担保物権 留置権

留置権の対抗力/引換給付判決(最高裁昭和47年11月16日)

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留置権の対抗力

民法判例百選Ⅰ[第8版] No.79
留置権の対抗力
(最高裁昭和47年11月16日)

今回から、担保物権です。

まずは、留置権(295条)から。

物の第三取得者から「引き渡せ!」の請求に対して、物の占有者が「留置権!」の成立を主張して、物の引き渡しを拒めるか?

そんな、お話です。

 Photo by Evie Shaffer on Unsplash

さっそく、事案からみていきましょう。

事案

Yは、本件土地建物を所有していました。

YはBに、本件土地建物を譲渡します。その代金支払い方法として、半分は、移転登記と同時に現金で支払うとされ、移転登記と支払いが完了しました。

残りの半分は、金銭の支払いに代えて、「Bが別に土地を購入して建物を建て、その土地建物を代物弁済としてYに提供すること」とされ、また、「この土地建物の引き渡しと同時に、Yは本件土地建物をBに明け渡すこと」とされました。

しかし、Bによる代物弁済としての土地建物の引き渡しは履行されず、それゆえ、依然として本件土地建物の占有はYのもとにあります。

そうした状態で、Bは本件土地建物をXに譲渡し、移転登記も完了します。

本件土地建物の新所有者となったXは、本件土地建物を占有するYに対して、本件建物(のみだったようです)の明け渡しを求めて、提訴しました。

これに対して、占有者Yは、留置権の成立を主張して、本件建物の明け渡しを拒んでいます。

そんな、事案です。

(単純化してあります)

○   ○   ○

さて、上のような事案において、

『本件土地建物を取得したXからの本件建物の明渡請求に対して、建物を占有するYは、建物の明け渡しを拒むことができるか?その可否およびその根拠について論ぜよ。』

そんな問いをたて、これに答えるかたちで、みていくことにしましょう。

○   ○   ○

まず、本件土地建物の所有権の所在について、確認しておきます。

本件土地建物は、Y→B→Xと順次譲渡されて、現在、所有権は、第三取得者Xのもとにあります(555条176条)。

(売買)
第五百五十五条 売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる

(物権の設定及び移転)
第百七十六条  物権の設定及び移転は当事者の意思表示のみによってその効力を生ずる

所有権の移転には、占有の移転も登記の移転も不要です。

本件土地建物の、現在の所有権者は、Xです。

占有は、Yがしている。

ということは、Xによる、Yに対する、本件建物の明渡請求は、「建物所有権に基づく物権的請求権としての引渡請求である」と認めることができます。(物権的請求権については⇒総則物権編No.48土地崩壊の危険と所有権に基づく危険防止請求)

この請求自体は、正当なもの、といえます。

とはいえ、明け渡しを求められたYの気持ちになってみると、すんなり、本件建物をXに明け渡すわけには、いきません。

なぜなら、「本件土地建物の明け渡しは、(残代金の支払いに代わる)代物弁済としての土地建物の引き渡しと同時に、それと引き換えにされる」という、Bとの約束がありましたよね。

それなのに、YがXからの本件建物の明渡請求に応じなければならないとすると、Bの一方的な行為、つまり、第三者Xへの譲渡というBの一方的な行為によって、この約束が反故にされてしまうことになり、その結果、Bによる残代金の支払い(その代物弁済としての土地建物の引き渡し)の履行が一方的に不確実なものとされてしまって、Yがかわいそうです。

この場合、Yには、「Xからの本件建物の明渡請求を拒むことができる」との結論を、認めてあげたいところです。

なにを根拠に?

そうですね。「留置権!」の登場です。

(留置権の内容)
第二百九十五条  他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない
2  前項の規定は、占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない

留置権を行使する目的は、物を留置することによって、被担保債権の弁済の実行を促すこと、弁済の実行を間接的に強制すること、にあります。

「弁済してくれるまで引き渡さないよ!」

で、弁済の実行を促す、弁済の実行を間接的に強制する。

でも、ここでYが主張したい留置権の被担保債権は、Bに対する、残代金債権です。弁済すべき債務を負っているのは、Bです。

YとXの間に、債権債務の関係はありません。Xは、弁済すべき債務を負っていない。

とすると、Xに対して、留置権を行使して、本件建物の引き渡しを拒んでも、残代金債権の弁済の実行を促すこと、残代金債権の弁済の実行を間接的に強制すること、にはならないのでは?

