動産物権変動

民法178条の引渡し~占有改定~動産譲渡担保(最高裁昭和30年6月2日)

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占有改定

民法判例百選Ⅰ[第8版] No.64
民法178条の引渡し~占有改定
(最高裁昭和30年6月2日)

今回は、動産物権変動、178条の「引渡し」~占有改定というお話です。

内容としては、ごく当たり前の知識の確認のようなもの、かもしれません。

具体的には、1)動産譲渡担保における占有改定の合意とはどんなものか、2)占有改定が動産譲渡の対抗要件(178条「引渡し」)として認められるか、3)動産譲渡担保においても占有改定が対抗要件として認められるか、問題となります。

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関連条文をみてみましょう。

(動産に関する物権の譲渡の対抗要件)
第百七十八条  動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない

(現実の引渡し及び簡易の引渡し)
第百八十二条  占有権の譲渡は、占有物の引渡しによってする
2  譲受人又はその代理人が現に占有物を所持する場合には、占有権の譲渡は、当事者の意思表示のみによってすることができる

(占有改定)
第百八十三条  代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したときは、本人は、これによって占有権を取得する

(指図による占有移転)
第百八十四条  代理人によって占有をする場合において、本人がその代理人に対して以後第三者のためにその物を占有することを命じ、その第三者がこれを承諾したときは、その第三者は、占有権を取得する

動産物権変動の公示方法は「引渡し」です(178条)。

動産の一つ一つについて、不動産のように登記をすることは現実的ではありません。そこで、動産物権変動をみんなにみえるようにして動産取引の安全をはかる公示方法として、「引渡し」が第三者対抗要件とされました。

引渡し」とは、占有の移転のことです。

引渡し」(占有の移転)には、現実の引渡し(182条1項)、簡易の引渡し(182条2項)、占有改定(183条)、指図による占有移転(184条)、これら全てが含まれる、とされています。

今回の占有改定とは、「譲渡人が動産の譲渡後も引き続き占有し続ける(譲受人の代理人として占有する)場合」をいいます。

(占有改定)
第百八十三条  代理人(譲渡人のこと)が自己の占有物を以後本人(譲受人のこと)のために占有する意思を表示したときは、本人(譲受人のこと)は、これによって占有権を取得する

譲渡担保とは、「目的物の所有権を担保権者に移転させる形の担保物権」です。ただ、「譲渡担保権者は担保目的をこえて所有権を行使しないという債権的拘束を受ける」そういうものですね(所有権的構成)。

「所有権」は担保権者に移転するものの、目的物の「占有」は設定者のもとにとどまります。債務者の営業に不可欠な動産を取り上げてしまうことは、債務者にとって困ることだし、債権者にとっても、営業を続けてもらってきちんと弁済してくれたほうが、面倒な担保物権の実行手続きをするよりよいですからね。「非占有担保」という点で、抵当権と共通します。

目的物の「占有」は設定者のもとにとどまりながら、「所有権」は担保権者に移転します。どうやって引き渡しがされるかというと、「所有権の移転後も、設定者つまり譲渡人が目的物を占有し続ける」わけですから、それは占有改定ですよね。つまり、譲渡担保では、譲渡担保権者は、占有改定によって、目的物の占有権を取得するのです。

では、事案からみていきましょう。

事案

映画館を経営するAは、債務の担保として、映写機等を譲渡担保に供する契約をXとの間で結びました。

その後、映写機等は、AからYに譲渡され引渡されました。

そこで、Xは、Yに対して、譲渡担保契約により映写機等の所有権を取得したことを理由として、映写機等の引渡しを求めて提訴しました。

そんな事案です。

判旨

売渡担保契約(注、実体は譲渡担保)がなされ債務者が引き続き担保物件を占有している場合には債務者は占有の改定により爾後債権者のために占有するものであり、従つて債権者はこれによつて占有権を取得するものであると解すべきことは、従来大審院の判例とするところであることも所論のとおりであつて、当裁判所もこの見解を正当であると考える。果して然らば、原判決の認定したところによれば、上告人(被控訴人)Xは昭和二六年三月一八日の売渡担保契約(注、実体は譲渡担保)により本件物件につき所有権と共に間接占有権を取得しその引渡を受けたことによりその所有権の取得を以て第三者である被上告人Yに対抗することができるようになつたものといわなければならない

