法律行為

民法94条2項の類推適用(最判昭和45年9月22日)/民法94条2項・110条の類推適用(最判平成18年2月23日)

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94条2項類推適用

民法判例百選Ⅰ[第8版] No.21~22
民法94条2項の類推適用
(最判昭和45年9月22日)
民法94条2項・110条の類推適用
(最判平成18年2月23日)

今回は、94条2項の類推適用のお話です。

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94条2項の類推適用と即時取得の制度の違い

《民法94条2項の類推適用》といえば、不動産取引において「第三者の取引の安全を図る」ための、とても有名な法理です。

「虚偽の/不実の登記を信頼した、第三者の取引の安全を図る理論だ」そういわれます。

でも、この表現は不正確ですね。これでは、公信の原則になってしまいますよね。。

動産には、即時取得という規定があります。

(即時取得)
第百九十二条  取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。

「前主の占有を信頼した者が、善意無過失のときは所有権を取得する」という公信の原則を採用した規定とされています。

「信頼した者は保護される」

そんな原則です。

(ただ、「占有を始めた」ことが要件とされます)

この即時取得の制度と《94条2項の類推適用》とは、違います。決定的な違いがあります。

どこが違うのでしょう?

そうですよね。

不動産では、公信の原則は採用されていませんよね。

「信頼した者は保護される」

こんな原則を不動産で採用したら大変なことになります。例えば、ある日突然、知らない人が訪ねてきて、

「この土地と家は、所有者だと名乗る、(虚偽の)登記名義人○○さんから、私が善意無過失で買いました。あなたが所有者だなんて知らなかった。善意無過失の私は保護されるので所有権を取得します。すぐに退去して下さい。」

全く心当たりもなく、落ち度もないあなたが、あなたの家族が、ある日突然、土地と家を失ってしまう。。もちろん、売ったわけではないので代金なんてもらえずに。。

とんでもない話です。いくら、「取引の安全を図る」ためといっても、あってはならない事態です。

でも、動産ではこれが認められている。〈真実の所有者の落ち度〉を考慮することなく、〈相手方の信頼〉だけで保護されています。

これは、動産は一般に、不動産と比較して、価格が低いからです。真実の所有者の損失は比較的軽微なので、動産取引の安全保護を重視しています。

これに対して、不動産は価格が高く、生活や事業の基盤でもあり、それを失う真実の所有者の損失はとても大きなものとなります。「信頼した者は保護される」そんな公信の原則を不動産に採用することは、到底できないのですね。

とはいえ、不動産取引においても、「第三者の取引の安全を図る」要請は、もちろんあります。

そこで、登場するのが、《94条2項の類推適用》です。

(虚偽表示)
第九十四条  相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
2  前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない

94条2項というのは、「相手方と通じてした虚偽の意思表示」(虚偽の外観)があって、それを善意で信じた第三者が取引関係に入った。通謀虚偽表示をした〈真実の所有者の帰責性〉は大きく、そんな真実の所有者より、〈善意の第三者の取引の安全〉を優先して保護を図る、そんな規定です。

これを、「相手方と通じてした虚偽の意思表示」はない場面、つまり、真実の所有者は「意思表示」はしていないけど、虚偽の(不実の)登記という虚偽の外観の作出に〈所有権を失ってもやむを得ないような帰責性〉が認められ、そんな真実の所有者より、〈善意の第三者の取引の安全〉を優先して保護を図るべき場面に、類推適用をする。

「意思表示」はないので、直接適用はできないけど、類推適用して「取引の安全を図る」。そういうものですね。

94条2項類推適用と192条の決定的な違いとは?

さて、《公信の原則を採用した192条》と《94条2項類推適用》、決定的な違い、ありましたね。

そうです。〈真実の所有者の帰責性〉です。

動産は価格が低いので、〈真実の所有者の帰責性〉を考慮することなく、相手方の信頼だけで保護してしまいます。

これに対して、不動産は価格が高く、生活や事業の基盤であるので、不実の外観の作出についての〈真実の所有者の帰責性〉(所有権を失ってもやむを得ない程の帰責性)の要件が必要とされ、この〈本人の帰責性〉と〈第三者の取引の安全の要請〉とを比較衡量して結論を導くことになります。つまり、〈本人の帰責性〉と〈第三者の取引の安全の要請〉とを天秤にかけて判断するわけです。

冒頭で書きました。

虚偽の(不実の)登記を信頼した、第三者の取引の安全を図る理論だ、そういわれます。

でも、この表現は不正確ですね。

これでは、第三者の側しか触れていない。その意味で不正確です。

94条2項の類推適用は、あるいは、外観法理とか表見法理とかいわれる法理というのは、

〈本人の帰責性〉と〈第三者の取引の安全の要請〉とを天秤にかけて判断する

そういうものだ、ということを確認しておいてくださいね。

94条2項の類推適用法理の2つの類型

94条2項の類推適用法理には、従来、2つの類型があるとされていました。

第1に、真実の所有者が自ら不実の登記を作出していた場合、あるいは、真実の所有者の関与なしに作出された不実の登記を事後に承認していた場合に、その登記を第三者が信頼して取引に入った場合(真実の所有者の作出した外観と第三者の信頼した外観が一致している意思外形対応型

第2に、真実の所有者が承認した不実の第一登記をもとに、その登記名義人が別の不実の第二登記を作出した場合に、第三者がこの第二登記を信頼して取引に入った場合(真実の所有者の作出した外観と第三者の信頼した外観が一致しない意思外形非対応型

この2つの類型です。

第1の類型(意思外形対応型)

第1の類型(意思外形対応型)では、「真実の所有者の承認(帰責性)を要件として不実の登記に対する第三者の信頼を保護する」という一般法理が、判例によって繰り返し確認されています。

