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非権利者による他人の権利の処分-他人物売買(民法560条)-と追認(民法116条類推適用)(最高裁昭和37年8月10日判決)をわかりやすく

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追認

民法判例百選Ⅰ[第8版] No.38
他人の権利の処分と追認
(最高裁昭和37年8月10日)

今回は、「非権利者による処分の追認」というお話です。

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「無権代理行為の追認」と「非権利者による処分の追認」

前回まで、「無権代理行為の追認」についてみてきました。

今回は、「非権利者による処分の追認」です。

似てますよね。

実際、事実の流れ、処理手順、は同じようなものとなります。

権利のない者による代理行為に対して、本人が事後的に追認をする→さかのぼって、契約時に効力を生じる(116条)。

 

権利のない者による処分に対して、所有者が事後的に追認をする→さかのぼって、処分時に効力を生じる(116条類推適用)。

無権代理行為の追認
第百十六条  追認は、別段の意思表示がないときは、契約の時にさかのぼってその効力を生ずるただし、第三者の権利を害することはできない。

法律的に丁寧に書くと、

「無権代理行為の追認」とは、〈本人の追認によって、行為時に欠けていた代理権が事後的に補充されて、追完が生じる〉といえます。

「非権利者による処分の追認」とは、〈所有者の追認によって、処分時に欠けていた処分権限が事後的に補充されて、追完が生じる〉といえます。

同じような話ですよね。

契約の当事者は誰と誰か

ただ、一点、異なる点をあげるとすれば、《契約の当事者は誰と誰か》つまり、《債権債務関係は誰と誰との間に発生するのか》という点です。

まず、無権代理行為では、契約の当事者は、本人と相手方です。本人の追認によって、さかのぼって契約は有効となります。物権関係も本人と相手方との間に生じます。

これに対して、非権利者による処分では、契約の当事者は、非権利者と相手方です。非権利者は、権利がないのに、「自分は権利者だ」と偽って処分契約を結んでいるのです。典型が、いわゆる「他人物売買」です。民法上、他人物売買も(最初から)契約は有効とされ、債権債務関係が生じるとされていますよね(560条)。

(他人の権利の売買における売主の義務)
第五百六十条  他人の権利を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う
(有償契約への準用)
第五百五十九条 この節の規定は、売買以外の有償契約について準用する。ただし、その有償契約の性質がこれを許さないときは、この限りでない。

ただ、非権利者には処分権限がないので、物権的効力は生じません。所有者の追認によって、さかのぼって効力を生じるのはこの物権的効力になります。

繰り返します。

非権利者による処分では、契約の当事者は、非権利者と相手方です(560条)。所有者の追認は、非権利者に欠けていた処分権限を事後的に補完するもので、さかのぼって、物権的効力を生じることになります(116条類推適用)。

以上を前提に、今回の判例を確認しておきましょう。

事案

Aは、父Xに無断で、Xの印鑑を持ち出して、X所有の不動産について、XからAへの贈与契約書を偽造。自分への所有権移転登記手続きをしました。

その後、AとYの間で、BがYに対して負っている債務を担保するために、Yのために、当該不動産に根抵当権を設定する契約を結びました。

これに気付いたXは、Yに対して、Aのした根抵当権設定契約を追認してしまったそうです。

そんな事案です。

判旨

或る物件につき、なんら権利を有しない者が、これを自己の権利に属するものとして処分した場合において真実の権利者が後日これを追認したときは、無権代理行為の追認に関する民法一一六条の類推適用により、処分の時に遡つて効力を生ずるものと解するのを相当とする

「効力を生ずる」とは、物権的効力を生じるという意味ですね。

 まとめ

今回のポイントは、〈無権代理行為の追認との比較〉です。

契約の当事者は誰と誰か。

債権関係と物権関係を分けて丁寧に考えること。

今回のような、あっさり済ませてしまいがちな基本知識こそ、丁寧に理解すること。

それがむしろ、民法のチカラをつける近道だとおもいます。

今回は、以上です。

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