今回は、民法判例百選Ⅰ総則物権 第9版 68『建築途中の建物への第三者の工事と所有権の帰属』最高裁昭和54年1月25日を素材にして設問を作成、答案を書いてみようとおもいます。
設問は、一行問題のようになりました。
自分で場合分けして、書き進めることになります。
判例の詳細はこちら→民法判例のブログ「建築途中の建物への第三者の工事と所有権の帰属」
答案中の条文は答案下に引用してあります。
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photo credit: Rosmarie Voegtli art and nature via photopin (license)
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設問
甲建設は、注文者Aから、本件建物の建築を請け負いました。
さらに、Bが、甲建設から、工事の大部分について下請けをなし、直ちに自らの材料で工事に着手します。
ところが、下請代金の支払いのために交付を受けた甲建設発行の小切手・約束手形がすべて不渡りとなってしまい、代金支払いを受ける見込みがなくなった下請人Bは、工事を途中で中止してしまいました。
そこで、注文者Aは、甲建設との請負契約を話し合いにより合意解除、C建設と続行工事に関する請負契約を結びます。C建設は自らの材料で工事を行い、建物を完成させました。
そうした事情のもと、Bは、建物所有権を主張して、Aに対して、建物の明渡しを求めて提訴しました。
Bの請求は認められるか。その根拠を説明したうえで、請求が認められるか検討しなさい。
なお、上記請負契約には、完成建物の所有権の帰属に関する別段の合意や特約はないものとする。
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答案
第1 BのAに対する本件建物の明渡請求は、本件建物の所有権に基づく物権的返還請求である。
Bは、本件完成建物の所有権を有しているのか。
前提として、建物と土地は別個独立の不動産であるから(民法86条)、完成建物が土地に付合して土地所有権に吸収されてしまうものではない。
つまり、土地提供者である注文者Aが、完成建物の所有権を付合によって取得するわけではない。
では、完成建物の所有権は、誰に帰属するのか。
まず、建物の完成を目的とする請負契約(632条)において、完成建物の所有権は注文者と請負人のどちらに帰属するのか。
第2 請負契約の当事者間における完成建物所有権の帰属について
1 両者は契約関係にある以上その解釈によって決することになるが、材料の全部または主要部分を提供した当事者に、完成建物の所有権が原始的に帰属すると考える。なぜなら、それが公平であり、当事者の合理的意思に合致するからである。
判例も同じ立場である。
2 もっとも、契約自由の原則のもと、所有権の帰属について当事者間で別段の合意(特約)をすることは自由であり有効であるが、本件では、別段の合意(特約)の存在は認められない。
3 したがって、請負人が材料の全てを提供している本件では、請負人に完成建物の所有権が原始的に帰属することになる。
4 そして、その所有権は、建物の引き渡しによって注文者に移転すると考える。なぜなら、637条1項で、請負人の担保責任の存続期間を「目的物を引き渡した時から」1年と規定するのは、引渡しにより所有権が移転することを意味していると解されるからである。また、報酬の支払いと同時履行である引き渡し(633条)によって注文者に所有権移転すると解するのが、当事者の合理的意思に合致するからである。
5 このように、請負契約の当事者間では、請負人側に完成建物の所有権が原始的に帰属するとしても、本件では、請負人が複数存在している。最初の請負人Bと工事を引き継いだ請負人Cである。それぞれ自ら材料を提供して、請負人Bは途中まで、請負人Cは引き継いで建物を完成させている。
この場合、完成建物の所有権はBCどちらに帰属するのか。
第3 契約関係がない者の間における完成建物所有権の帰属について
1 BC間に契約関係はなく、何らの合意もないので、添付の規定(242条以下)に基づいて所有権の帰属を決定することになる。
添付とは、所有者の異なる2個以上の物が結合して1個の物ができた場合に、分離復旧することが社会経済上の見地から不利益であることを理由に、1個の物としての所有権を認める制度である。生じる不公平は償金請求により解決する。
添付のどの条文を適用するかは、最初の請負人Bによる建築途中の建物が、「独立の不動産と認められるに至っていたか否か」によって異なってくるので、以下場面を分けて検討する。
2 最初の請負人Bによる建築途中の建物が既に独立した不動産と認められるに至っていた場合
(1) 前提として、いつの時点をもって独立した不動産と認められるのか。
独立の不動産と認められるか否かは、建物の種別に応じて、取引上の一般慣行等をも考慮しつつ、個々に判断されるべきものである。
住宅用建物については、屋根および周壁を有していれば、床や天井はなくても独立の不動産と認められると考える。なぜなら、雨風が凌げる状態(外気分断性)に至っていれば、一個の建造物として存在すると認めることができるからである。
判例も同じ立場である。
(2) したがって、最初の請負人Bの段階で、既に屋根および周壁を有し、独立した不動産と認められるに至っていた場合は、不動産の付合の規定である242条の適用により処理されることになる。
