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無権代理人の本人相続~共同相続の場合(最高裁平成5年1月21日)

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無権代理人の本人相続

民法判例百選Ⅰ[第8版] No.36
無権代理人の本人相続~共同相続の場合
(最高裁平成5年1月21日)

今回は、《無権代理と相続》その二、

「無権代理人の本人共同相続」というお話です。

photo credit: James Whitesmith Misty Sunrise via photopin (license)

「無権代理人の本人相続型」は、次のような事案が判例で問題となっています。

  1. 〈無権代理人の本人単独相続型
  2. 〈無権代理人の本人共同相続型
  3. 特殊な事案として〈第三者が無権代理人を本人と共同相続した後に本人を単独相続〉←1.と同じ処理

順次、みていきましょう。

まずは、前回の復習から。

前回は、「本人の無権代理人相続型」の判例を扱いました

こちらのほう、「本人が無権代理人を単独相続/共同相続した事案」のほうは、比較的、問題となる点はありませんでした。

本人は、本人の地位から追認を拒絶することができます。それを責められる理由はない。当然有効となったりしない。

ただ、117条の無権代理人の責任を相続しているので、その責任を免れることはできない。

本人は、無権代理行為の追認を拒絶することができます。たまたま無権代理人を相続したからといって、拒絶する権利を奪われる理由はありません。

ただ、相続により117条の無権代理人の責任を承継しているので、その責任を負うことにはなります。

素直にそのままの流れですね。

(無権代理)
第百十三条  代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない
2  追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない。

(無権代理行為の追認)
第一一六条 追認は、別段の意思表示がないときは、契約の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

(無権代理人の責任)
第百十七条  他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う
2  前項の規定は、他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき、若しくは過失によって知らなかったとき、又は他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったときは、適用しない。

(相続の一般的効力)
第896条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

これに対して、「無権代理人の本人相続型」の事案では、「追認拒絶をお前が言うか!」と物言いがつく点で、特に、共同相続の場面で多少複雑になります。

1.〈無権代理人の本人単独相続型〉については、前回の判例でもでてきました

「無権代理人が本人を相続した場合」においては、自らした無権代理行為につき本人の資格において追認を拒絶する余地を認めるのは信義則に反するから、右無権代理行為は相続と共に当然有効となると解するのが相当である(最高裁昭和37年4月20日)

(基本原則)
第一条 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない
3 権利の濫用は、これを許さない。

簡単な話です。

無権代理人は、自ら勝手に、権限もないのに、無権代理行為をしています。

その後、たまたま本人を相続しました。

で、無権代理人が、相続した「本人の地位」から、「無権代理行為の追認は拒絶します!」という。

「お前が言うか!」そうつっこみたくなりますよね。「そんな勝手なこと言わせないよ!」

これを法律的に書くと、、

「本人の資格において追認を拒絶する余地を認めるのは信義則に反する」となります。

「追認を拒絶する余地はない」ということはつまり、「当然有効となる」ですよね。

ここも学説がいろいろあるところですけど、見ないほうが賢明です。

実務は判例で動いています。学説いろいろみて、判例あやふや、になったらマイナスでしかないですから。

繰り返します。簡単な話です。

「無権代理人が本人の資格において追認を拒絶するのは信義則に反するから、相続と同時に当然有効となる」。

2.〈無権代理人の本人共同相続型〉についての処理はどうなるでしょう?

今回の判例の事案になります。

ここは、1.でみた〈単独相続の場面〉と異なり、無権代理人に、お前が言うか!とツッコミ入れて「当然有効となる」では済まない事情があります。

それは、他の共同相続人の存在です。

他の共同相続人は、本人の追認拒絶権を相続により承継しています。たまたま、相続人のなかに無権代理行為をした無権代理人がいたからといって、追認拒絶権を奪われる理由はありません。

(相続の一般的効力)
第896条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

だから、〈共同相続の場面〉では「相続と同時に当然有効となる」とはいえないのですね。

ここでは、状況を分けて、みていくことになります。

判旨をみてみましょう。

判旨

〈無権代理人が本人を他の相続人と共に共同相続した場合〉において、無権代理行為を追認する権利は、その性質上相続人全員に不可分的に帰属するところ無権代理行為の追認は、本人に対して効力を生じていなかった法律行為を本人に対する関係において有効なものにするという効果を生じさせるものであるから、共同相続人全員が共同してこれを行使しない限り、無権代理行為が有効となるものではないと解すべきである。

