法律行為

意思表示の効力発生時期/到達主義の原則(最判平成10年6月11日)

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意思表示の到達

民法判例百選Ⅰ[第8版] No.25
意思表示の到達
(最判平成10年6月11日)

今回は、意思表示の到達です。

意思表示は、「相手方に到達した時からその効力を生じる」のが原則です。

つまり、意思表示の効力発生時期は、原則「到達主義」が採用されています。

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到達主義の原則

(隔地者に対する意思表示)
旧第九十七条  隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる
2  隔地者に対する意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、又は行為能力を喪失したときであっても、そのためにその効力を妨げられない

(意思表示の効力発生時期等)
新法第九十七条  意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる
相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす
3  意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力の喪失し、又は行為能力の制限を受けたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。

相手が目の前にいる場合、「これください」「ありがとうございます」で、その場で、契約は有効に成立してしまいます。相手が目の前にいるので、意思表示は瞬時に届くからです。

でも、相手が離れた場所にいる場合は、そうはいきません。「これください」という申込みの意思表示の通知をしたけれど、結局、相手方に届かなかったとき、申込みの意思表示はその効力を生じません。届いてないわけですから。。相手方に届いて初めて「申込みの意思表示がされた」って感じますよね。民法は原則「到達主義」を採用しているのです(97条1項)。

*2020年4月1日施行の改正民法

隔地者に対する意思表示と対話者に対する意思表示とで区別する合理的な理由はないので、新法では、意思表示全般の効力発生時期として、「意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる」と改めました。

発信主義

ただし、例外があります。発信主義です。発信時に効力が生じてしまいます。526条と19条です。

(隔地者間の契約の成立時期)
第五百二十六条  隔地者間の契約は承諾の通知を発した時に成立する

(制限行為能力者の相手方の催告権)
第二十条  制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第十七条第一項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の相手方は、その制限行為能力者が行為能力者(行為能力の制限を受けない者をいう。以下同じ。)となった後、その者に対し、一箇月以上の期間を定めて、その期間内にその取り消すことができる行為を追認するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、その者がその期間内に確答を発しないときは、その行為を追認したものとみなす。

承諾」「確答」。つまり、「申込み」「催告」に対する「返答」ですね。

返答は、「返答の意思表示を発信した時」に効力を生じます。届くのを待つ必要はないでしょ。でOKです。

契約の申込みを受けたら、すぐに発送した方がいいですよね。迅速な取引のためその方がいい。「返答」は「意思表示を発信した時に効力を生じる」つまり「発信」即「契約成立!」つまり「発信主義」。そう覚えておけば十分だとおもいます。

97条2項(改正新法3項)

97条2項には、また変なことが書かれています。

旧2項  隔地者に対する意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、又は行為能力を喪失したときであっても、そのためにその効力を妨げられない

新法3項  意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力の喪失し、又は行為能力の制限を受けたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。

相手方は知り得ないからです。

ただし、ここでも例外があります。525条です。

(申込者の死亡又は行為能力の喪失)
第五百二十五条  第九十七条第二項の規定は申込者が反対の意思を表示した場合その相手方が申込者の死亡若しくは行為能力の喪失の事実を知っていた場合には、適用しない。

そうだろうなあ、と納得しておきましょう。

ここは、原則と例外の細かい条文があって、読むのも面倒です。暗記しようなんておもったら、すぐに忘れます。30分後には忘れています。納得して納得して、直前に頭につめこむ。出題されたらやだな~とおもいます。でも、受験生がそうおもうところが、出題される。作成者からすれば、そういうところを出したくなるのでしょうね^

で、今回の判例です。

《2つの論点》について、最高裁として初めての判断をしています。

《ひとつめ》は、「遺産分割協議の申入れに遺留分減殺の意思表示が含まれているか?」

《ふたつめ》は、「内容証明郵便が受取人不在のために返送された場合でも意思表示が到達したといえるか?」

では、事案からみていきましょう。

事案

Aが亡くなりました。相続人は、実子X1X2、養子Yの3人いました。

ところが、Aは生前、養子Yに対して、全財産を遺贈、A死亡後、Yのために不動産の移転登記がされました。

遺留分減殺すべき遺贈があったことを知ったX1らは、代理人弁護士を通じて「遺産分割協議を申入れる旨」を記載した普通郵便をYに発送。Yはこれを受領しています。さらに、X1らは、「遺留分減殺の意思表示」を記載した内容証明郵便をYに発送。しかし、Y不在のために返送されてしまいました。なお、Yは、不在配達通知書の記載により、弁護士からの内容証明郵便があったことを知りましたが、多忙のために受け取りに行かなかったそうです。

そんなこんなで、Xらが、遺留分減殺すべき遺贈があったことを知った時から1年経過後(遺留分減殺請求権の消滅時効期間は1年です。民法1042条)、X1らは、Yに対して、「遺留分減殺を原因とする不動産持分の所有権移転登記」を求めて提訴しました。

