成員個人を登記名義人とするとの措置がとられました。それについて、判例は、代表者でなくても、登記名義人になることができ、登記手続訴訟を追行する原告適格を有する、と判示しました。
権利能力なき社団である入会団体は、法人格ない以上、入会団体の名義で登記することはできません。そこで、代表者の個人名義で登記することになりますけど(肩書きを表示した代表者名義の登記は不可)、代表者が交代する度に名義変更の手続きが必要となって煩雑なので、代表者でない構成員個人の名義で登記することもOKとしたようです。
以上、権利能力なき社団の判例でした。
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まとめ
組合との比較の表は、チェックしておくとよいとおもいます。現在の試験では、組合の細かな条文を聞かれても文句を言えない、そういう問題となっています。組合の条文なんて、直前期におさえる知識だとはおもいますけど、その時は、権利能力なき社団との比較の視点で納得すると、頭に入りやすいとおもいます。共有の条文とかも。。イヤだなーと、受験生が感じるところが出題される傾向にありますからね。。
今回は、以上です。