その結果、不動産の所有者(材料の提供者)である最初の請負人Bが、工事を引き継いだ請負人Cが付合させた物(資材)の所有権を取得することになる(242条)。通常、不動産のほうが、はるかに価値が大きいからである。
(3) この場合、公平の観点から、資材の所有権を失った請負人Cは、その損失について償金請求することができる(248条)。
(4) そして、最初の請負人Bに原始的に帰属する完成建物の所有権は、建物の引き渡しによって注文者Aに移転することになる。前述のとおりである。
(5) 本件では、BからAへの完成建物の引き渡しはされていない。よって、完成建物の所有権は未だBのもとにあるから、Bは、建物を占有するAに対して、所有権に基づく物権的返還請求として建物の明け渡しを求めることができる。
3 最初の請負人Bによる建築途中の建物が未だ独立の不動産と認められるに至っていなかった場合
独立の不動産になる前の、いわゆる「建前」の場合である。
(1) 建前の法的性質は、土地から独立した動産である。
建前は土地所有権に吸収(付合)されているとみる見解もあるが、いずれ独立の不動産となる建前は、土地所有権に吸収されているとみるより、材料を提供した人のもの、材料の提供者が建前の所有者であるとみるのが、自然であると考える。判例も、「建前は動産である」といっている。
したがって、最初の請負人Bが建前の材料を提供している本件では、最初の請負人が建前の所有者である。
(2) とすると、本件は、最初の請負人Bが所有する動産である建前に、別の請負人Cが自ら材料を提供してさらに工事を加えて建物を完成させた場合といえる。
動産と動産の付合の規定といえば、243条である。
しかし、建物建築では、動産に動産を単純にくっつけただけでなく、材料に施される工作が特段の価値を有していて、完成された建物の価格が、原材料の価格よりも相当程度増加する場合である。
そうであれば、単純な動産と動産の付合の規定である243条ではなく、加工(他人の動産に工作を加えて新たな物を制作すること)の規定である246条の適用によって処理するのが相当であると考える。
判例も同じ立場である。
したがって、246条の適用により、「後から工事を加えて完成させた請負人Cが供した材料の価格と工作によって生じた価格を加えたものが、最初の請負人Bによる建前の工事および材料の価格を超える場合」であるときは、完成建物所有権は、後から工事を加えて完成させた加工者である請負人Cに帰属することになる。
(3) この場合、公平の観点から、建前の所有権を失った最初の請負人Bは、その損失について償金請求することができる(248条)。
(4) そして、請負人Cに原始的に帰属する完成建物の所有権は、建物の引き渡しによって注文者Aに移転することになる。前述のとおりである。
(5) したがって、この場合は、Bに完成建物の所有権はないから、Bは、建物を占有するAに対して、所有権に基づく物権的返還請求として建物の明け渡しを求めることができない。
以上
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(不動産及び動産)
第八六条 土地及びその定着物は、不動産とする。
2 不動産以外の物は、すべて動産とする。
3 無記名債権は、動産とみなす。
(不動産の付合)
第二四二条 不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。ただし、権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない。
(動産の付合)
第二四三条 所有者を異にする数個の動産が、付合により、損傷しなければ分離することができなくなったときは、その合成物の所有権は、主たる動産の所有者に帰属する。分離するのに過分の費用を要するときも、同様とする。
第二四四条 付合した動産について主従の区別をすることができないときは、各動産の所有者は、その付合の時における価格の割合に応じてその合成物を共有する。
(加工)
第二四六条 他人の動産に工作を加えた者(以下この条において「加工者」という。)があるときは、その加工物の所有権は、材料の所有者に帰属する。ただし、工作によって生じた価格が材料の価格を著しく超えるときは、加工者がその加工物の所有権を取得する。
2 前項に規定する場合において、加工者が材料の一部を供したときは、その価格に工作によって生じた価格を加えたものが他人の材料の価格を超えるときに限り、加工者がその加工物の所有権を取得する。
(付合、混和又は加工に伴う償金の請求)
第二四八条 第二百四十二条から前条までの規定の適用によって損失を受けた者は、第七百三条及び第七百四条の規定に従い、その償金を請求することができる。
(請負)
第六三二条 請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
(報酬の支払時期)
第六三三条 報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に、支払わなければならない。ただし、物の引渡しを要しないときは、第六百二十四条第一項の規定を準用する。
(請負人の担保責任の存続期間)
第六三七条 前三条の規定による瑕疵の修補又は損害賠償の請求及び契約の解除は、仕事の目的物を引き渡した時から一年以内にしなければならない。
2 仕事の目的物の引渡しを要しない場合には、前項の期間は、仕事が終了した時から起算する。