そんな事案です。

(僕の注。X1らの提訴が、遺留分減殺請求権の消滅時効期間経過後だったため、論点として、《最初の「遺産分割協議を申入れる旨」を記載した普通郵便に遺留分減殺の意思表示が含まれていたと解釈できるか?》そして、《「遺留分減殺の意思表示」を記載した内容証明郵便が、Y不在のために返送されたにもかかわらず、Yに到達したものと評価できるか?》の2点が問題とされました。どちらかが認められると、遺留分減殺請求権は消滅時効期間内に行使されたものとして、時効中断している、つまり、遺留分減殺請求権が認められるということになります。)

(遺留分の帰属及びその割合)
第1028条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける
一 直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の3分の1
二 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の2分の1

(遺贈又は贈与の減殺請求)
第1031条 遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる

(減殺請求権の期間の制限)
第1042条  減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。

判旨

1、本件普通郵便による遺産分割協議の申入れが遺留分減殺の意思表示を包含するか否かについて

遺産分割と遺留分減殺とは、その要件、効果を異にするから、遺産分割協議の申入れに、当然、遺留分減殺の意思表示が含まれているということはできない。しかし、被相続人の全財産が相続人の一部の者に遺贈された場合には、遺贈を受けなかった相続人が遺産の配分を求めるためには法律上、遺留分減殺によるほかないのであるから、遺留分減殺請求権を有する相続人が、遺贈の効力を争うことなく、遺産分割協議の申入れをしたときは、特段の事情のない限り、その申入れには遺留分減殺の意思表示が含まれていると解するのが相当である

2、本件内容証明郵便による遺留分減殺の意思表示がYに到達したか否か
隔地者に対する意思表示は、相手方に到達することによってその効力を生ずるものであるところ(民法九七条一項)、右にいう「到達」とは、意思表示を記載した書面が相手方によって直接受領され、又は了知されることを要するものではなく、これが相手方の了知可能な状態に置かれることをもって足りるものと解される(最高裁昭和三六年四月二〇日)。

ところで、本件当時における郵便実務の取扱いは、(1)内容証明郵便の受取人が不在で配達できなかった場合には、不在配達通知書を作成し、郵便受箱、郵便差入口その他適宜の箇所に差し入れる、(2)不在配達通知書には、郵便物の差出人名、配達日時、留置期限、郵便物の種類(普通、速達、現金書留、その他の書留等)等を記入する、(3)受取人としては、自ら郵便局に赴いて受領するほか、配達希望日、配達場所(自宅、近所、勤務先等)を指定するなど、郵便物の受取方法を選択し得る、(4)原則として、最初の配達の日から七日以内に配達も交付もできないものは、その期間経過後に差出人に還付する、というものであった。

事実関係によればYは、不在配達通知書の記載により、弁護士から書留郵便(本件内容証明郵便)が送付されたことを知り、その内容が遺産分割に関するものではないかと推測していたというのであり、さらに、この間弁護士を訪れて遺留分減殺について説明を受けていた等の事情が存することを考慮すると、Yとしては、本件内容証明郵便の内容が遺留分減殺の意思表示又は少なくともこれを含む遺産分割協議の申入れであることを十分に推知することができたというべきである。また、Yは、本件当時、長期間の不在、その他郵便物を受領し得ない客観的状況にあったものではなく、その主張するように仕事で多忙であったとしても、受領の意思があれば、郵便物の受取方法を指定することによって、さしたる労力、困難を伴うことなく本件内容証明郵便を受領することができたものということができる。そうすると、本件内容証明郵便の内容である遺留分減殺の意思表示は、社会通念上、Yの了知可能な状態に置かれ、遅くとも留置期間が満了した時点で被上告人に到達したものと認めるのが相当である

遺産分割協議の申入れに遺留分減殺の意思表示が含まれているか?

《ひとつめの論点》について。

判旨は、両者は要件効果が異なるから、原則、遺産分割協議の申入れに遺留分減殺の意思表示は含まれない、とした上で、被相続人の全財産が相続人の一部の者に遺贈された場合には、特段の事情のない限り、例外的に、含まれるとしています。

あくまで、「被相続人の全財産が相続人の一部の者に遺贈された場合」という事案での、例外的な解釈ですね。なるほど、と納得しておきましょう。

遺産分割協議とか、遺留分減殺とか、難しい単語がでてきますけど、難しそうにみえるのは言い回しだけ。言ってることは「それはそうでしょ。」って納得できること。法律用語を恐れることなく、普通の言葉で納得することが民法の勉強を楽にするコツです。

   第八章 遺留分
(遺留分の帰属及びその割合)
第千二十八条  兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける
一  直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一
二  前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一

遺留分とは、相続人のために最低限これだけは保障されますよという取り分、のことです。遺留分制度の趣旨は、残された相続人の生活の安定という点にあります。例えば、愛人に全財産を遺贈する旨の遺言書があった時に、残された妻や子供の生活の安定のためには、最低限の相続分が保障されなければ、財産もなく住んでいる家からも追い出されて路頭に迷うということになりかねません。そういう事態を防ぐための制度です。というわけで、兄弟姉妹には遺留分は認められていません。

内容証明郵便が受取人不在のために返送された場合でも意思表示が到達したといえるか?

