時効

自己の物の時効取得(最高裁昭和42年7月21日/最高裁44年12月18日)

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自己の物の時効取得

民法判例百選Ⅰ[第8版] No.45
自己の物の時効取得
(最高裁昭和42年7月21日)

今回は、「自己の物の時効取得」です。

「自分の所有物を時効取得する?」意味ないですよね。

でも..認めたのが、今回の判例です。

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最高裁まで争って、わざわざ最高裁がそれを認めたのは、それを認める必要性があったから。認める法律上の意味があったからに他なりません。

(所有権の取得時効)
第百六十二条  二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2  十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。

自己の物の時効取得が認められる2つの場面

ただ、《自己の物の時効取得が認められる場面》というのは、限定されます。判例が認めた場面は、次の2つの場面に限られます。

1、二重譲渡の事案で、登記を具備した第三者からの家屋(土地)明渡し請求に対して、未登記の譲受人が時効取得を主張する場面

2、不動産の売買契約当事者間において、契約の成立が争われた事案で、買主が売主に対して、取得時効を援用した場面

判例は、本件最高裁昭和42年7月21日において、1 の場面での「自己の物の時効取得」を認めました。

その後、最高裁44年12月18日において、2 の場面についても、本件判例を引用する形で「自己の物の時効取得」を認めています。

いずれの場面でも、時効取得を主張する不動産譲受人は、売買契約等によって不動産の所有権を取得しており(176条)、一応、不動産の所有権者ではあります。一応、「自己の物」といえそうです。

(物権の設定及び移転)
第百七十六条  物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる

ただ、1、二重譲渡の事案では、譲受人は未登記の状態です。つまり、第三者への対抗力は有していません。

(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
第百七十七条  不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法 (平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない

その意味では、物権変動は不完全な状態であるといえます。先に第三者が登記を備えてしまったときは、第三者が、対抗力を有する所有権者に確定してしまう、そんな状態です。実際に、第三者が先に登記を具備してしまった、つまり、「他人の物」になってしまった、そんな事案が本件判例です。

また、2、では、売買契約の成立が争われている状態です。買主は、契約の成立が否定されると、所有権者としての地位を失う、つまり、当初から、「他人の物」の占有者になってしまう、そんな状態にあります。

つまり、「自己の物」とはいっても、状況次第では、「他人の物」の占有者になりかねない、いわば、他人性が潜在的に存在している、そんな場面であるということができます。純粋な「自己の物の時効取得」を認めたものではない、そういえるとおもいます。

当初は、所有権者として、「自己の物」として、占有していた。

ところが、その後、二重譲渡の関係にある第三者が先に登記を具備したことで、あるいは、売買契約の効力が争われて契約が無効となってしまったことで、譲受人は、「他人の物」を占有していたことになってしまった。

このような譲受人の立場になってみれば、所有の意思を持って本件家屋を長年にわたって占有してきた、その永続した占有という事実状態は保護されるべきではないか、それが、時効制度の趣旨なのではないか。そう、主張したくなりますよね。

そういう事情のある事案において、最高裁まで争われた、それが、「自己の物の時効取得」という論点だといえます。

では、本件判例をみていきましょう。

事案

Yは昭和27年11月から、本件家屋をAから贈与を受けて占有してきました。ただし、所有権移転の登記をしませんでした。

他方、Xは本件家屋を競落して、代金を完済して(この時点で所有権移転)、昭和37年10月29日に所有権取得登記を具備しました。そこで、Xは、本件家屋の所有権に基づいて、家屋を占有するYに対して、家屋の明渡しを求めて提訴しました。

これに対して、Yは、昭和37年11月をもって本件家屋の所有権を時効取得した、それを、時効完成前の本件家屋取得者であるXに対して登記なくても対抗できる(時効完成時の当事者同士だから⇒詳しくはNo.57
時効取得と登記)、と主張しました。

そんな事案です。

判旨

民法一六二条所定の占有者には、権利なくして占有をした者のほか、所有権に基づいて占有をした者をも包含するものと解するのを相当とする(大審院昭 和八年(オ)第二三〇一号同九年五月二八日判決、民集一三巻八五七頁参照)。すなわち、所有権に基づいて不動産を占有する者についても、民法一六二条の適用があるものと解すべきである

けだし、取得時効は、「当該物件を永続して占有するという事実状態を、一定の場合に、権利関係にまで高めようとする制度」であるから所有権に基づいて不動産を永く占有する者であつても、その登記を経由していない等のために所有権取得の立証が困難であつたり、または所有権の取得を第三者に対抗することができない等の場合において、取得時効による権利取得を主張できると解することが「制度本来の趣旨」に合致するものというべきであり、

民法一六二条が時効取得の対象物を他人の物としたのは、通常の場合において、自己の物について取得時効を援用することは無意味であるからにほかならないのであつて、同条は、自己の物について取得時効の援用を許さない趣旨ではないからである。

取得時効制度の「制度本来の趣旨」から、所有権に基づいて永く占有する者についても、取得時効による権利取得を認めています。

まとめ

自己の物の時効取得」といっても、純粋に「自己の物」の時効取得を認めるわけではありません。

他人性が潜在的に存在するような限定された場面で、結果的に「他人の物」の占有者になってしまった、そんな場面に限定して認められます。

所有権に基づいて」永く占有してきた者についても、限定された場面において、取得時効の主張を認める必要性から、「自己の物」の取得時効の援用を認めたにとどまる、そう、いえるとおもいます。

(「取得時効の主張を認める必要性」とは、例えば、上判旨は「その登記を経由していない等のために所有権取得の立証が困難であつたり、または所有権の取得を第三者に対抗することができない等」を挙げています)

今回は、以上です。

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