NO.21の判例(最判昭和45年9月22日)は、「真実の所有者の事後の承認の場合にも94条2項の類推適用が可能である」との立場を確認しています。

最判昭和45年9月22日は、単純化すると次のような事案です。

事案

後にAと結婚することになるBが、Aの印鑑とA所有の土地と家の権利証を無断で持ち出し、AB間の売買を原因とする所有権移転登記を勝手にしてしまいました。

Aは直ちに気付いたものの、これを放置。

後に不動産はBから善意のCに売却されました。

ABは離婚。

AはCに対して、家屋明渡等を求めて訴訟を提起しました。

そんな事案です。

判旨

不実の所有権移転登記の経由が所有者の不知の間に他人の専断によつてされた場合でも、所有者が右不実の登記のされていることを知りながら、これを存続せしめることを明示または黙示に承認していたときは、右九四条二項を類推適用し、所有者は、・・・その後当該不動産について法律上利害関係を有するに至つた善意の第三者に対して、登記名義人が所有権を取得していないことをもつて対抗することをえないものと解するのが相当である。けだし、不実の登記が真実の所有者の承認のもとに存続せしめられている以上、右承認が登記経由の事前に与えられたか事後に与えられたかによつて、 登記による所有権帰属の外形に信頼した第三者の保護に差等を設けるべき理由はないからである

続いて、

第2の類型(意思外形非対応型)

事案は、例えば、真実の所有者が、不実の仮登記を不実と知りつつ承認したところ、仮登記の名義人がこれを本登記に改めて第三者に売却してしまいました。そんな事案です。

判例は、

拡大された不実の本登記について、”善意無過失”の第三者は、94条2項と110条の法意に照らして保護される

(権限外の行為の表見代理)
第百十条  前条本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する

(代理権授与の表示による表見代理)
第百九条 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない

としています。(最判昭和43年10月17日ほか)

外観の拡大という点で、110条(代理権の逸脱)の場合と類似すると考えられたようです。

前に、こんなことを書きました。

94条2項の類推適用は、あるいは、外観法理とか表見法理とかいわれる法理というのは、〈本人の帰責性〉と〈第三者の取引の安全の要請〉とを天秤にかけて判断する

拡大された外観については、真実の所有者は承認していないのです。その部分は直接的な帰責性はない。そこは、真実の所有者もいわば被害者として保護されるべき。

そこで、天秤の反対側の第三者の保護される要件を若干厳しくしよう。善意のみならず、善意無過失まで必要としよう。そんな判断で110条(第三者は善意無過失が要件)がでてくるのですね。

このように、第1の類型(意思外形対応型)と第2の類型(意思外形非対応型)とも、〈真実の所有者の帰責性〉として、不実の外観の発生・存続について”承認”していること、が要件とされていました。

ところが、NO.22の最判平成18年2月23日では、真実の所有者の承認がない場合であっても、〈承認と同視し得るほど重い帰責性〉があるときは、94条2項と110条の類推適用により、善意無過失の第三者は保護される、としました。

最判平成18年2月23日の事案は、単純化すると次のようなものです。

事案

真実の所有者Aから不動産登記に関する事務を広範かつ継続的に任されていたBが、A所有の不動産について、AB間の売買契約書を勝手に作成。

Aは売却する意思がないのに、Bから言われるままに署名押印。さらに、Bに言われるままに実印を渡し、不動産の登記申請書にBが押印するのを漫然と見ていました。

Bはこれらの書類を使ってAからBへの所有権移転登記手続きを完了。つまり、Bは権限外の不実の登記を作出しました。この登記がされたことについて、Aは知りませんでした。

その後、Bは、不動産を善意無過失のCに売却。

そんな事案です。

判旨

Bが・・・本件登記手続をすることができたのは,Aの余りにも不注意な行為によるものであり,Bによって虚偽の外観(不実の登記)が作出されたことについてのAの帰責性の程度は,自ら外観の作出に積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置した場合と同視し得るほど重いものというべきである。そして,前記確定事実によれば,Cは,Bが所有者であるとの外観を信じ,また,そのように信ずることについて過失がなかったというのであるから,民法94条2項,110条の類推適用により,Aは,Bが本件不動産の所有権を取得していないことをCに対し主張することができないものと解するのが相当である

真実の所有者が不実の登記の存在を知らなかったとしても、つまり、承認がなくても、〈承認と同視し得るほどの重い帰責性〉があれば、真実の所有者の帰責根拠となりうる。そう判示しました。

〈真実の所有者の帰責性)というのは、〈所有権を失ってもやむを得ない程の帰責性〉のことでしたね。そうであれば、なにも、”承認”にこだわる必要なんてありません。

〈所有権を失ってもやむを得ない程の帰責性〉として、事案によっては、それが”承認”のこともあるし、あるいは、承認ではなくて、”承認(自ら外観の作出に積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置した場合)と同視し得るほど重い帰責性”の場合もある。そういうことだと、いっていいとおもいます。

まとめ

以上、94条2項の類推適用でした。

繰り返します。

94条2項の類推適用は、あるいは、外観法理とか表見法理とかいわれる法理というのは、〈本人の帰責性〉と〈第三者の取引の安全の要請〉とを天秤にかけて判断する

これから民法の勉強を進めていくと、外観法理や表見法理といった法理がでてくる場面がいくつもあります。

そのときは、この〈本人の帰責性)と〈第三者の取引の安全の要請〉とを天秤にかけて判断する、という視点を思い出してくださいね。

ということで、今回のポイントは、所有権を失ったりする〈本人側の帰責性〉のチェックを忘れないこと!でした。

今回は、以上です。

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