《ふたつめの論点》について。

到達主義における「到達」の意味について判旨は次のようにいっています。

「到達」とは、意思表示を記載した書面が相手方によって直接受領され、又は了知されることを要するものではなく、これが相手方の了知可能な状態に置かれることをもって足りる

「了知可能な状態」というのは、具体的には、意思表示が相手方の支配圏内に置かれることで足りる、とされています。

本件事案では、郵便そのものは返送されてしまっているので、Yの支配圏内にあるとはいえません。

でも、Yは、郵便が送付されたこと及びその内容を知っていたうえ、受領しようと思えば容易にできたのだから、社会通念上、Yの了知可能な状態に置かれたものと認められる、遅くとも留置期間が満了した時点で到達したものと認めるのが相当である、と判示しました。

そうですよね。これを認めないと、遺留分減殺請求権は消滅時効にかかってしまいます。それもあって、到達を認めてあげたいという考慮もあったようです。

*2020年4月1日施行の改正民法

表意者と相手方との公平の観点から、意思表示の到達が防げられた場合の「みなし到達」の規定が新設されました。(新法97条2項)

相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす

新法施行後は、本件のような事案も、「相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げた」ものと評価され、「その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみな」されることになる(本件では、「遅くとも留置期間が満了した時点」)、と指摘されています。

まとめ

ここは、原則と例外の細かい条文があるところです。細かいですけど、条文そのままなので、出題されても文句をいえないところです。直前に詰め込むとしても、いまの時期に何度も納得しておくことが直前期の詰め込みを楽にしてくれます。条文には目を通しておきましょう。

(意思表示の効力発生時期等)
新法第九十七条  意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる
相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす
3  意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力の喪失し、又は行為能力の制限を受けたときであっても、そのためにその効力を妨げられない

(意思表示の受領能力)
新法第九十八条の二  意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に意思能力を有しなかったとき又は未成年者若しくは成年被後見人であったときは、その意思表示をもってその相手方に対抗することができない。ただし、次に掲げる者がその意思表示を知った後は、この限りでない
一  相手方の法定代理人
二  意思能力を回復し、又は行為能力者となった相手方

(承諾の期間の定めのある申込み)
第五百二十一条  承諾の期間を定めてした契約の申込みは、撤回することができない
2  申込者が前項の申込みに対して同項の期間内に承諾の通知を受けなかったときは、その申込みは、その効力を失う。

(承諾の通知の延着)
第五百二十二条  前条第一項の申込みに対する承諾の通知が同項の期間の経過後に到達した場合であっても、通常の場合にはその期間内に到達すべき時に発送したものであることを知ることができるときは、申込者は、遅滞なく、相手方に対してその延着の通知を発しなければならない。ただし、その到達前に遅延の通知を発したときは、この限りでない。
2  申込者が前項本文の延着の通知を怠ったときは、承諾の通知は、前条第一項の期間内に到達したものとみなす。

(遅延した承諾の効力)
第五百二十三条  申込者は、遅延した承諾を新たな申込みとみなすことができる

(承諾の期間の定めのない申込み)
第五百二十四条  承諾の期間を定めないで隔地者に対してした申込みは、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない

(申込者の死亡又は行為能力の喪失)
第五百二十五条  第九十七条第二項の規定は、申込者が反対の意思を表示した場合又はその相手方が申込者の死亡若しくは行為能力の喪失の事実を知っていた場合には、適用しない

(隔地者間の契約の成立時期)
第五百二十六条  隔地者間の契約は、承諾の通知を発した時に成立する
2  申込者の意思表示又は取引上の慣習により承諾の通知を必要としない場合には、契約は、承諾の意思表示と認めるべき事実があった時に成立する。
(申込みの撤回の通知の延着)
第五百二十七条  申込みの撤回の通知が承諾の通知を発した後に到達した場合であっても、通常の場合にはその前に到達すべき時に発送したものであることを知ることができるときは、承諾者は、遅滞なく、申込者に対してその延着の通知を発しなければならない
2  承諾者が前項の延着の通知を怠ったときは、契約は、成立しなかったものとみなす。

(申込みに変更を加えた承諾)
第五百二十八条  承諾者が、申込みに条件を付し、その他変更を加えてこれを承諾したときは、その申込みの拒絶とともに新たな申込みをしたものとみなす

今回は、以上です。

*2020年4月1日施行の改正民法について

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