冒頭で挙げた問題点について、順次、みていきましょう。

1)動産譲渡担保における占有改定の合意とはどんなものか

(占有改定)
第百八十三条  代理人(譲渡人のこと)が自己の占有物を以後本人(譲受人のこと)のために占有する意思を表示したときは、本人(譲受人のこと)は、これによって占有権を取得する。

占有改定の条文をみると、代理人(譲渡人)の意思表示だけで足りるかのようですけど、「両当事者間の占有移転の合意」が必要とされています。ただ、明示の意思表示である必要はないとされます(大判大正4年9月29日)。

で、譲渡担保における、「占有改定の合意」とはどんなものかというと、判旨の前半で、次のようにいっています。

売渡担保契約(注、実体は譲渡担保)がなされ債務者が引き続き担保物件を占有している場合には債務者は占有の改定により爾後債権者のために占有するものであり、従つて債権者はこれによつて占有権を取得するものである・・

つまり、明示の意思表示がなくても、「譲渡担保契約の存在」と「引き続き債務者が担保物件を占有している事実」があれば、占有改定の合意は認められる。そういっています。

2)占有改定が動産譲渡の対抗要件(178条「引渡し」)として認められるか

「引渡し」とは、占有の移転のことです。

「引渡し」には、占有改定も含まれる、とされます。

ただ、占有改定では、動産の現実の移転はなく、外形的に所有権の移転が認識できず、公示機能が不十分だ、という問題点があります。

また、占有者への照会により権利関係が明らかになるかというと、占有改定では、照会を受けるのが所有権を失った譲渡人であることから、ウソの回答をする危険性がある、と指摘されています。

問題はありますけど、判例は古くからずっと、占有改定も「引渡し」に含まれるとしています。条文にあるわけですからね。裁判所は、国民の代表機関である国会の定めた法律を、尊重します。存在する法律の規定を無視するなんて、例外中の例外。民法183条には、「占有改定の合意によって譲受人は占有権を取得する」とある以上、占有改定も178条の「引渡し」に含まれる、判例はそう解しています。

占有改定も178条「引渡し」に含まれる、動産譲渡の対抗要件として認められます。

3)動産譲渡担保においても占有改定が対抗要件として認められるか

譲渡担保とは、「目的物の所有権を担保権者に移転させる形の担保物権」です。ただ、「譲渡担保権者は担保目的をこえて所有権を行使しないという債権的拘束を受ける」そういうものでした(所有権的構成)。

つまり、所有権が移転するという点で、動産譲渡と同じであり、これと区別して考える必然性はない、といえます。とすれば、2)で占有改定が動産譲渡の対抗要件として認められたように、動産譲渡担保においても、占有改定が対抗要件として認められる、そういうことになります。

判旨は、後半で、次のようにいっています。

上告人(被控訴人)Xは昭和二六年三月一八日の売渡担保契約(注、実体は譲渡担保)により本件物件につき所有権と共に間接占有権を取得しその引渡を受けたことによりその所有権の取得を以て第三者である被上告人Yに対抗することができるようになつたものといわなければならない

譲渡担保権者Xは、占有改定で引き渡しを受けたことにより、本件動産の所有権の取得を、第三者Yに対抗することができる、そういっています。

まとめ

占有改定は、動産譲渡担保の対抗要件(178条「引渡し)」として、認められます。

ただ、占有改定の公示機能は不十分だ、第三者に分かりにくい、という問題点がありました。

そのため、譲渡担保設定による占有改定後に、そうとは知らずに第三者が登場する可能性があります。その場合、第三者の保護は、即時取得(192条)により図られることになります。

(即時取得)
第百九十二条  取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する

他方、第三者に即時取得されてしまっては、譲渡担保権者は困ります。そこで、譲渡担保権者の保護手段として、例えば、目的動産にネームプレートのような標識をつけるという方法もあります。また、「動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律」では、法人の動産譲渡において、動産譲渡登記という公示方法を定めています。

(動産の譲渡の対抗要件の特例等)
第三条  法人が動産(当該動産につき貨物引換証、預証券及び質入証券、倉荷証券又は船荷証券が作成されているものを除く。以下同じ。)を譲渡した場合において、当該動産の譲渡につき動産譲渡登記ファイルに譲渡の登記がされたときは、当該動産について、民法第百七十八条 の引渡しがあったものとみなす

占有改定の公示機能の不十分さを補う手段、といえます。

今回は、以上です。

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