Xに対する、留置権の主張は、相手が違うのでは?

留置権は否定される?そんな気もします。。

けど、Yには、「留置権の抗弁を認めてあげたい!」のでしたよね。。

で、ちょっと視点を変えて・・

留置権という権利は、法定担保物権‐公平の理念から法律上当然に発生する担保物権‐という物権です。物権というのは、その効力を、債権債務の当事者間にとどまらず、すべての人に対して主張・対抗することができる、そんな権利です。例えば、見ず知らずの人に対しても「ここは私の所有する土地だ!」と主張できますよね。

だとすれば、第三者Xの登場前に、YとBの間ですでに物権である留置権が成立していた、と認めることができれば、その留置権の効力を、第三者Xに対しても主張・対抗することができる。そう、いうことができそうです。

この構成で、Xに対しても、いけそうですね。

では、YとBの間で、留置権は成立していたのでしょうか?

ここからは、留置権(295条)の成立要件の具体的なあてはめを、今回の判旨をみながら、チェックしていくことにしましょう。

判旨

右確定事実によれば、残代金三四五万円については、その支払に代えて提供土地建物をYに譲渡する旨の代物弁済の予約がなされたものと解するのが相当であり、したがつて、その予約が完結されて提供土地建物の所有権がYに移転し、その対抗要件が具備されるまで、原則として、残代金債権は消滅しないで残存するものと解すべきところ・・・、本件においては、提供土地建物の所有権はいまだYに譲渡されていない(その特定すらされていないことがうかがわれる。)のであるから、YはBに対して残代金債権を有するものといわなければならない

そして、この残代金債権は本件土地建物の明渡請求権と同一の売買契約によつて生じた債権であるから、民法二九五条の規定により、YはBに対し、残代金の弁済を受けるまで、本件土地建物につき留置権を行使してその明渡を拒絶することができたものといわなければならない

ところで、留置権が成立したのち債務者からその目的物を譲り受けた者に対しても、債権者がその留置権を主張しうることは、留置権が物権であることに照らして明らかであるから、本件においても、Yは、Bから本件土地建物を譲り受けたXに対して、右留置権を行使することをうるのである

もつとも、Xは、本件土地建物の所有権を取得したにとどまり、前記残代金債務の支払義務を負つたわけではないが、このことはYの右留置権行使の障害となるものではない。

また、右残代金三四五万円の債権は、本件土地建物全部について生じた債権であるから、同法二九六条の規定により、Yは右残代金三四五万円の支払を受けるまで本件土地建物全部につき留置権を行使することができ、したがつて、Xの本訴請求は本件建物の明渡を請求するにとどまるものではあるが、YはXに対し、残代金三四五万円の支払があるまで、本件建物につき留置権を行使することができるのである

ところで、物の引渡を求める訴訟において、留置権の抗弁が理由のあるときは、引渡請求を棄却することなく、その物に関して生じた債権の弁済と引換えに物の引渡を命ずべきであるが、前述のように、XはYに対して残代金債務の弁済義務を負つているわけではないから、Bから残代金の支払を受けるのと引換えに本件建物の明渡を命ずべきものといわなければならない。(なお、XがBに代位して残代金を弁済した場合においても、本判決に基づく明渡の執行をなしうることはいうまでもない。)

留置権の成立要件

(留置権の内容)
第二百九十五条  他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない
2  前項の規定は、占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない

留置権の成立要件は、次の4つです。

1、他人の物の占有者であること

2、その物に関して生じた債権を有すること(物と債権の牽連性)

3、債権が弁済期にあること

4、占有が不法行為によって始まった場合ではないこと

1、他人の物の占有者

本件土地建物の所有権は、Y→Bの譲渡契約によって、YからBに移転しています(555条176条)。

つまり、Yは、「Bが所有する本件土地建物を占有していた」ことになります。

Yは、「他人の物の占有者」にあたります。

2、その物に関して生じた債権(物と債権の牽連性)

被担保債権は、どの債権でもよいわけでは、ありません。

留置権の制度趣旨は、「公平の理念」にあります。

「その物に関して生じた債権」つまり、「物と債権の牽連性」が必要とされます。「物と関連のある債権」の弁済を促すためであれば、その物を留置することができる。それが公平でしょ、といえるからです。

「物と関連のある債権」とは、具体的には、「物の引渡請求権と同一の法律関係または事実関係から生じた債権」である場合、とされています。

例えば、同一の売買契約から生じた物の引渡請求権と代金支払請求権。この場合、売主は、代金支払請求権を担保するため、留置権を行使して、代金の支払いを受けるまで、物を留置することができます。それが当事者間の公平といえるから、ですね。