そうすると、「他の共同相続人全員が無権代理行為の追認をしている場合」に無権代理人が追認を拒絶することは信義則上許されないとしても、「他の共同相続人全員の追認がない限り」、無権代理行為は、無権代理人の相続分に相当する部分においても、当然に有効となるものではない。(最高裁平成5年1月21日)

前半部分は置いといて、

まず、後半部分(“そうすると”以降)をみると、場合分けをしてありますね。

「他の共同相続人全員が無権代理行為の追認をしている場合」と「他の共同相続人全員の追認がない」場合です。

「他の共同相続人全員が無権代理行為の追認をしている場合」

他の共同相続人全員が追認をしている場合です。

この場合、上で触れた、〈共同相続の場面で考慮すべき事情〉つまり、「他の共同相続人の追認拒絶権を奪ってはいけない、だから、相続により当然有効とはいえない」そういう考慮は必要ありませんよね。全員、追認しているのですから。

ということは、残る無権代理行為をした相続人(無権代理人)のことだけ考えればいい。

これは〈単独相続と同じ状況〉です

で、無権代理人は、「本人の立場」から追認を拒絶したりすると、お前が言うか!と突っ込まれるのでした。「無権代理人が追認を拒絶することは信義則上許されない」のでした。

その結果、相続人全員が追認していることになり、無権代理行為はさかのぼって有効と確定します

(無権代理行為の追認)
第百十六条  追認は、別段の意思表示がないときは、契約の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

「他の共同相続人全員の追認がない場合」

では、他の共同相続人のなかに、追認を拒絶する相続人がいた場合はどうなるでしょう?

その相続人の気持ちになってみると、「勝手に土地を売却して。。認めないよ絶対!」で、追認を拒絶した。

さて、この場合、「全体として追認拒絶が確定するのか?」、「追認拒絶できない無権代理人の相続分に相当する部分については有効となるのか?」、問題となります。

判旨は次のようにいっています。

「他の共同相続人全員の追認がない限り」、無権代理行為は、無権代理人の相続分に相当する部分においても、当然に有効となるものではない。

一人でも追認を拒絶する相続人がいた場合は、無権代理人の相続分にあたる部分についても、有効とはならない。つまり、全体として追認拒絶ということになります

弟が無権代理行為をして父の土地を売却したという事案で、共同相続人の一人である兄が追認を拒絶したとします。

先祖代々の土地を他人に譲り渡したくない、家の人間で引き継いでいきたい。だから、追認を拒絶した。

それなのに、無権代理行為をした弟の相続分に相当する部分については有効、となってしまったら、他人が土地の共有者として入り込んできてしまいます。それは絶対避けたいですよね。そのための追認拒絶のはずです。

これを別の視点からいえば、「追認をするなら共同相続人が全員ですることが必要」といえます。

追認は、土地が他人の手に渡ってしまうこと、それには全員の同意が必要でしょう。

一人でも反対する者がいたら認めたらいけないでしょう。

OKの相続人の部分だけ、3分の1だけ効果を認めるとか意味なくなるでしょう。

これを法律的にいうと、判旨の前半部分のようになります。

・・・無権代理行為を追認する権利は、その性質上相続人全員に不可分的に帰属するところ無権代理行為の追認は、本人に対して効力を生じていなかった法律行為を本人に対する関係において有効なものにするという効果を生じさせるものであるから、共同相続人全員が共同してこれを行使しない限り、無権代理行為が有効となるものではないと解すべきである。

無権代理行為を追認する権利は、その性質上相続人全員に不可分的に帰属する」とあります。

追認とは、全体を追認して有効と確定するか、追認を拒絶して全体を無効と確定するか、そういうものです。「性質上不可分に帰属する」とはそういう意味です。分割行使はできないということです。

そのうえで、

「共同相続人全員が共同してこれを行使しない限り、無権代理行為が有効となるものではない」といいます。

共同相続により、追認権は共同相続人の準共有となります

(共同相続の効力)
第八百九十八条  相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する

(準共有)
第二百六十四条  この節の規定は、数人で所有権以外の財産権を有する場合について準用する。ただし、法令に特別の定めがあるときは、この限りでない。

で、共有物の「処分」をするには、全員の同意が必要となります

一部の共有者が勝手に全体を処分するなんて認められませんよね。

(共有物の変更)
第二百五十一条  各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない

無権代理行為の追認というのは、「本人に対して効力を生じていなかった法律行為を本人に対する関係において有効なものにするという効果を生じさせるもの」です。

無効とされる行為を有効と確定させるもの、土地の売却であれば、所有権が他人の手に渡ってしまうことを意味します。

まさに、「処分」(条文では変更)といえます。共有者全員の同意が必要、全員ですることが必要です。

もう一度、判旨の前半部分をみましょう。

・・・無権代理行為を追認する権利は、その性質上相続人全員に不可分的に帰属するところ無権代理行為の追認は、本人に対して効力を生じていなかった法律行為を本人に対する関係において有効なものにするという効果を生じさせるものであるから、共同相続人全員が共同してこれを行使しない限り、無権代理行為が有効となるものではないと解すべきである。

