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無権利者を委託者とする販売委託契約の所有者による追認の効果(民法560条116条類推適用)(最高裁平成23年10月18日判決)をわかりやすく

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追認

民法判例百選Ⅰ[第8版] No.37
無権利者を委託者とする販売委託契約の所有者による追認の効果
(最高裁平成23年10月18日)

今回は、前回の「他人の権利の処分と追認」で押さえた基本知識を、「無権利者を委託者とする販売委託契約」というちょっと難しそうな事案にあてはめた、そんな判例です。

その結果、当たり前の結論になりました、それだけの判例です。

タイトルを読むと、一瞬、引いてしまいそうな、難しそうな印象を受けますけど、実際は、判旨も短めで、当然のことをいってるだけ、そんな判例です。

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「無権代理行為の追認」と「非権利者による処分の追認」

前回の復習です。

前回は、「無権代理行為の追認」と「非権利者による処分の追認」を比較しましたね。

つまり、

「無権代理行為の追認」とは、〈本人の追認によって、行為時に欠けていた代理権が事後的に補充されて、追完が生じる〉といえます。

「非権利者による処分の追認」とは、〈所有者の追認によって、処分時に欠けていた処分権限が事後的に補充されて、追完が生じる〉といえます。

同じような話ですよね。

ただ、一点、異なる点をあげるとすれば、《契約の当事者は誰と誰か》つまり、《債権債務関係は誰と誰との間に発生するのか》、という点です。

まず、無権代理行為では、契約の当事者は、本人と相手方です

本人の追認によって、さかのぼって契約は有効となります。

物権関係も本人と相手方との間に生じます。

これに対して、非権利者による処分では、契約の当事者は、非権利者と相手方です

非権利者は、権利がないのに、自分は権利者だと偽って処分契約を結んでいるのです。

典型が、いわゆる、他人物売買です。民法上、他人物売買も契約は有効とされ、債権債務関係が生じるとされていますよね(560条)。

(他人の権利の売買における売主の義務)
第五百六十条  他人の権利を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う

ただ、非権利者には処分権限がないので、物権的効力は生じません。所有者の追認によって、さかのぼって効力を生じるのはこの物権的効力になります。

繰り返します。

非権利者による処分では、契約の当事者は、非権利者と相手方です(560条)

所有者の追認は、非権利者に欠けていた処分権限を事後的に補完するもので、さかのぼって、物権的効力を生じることになります(116条類推適用)。

(無権代理行為の追認)
第百十六条  追認は、別段の意思表示がないときは、契約の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

今回の判例は、この基本知識を、一見難しそうにみえる事案にあてはめただけのものです。

事案からみていきましょう。

事案

ブナシメジを工場で生産していたXは、工場の所有者であるAとの間で、賃貸借契約の解除をめぐって紛争になり、Aは紛争に関連して工場を占拠してしまいました。

占拠の間に、Aは、農業協同組合Yとの間で、ブナシメジの販売委託契約を締結。工場にあったX所有のブナシメジをYに出荷してしまいました。

Yは、販売委託契約に基づき、ブナシメジを第三者に販売。代金を受領しました。

そこで、XはYに対して、XとYとの間に本件販売委託契約に基づく債権債務を発生させる趣旨で、同契約を追認。その結果、販売代金の引渡請求権は自分にあると主張して、その支払い請求を求めました。

そんな事案です。

判旨

無権利者を委託者とする物の販売委託契約が締結された場合に,当該物の所有者が,自己と同契約の受託者との間に同契約に基づく債権債務を発生させる趣旨でこれを追認したとしても,その所有者が同契約に基づく販売代金の引渡請求権を取得すると解することはできない。なぜならば,この場合においても,販売委託契約は,無権利者と受託者との間に有効に成立しているのであり,当該物の所有者が同契約を事後的に追認したとしても,同契約に基づく契約当事者の地位が所有者に移転し,同契約に基づく債権債務が所有者に帰属するに至ると解する理由はないからである。仮に,上記の追認により,同契約に基づく債権債務が所有者に帰属するに 至ると解するならば,上記受託者が無権利者に対して有していた抗弁を主張することができなくなるなど,受託者に不測の不利益を与えることになり,相当ではない

非権利者による処分では、契約の当事者は、非権利者と相手方でした(560条)。

同様に、本件における、非権利者Aによる販売委託契約の締結では、契約の当事者は、非権利者Aと相手方Yとなります。

所有者Xが、事後的に、自己と契約の受託者Yとの間に同契約に基づく債権債務を発生させる趣旨でこれを追認したとしても、契約の当事者がXとYに変更されることはありません。一方的に当事者の変更が認められてしまったら、受託者Yは、契約の相手方Aに対して持っていた、行使できると期待していた、同時履行の抗弁権や相殺の抗弁権を主張できなくなってしまいます。一方的に、奪われてしまいます。そんなことは許されません。

繰り返します。

非権利者による処分では、契約の当事者は、非権利者と相手方です(560条)。

この基本知識を、あてはめただけ。

本判例は、当たり前の結論を確認したにすぎません。

まとめ

前回と今回で、

「非権利者による処分では、契約の当事者は、非権利者と相手方である(560条)。」

という、基本知識と、その基本知識の難しそうな事案へのあてはめ、をみてきました。

本判例は、結論は当たり前でシンプルなものです。

でも、シンプルななかにも、当事者の様々な利益が丁寧に考慮されています。

当事者の立場になって、その主張をじっくり考えてみる。

民法とは、全当事者の利益衡量を丁寧に図るものなのだと、実感できることとおもいます。

今回は、以上です。

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