今回の事案は、まさに、これにあたります。

判旨をみると、冒頭で、

YはBに対して残代金債権を有するものといわなければならない

と、残代金債権の存在を認めたうえで・・

そして、この残代金債権は本件土地建物の明渡請求権と同一の売買契約によつて生じた債権であるから

と、「物と債権の牽連性」を認めていますね。

というわけで、「その物に関して生じた債権を有するとき」の要件もみたしています。

3、債権が弁済期にあること

弁済期が到来しているからこそ、物を留置して、被担保債権の弁済の実行を促す、弁済の実行を間接的に強制する、なんてことが、認められます。

今回の事案でも、すでに弁済期を経過しており、この要件もみたしています。

4、占有が不法行為によって始まった場合ではないこと

「占有が不法行為によって始まった場合」、いわば不法占有者に、留置権の主張を認めることは、「公平の理念」から認められません。

今回の事案では、そういう事情はありません。この要件もみたしています。

このように、Yは、留置権の成立要件をみたしており、留置権が成立していた、と認めることができます。

で、その効果として、「Yは、Bに対して、残代金の弁済を受けるまで、本件土地建物につき留置権を行使して、その明け渡しを拒むことができた」と認めることができます。

なお、判旨は、こんなこともいっています。

残代金三四五万円の債権は、本件土地建物全部について生じた債権であるから同法二九六条の規定により、Yは右残代金三四五万円の支払を受けるまで本件土地建物全部につき留置権を行使することができ

Yの有する残代金債権は、代金全体の半分にすぎません。半分は支払い済みです。

ということは、留置権を行使できるのは、建物の半分だけ?建物の半分だけ引き渡しを拒める?仮に3/4が支払い済みのときは、留置できるのは、建物の1/4だけ?建物の1/4だけ引き渡しを拒める?

それは現実的ではないですよね。

担保物権には、”不可分性“という性質があります。非担保債権の一部であっても、物の全部を留置することができます。

留置権の不可分性
第二百九十六条  留置権者は、債権の全部の弁済を受けるまでは、留置物の全部についてその権利を行使することができる

留置権にも、不可分性があり、「半分の残代金の支払いを受けるまで、建物全部につき留置権を行使することができ」ます。このことを、確認しています。

Yには、Bに対する、本件建物全部についての留置権の行使が、認められました。

で、留置権も物権です。物権というのは、その効力を、債権債務の当事者間にとどまらず、すべての人に対して主張・対抗することができる、そんな権利でした。

それゆえ、Yは、Bに対して成立した留置権を、債務者Bのみならず、その後に登場した第三者Xに対しても、主張・対抗することができる、そう、いうことができます。

判旨でも、

ところで、留置権が成立したのち債務者からその目的物を譲り受けた者に対しても、債権者がその留置権を主張しうることは、留置権が物権であることに照らして明らかであるから、本件においても、Yは、Bから本件土地建物を譲り受けたXに対して、右留置権を行使することをうるのである

と、いっています。

というわけで、Yに、Xに対する、留置権の抗弁を認めてあげられましたね。

《 なお、「Yから留置権の対抗を受けてしまうXがかわいそうなのでは?‥」

そんな声も、ありそうです。

でも、不動産取引に際しては現地検分することが当然とされています。Xとしては、現地をみて、本件土地建物を売主BではないYが占有していることを容易に認識することができた、ということができます。

認識したXとしては、「なぜ、Yが占有しているのか?」について売主Bさらには直接Yに問い合わせる等をして事情を把握できた、YとBの間に留置権が成立していること、自分がその対抗を受ける可能性があることを十分に予測できたうえで取得した、ということができそうです。

つまり、Xには、「Yから留置権の対抗を受けてもやむを得ない許容性」が認められる、といえそうです。》

さて、以上のように、

『Yには、Bに対する留置権が成立しており、これをXにも主張・対抗できる。Xに対しても、留置権を行使して、建物全部の引き渡しを拒むことができる。』

と認められました。

で、最初に問いをたてました。

『本件土地建物を取得したXからの本件建物の明渡請求に対して、建物を占有するYは、建物の明け渡しを拒むことができるか?その可否およびその根拠について論ぜよ。』

その答えとしては、

「Yは、Xからの本件建物の明渡請求を拒むことができる。その根拠は、留置権である。」

と、なります。

とすると、判決としては、

「原告Xの(本件建物明渡)請求を棄却する。」

そう、なるはずですよね。Yは、明け渡しを拒絶できるわけですから。

ところが、判決文の最後をみると、そうはいっていません。

判決は、「Yは、Xに対しても、留置権を行使できる」と認めながら、最後で次のようにいっています。

ところで、物の引渡を求める訴訟において、留置権の抗弁が理由のあるときは、引渡請求を棄却することなく、その物に関して生じた債権の弁済と引換えに物の引渡を命ずべきである