無権代理行為の追認は、共同相続人全員が共同して行使する必要があります。一人でも追認を拒絶する共同相続人がいた場合は、追認の効果は生じないことになります

不可分的に帰属する権利ですから、追認権の分割行使はできません。

「他の共同相続人全員の追認がない限り」、無権代理行為は、無権代理人の相続分に相当する部分においても、当然に有効となるものではない

となります。

相手方は、無権代理人に117条の責任(損害賠償責任)を追及するしかないことになります

(無権代理人の責任)
第百十七条  他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う
2  前項の規定は、他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき、若しくは過失によって知らなかったとき、又は他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったときは、適用しない。

判旨の全体をもう一度、確認しましょう。

〈無権代理人が本人を他の相続人と共に共同相続した場合〉において、無権代理行為を追認する権利は、その性質上相続人全員に不可分的に帰属するところ無権代理行為の追認は、本人に対して効力を生じていなかった法律行為を本人に対する関係において有効なものにするという効果を生じさせるものであるから、共同相続人全員が共同してこれを行使しない限り、無権代理行為が有効となるものではないと解すべきである。

そうすると、「他の共同相続人全員が無権代理行為の追認をしている場合」に無権代理人が追認を拒絶することは信義則上許されないとしても、「他の共同相続人全員の追認がない限り」、無権代理行為は、無権代理人の相続分に相当する部分においても、当然に有効となるものではない。(最高裁平成5年1月21日)

さて、特殊な事案として

3.〈第三者が無権代理人を本人と共同相続した後に本人を単独相続〉という事案があります

難しそうですけど、実はこれ、1.〈無権代理人の本人単独相続型〉と同じ処理になります。

第三者はまず、「無権代理人を共同相続」しています。これにより「無権代理人の地位」を本人と共に承継しています。

その後、「本人を単独相続」する。

順番をみると、まず、「無権代理人の地位」を承継して、その後、「本人を単独相続」している。

これって、1.〈無権代理人の本人単独相続型〉ですよね。それでOKです。

つまり、追認拒絶するなんて、お前が言うか!とつっこまれるので、「本人の資格において追認を拒絶するのは信義則に反するから、相続と同時に当然有効となる」となります。(最判昭和63年3月1日)

まとめ

ここも、前回以上に、いろいろ学説があるところです。

でも、見ないほうが賢明です。混乱するだけ。理解するだけで時間を要します。

その結果、いろいろあったけど、判例は・・?となっては本末転倒です。

最優先は判例。判例を100%にすることに集中することをおすすめします。

追記)〈本人が生前、無権代理行為の追認を拒絶していた〉という判例があります。

「本人が無権代理行為の追認を拒絶した後に、無権代理人が本人を相続した」という事案です。(最高裁平成10年7月17日)

この場合は、追認拒絶権の相続、その行使の可否という問題は生じません。本人が生前、追認を拒絶した時点で、無権代理行為は無効に確定しています。相続という事情が発生しても、覆ることはありません。

判旨を挙げておきます。

〈本人が無権代理行為の追認を拒絶した場合〉には、その後に無権代理人が本人を相続したとしても、無権代理行為が有効になるものではないと解するのが相当である。 けだし、無権代理人がした行為は、本人がその追認をしなければ本人に対してその効力を生ぜず(民法一一三条一項)、本人が追認を拒絶すれば無権代理行為の効力が本人に及ばないことが確定し、追認拒絶の後は本人であっても追認によって無権代理行為を有効とすることができず、右追認拒絶の後に無権代理人が本人を相続したとしても、右追認拒絶の効果に何ら影響を及ぼすものではないからである

このように解すると、〈本人が追認拒絶をした後に無権代理人が本人を相続した場合〉と〈本人が追認拒絶をする前に無権代理人が本人を相続した場合〉とで法律効果に相違が生ずることになるが、本人の追認拒絶の有無によって右の相違を生ずることはやむを得ないところであり、相続した無権代理人が本人の追認拒絶の効果を主張することがそれ自体信義則に反するものであるということはできない。(最高裁平成10年7月17日)

今回は、以上です。

これを書いたひと🍊

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