公序良俗に反する法律行為の無効について
⚪︎
2020年4月1日施行の改正民法により、「事項を目的とする」との文言が削除されました。
(公序良俗)
新法第九十条 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
( 旧)第九十条 公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。
⚪︎
Photo by Carolyn V on Unsplash
⚪︎
「事項を目的とする」との文言が削除されたから..なに?って感じですけど。
意味は、あります。
削除の必要性
今回の改正は、①社会・経済の変化への対応、②国民一般にとっての分かりやすさの向上を目的としています。
今回投稿のテーマは、②国民一般にとっての分かりやすさを向上させるため、確立した判例として現在実務で通用している基本的なルールを明文化するものです。
動機の不法
「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする」。
ここで、「事項を目的とする」とは「事項を内容とする」という意味であるとされてきました。
ここからしてもう、わかりにくいですよね。。
つまり、「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を内容とする法律行為は、無効とする」。
例えば、人身売買などがあげられました。
でも、法律行為の内容は公序良俗に反していないのに、その動機に公序良俗違反があるから、法律行為を無効とする。そんな判例がでてきました。いわゆる「動機の不法」ですね。最判昭和47年4月25日、最判昭和61年9月4日です。
例えば、賭博で負けた債務の弁済にあてるという動機でなされた金銭消費貸借契約は、法律行為の内容自体は公序良俗に反するとはいえません。
お金を借りただけ、金銭消費貸借契約です。
しかし、賭博という公序良俗に反する行為の債務の弁済にあてるという、その動機に公序良俗違反が認められて、その動機を相手方が知っている場合には、法律行為は無効となるとされました。
裁判実務では、法律行為の内容だけでなく、法律行為が行われる過程その他の事情も広く考慮して、無効とするか否か判断されているようです。
そこで、新法では、こうしたルールを明文化すべく、「事項を目的とする」との文言を削除、シンプルに「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする」と改正しました。
⚪︎
上記の判例で、公序良俗違反の動機を相手方が知っているときは、法律行為自体を無効とするといっています。
これは、行為者の動機という内心については、相手方は分からないので、取引の安全を図る必要性から、原則、法律行為自体は有効とされる。
でも、相手方が知っているときは、取引の安全を図る要請はないから、公序良俗に違反する動機も考慮して、いわば、「動機も法律行為の(意思表示の)内容のひとつとなって」法律行為自体も無効とされます。
つまり、実は、「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を内容とする法律行為」といえるのですね。動機も法律行為の内容となっているわけですから。
とはいえ、やっぱり分かりにくいですよね。
やはり、「事項を目的とする」という限定するかの文言は、削除したほうが分かりやすいです。
で、今回の改正で削除された、というわけです。
まとめ
「事項を目的とする」との文言が削除されたから何?って感じですけど、その裏には、「動機の不法」を認めた判例、裁判実務のルールがありました。
なお、ここは、「動機の錯誤」と同じ議論ですよね。
今回の改正では、「動機の錯誤」についても明文化されています。(新法第95条第2項)
(錯誤)
第九十五条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
4 第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
⚪︎
今回は、以上です。
⚪︎
⚪︎
民法判例百選I掲載の公序良俗違反判例