で、

前述のように、XはYに対して残代金債務の弁済義務を負つているわけではないから、Bから残代金の支払を受けるのと引換えに本件建物の明渡を命ずべきものといわなければならない。(なお、XがBに代位して残代金を弁済した場合においても、本判決に基づく明渡の執行をなしうることはいうまでもない。)

あれっ?って感じがします。条件付きながら、「本件建物の明渡を命ず」といってます。つまり、Yに、本件建物の明け渡しを命じています。Yの留置権を認めているのに。。

Yの主張は、留置権を抗弁とした建物明け渡しの拒絶でした。

Xの主張は、無条件の建物明渡請求です。

当事者の主張と判決がくい違っていますね。このような判決が許されるのでしょうか?

民事訴訟法246条と引換給付判決

これは、民事訴訟法の論点です。少し、触れておきますと、、

民事訴訟の対象は、「私的利益に関する事項」です。それゆえ、「私的自治の原則」が訴訟に反映され、当事者の意思が尊重されます。つまり、審理を開始するか否か(訴えの提起)、審判の対象は何なのか(申し立て)、等について、当事者に自己決定権が認められています。これを「処分権主義」と呼び、民事訴訟法246条は次のように規定しています。

(判決事項)
第二百四十六条 裁判所は、当事者が申し立てていない事項について、判決をすることができない

裁判所の判決は、当事者の申立てに拘束されます。当事者が申し立てていないこと、その範囲を越えて、裁判所が勝手に職権で判断することは、許されません。当事者に不意打ちとなってしまうからです。

つまり、「当事者の申し立てと一致しない判決」は、原則として、許されません。

もっとも、「当事者の申し立てと判決の間に不一致」があったとしても、それが、当事者の通常の意思に反することなく、当事者に不意打ちとならず、むしろ、一回の訴訟で解決したい要求に沿うもの、といえる場合には、「処分権主義」(当事者の意思の尊重)に反することなく許される、とされています。

これを、今回の判決でみてみると、、

Yにとっては、そもそも本件建物を留置する目的は、Bによる残代金の弁済の実行を促すためだったわけで、とすれば、「Bから残代金の支払を受けるのと引換えに」ということならば、建物を明け渡しても構わないですよね。そう命じられても、Yに不意打ちとはならない。むしろ、この裁判で一回で解決できる利益さえある、といえる。

他方、Xにとっても、請求を棄却されて、いつになるかわからない、Bによる残代金の弁済(その結果としてのYの留置権の消滅)を待つよりも、自ら立替払いをしてでも、この裁判で本件建物の明け渡しを実現できるなら、それを望むかもしれません。少なくとも、Xの意思に反するとまではいえない。この裁判で一回で解決できる利益があるわけですから。

というわけで、当事者の申立てとは一見食い違ってみえる、今回の判決-いわゆる引換給付判決-も、民事訴訟法246条「処分権主義」に反することなく、許される、とされています。

まとめ

今回は、留置権の成立自体は、すんなり肯定される、そんな事案の判例でした。

留置権の成立を認めたうえで、「留置権は物権だから第三者に対しても主張・対抗することができる」、そういう構成で、建物の第三取得者Xに対する、留置権の抗弁を認めました。

表題の『留置権の対抗力』とは、「物権ゆえの第三者対抗力」のことを、いうのですね。

判決文は、いわゆる引換給付判決でした。民事訴訟法246条「処分権主義」に反することなく、許されるのでした。

判決を受けたXとしては、残代金を支払う気配のないBに代位して弁済して、本件建物の明渡の執行を受けることになる、とおもわれます。

(第三者の弁済)
第四百七十四条  債務の弁済は、第三者もすることができるただし、その債務の性質がこれを許さないとき、又は当事者が反対の意思を表示したときは、この限りでない。
2  利害関係を有しない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。

今回は、以上です。

これを書いたひと🍊

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