明認方法 物権法

立木の物権変動の明認方法をわかりやすく(最高裁昭和36年5月4日判決)

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明認方法

民法判例百選Ⅰ[第9版] No.61
明認方法
(最高裁昭和36年5月4日)

今回は、明認方法です。

不動産物権変動の公示方法は、登記です(177条)

動産物権譲渡の公示方法は、引渡しです(178条)

では、立木の物権変動の公示方法は?

そんな、お話です。

photo credit: diana_robinson Umbrella thorn acacia tree (Vachellia tortilis) at sunrise in Amboseli National Park, Kenya, East Africa via photopin (license)

不動産に関する物権の変動の対抗要件)
第百七十七条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない

動産に関する物権の譲渡の対抗要件)
第百七十八条 動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない

立木の公示方法は?

原則を確認しておきましょう。

原則として、立木は土地の構成部分、つまり、土地の一部にすぎません。土地に根を張って生きていますからね。立木である状態では、土地の一部を構成するにすぎません。立木が伐採されると、動産となるのです。

土地の一部ですから、土地と運命を共にします。土地が譲渡されると、土地と一体である立木も一緒に移転していきます。土地と一体ですから、土地の登記により公示されているといえます

以上が、原則です。

とはいえ、立木だけ買いたい、とかありそうですよね。立木の段階で売買する、ありますよね。

立木のみを売買する取引上の要請がある以上、「立木の所有権が誰のもとにあるのか」明らかにしておかないと、安心して取引できません。

つまり、取引慣習上の要請から、「立木だけの公示方法」が必要とされる、そういえそうです。

で、

立木のみを取引対象とする場面/立木のみを取引対象から除外する場面における、「立木固有の公示方法」として考えだされたのが、明認方法です

判例も、古くから、明認方法が、立木の公示方法として、登記にかわる対抗要件となることを認めています。

明認方法の具体的な方法としては、所有者を明示する標札を立てる、立木を削って焼印をおす、墨書きをする、などがあります。

標札を立てたり、焼印をおしたり、墨書きしたり。年月が経つと、なくなったり、消えたりしそうですね。第三者が登場した時に、明認方法が消滅していた。。ありそうです。

では、、

〈明認方法を施した立木の所有権取得者は、明認方法が消滅した後に登場した第三者に対しても、なお、立木の所有権取得を対抗することができるのでしょうか?〉

これが、今回の判例の論点です。

明認方法が消滅している状態では、「立木だけ土地とは別人の所有権に属する」とか、分かりません。

原則に対する修正が公示されていない。

公示がない以上、第三者に対抗することができない。

判旨は、そういっています。

明認方法は、年月の経過により消滅してしまうような、不完全な公示方法です。

所有権取得者は、明認方法が消滅しないよう、存続するよう、維持する努力をしなければなりません。

明認方法が消滅してしまった場合は、所有権取得者には帰責性がある、不利益を負うことになってもやむを得ない。対抗力喪失という不利益を負うことになってもやむを得ない。そういえそうです。

これを一般化していえば、、

明認方法でも、登記でも、対抗要件が消滅したことについて、権利取得者に帰責性がある場合は、対抗力喪失という不利益を負うことになってもやむを得ない。」

例えば、登記が過誤により抹消された場合でも、「権利者が委任した司法書士の過誤により登記が抹消された事案」では、権利者側の帰責性といえるので、対抗力を喪失することになってもやむを得ないといえます(最判昭和42年9月1日)。

これに対して、「登記官の過誤により抹消登記がされた事案」では、権利者に帰責性がないので、対抗力を喪失させることはできません(大連判大正12年7月7日)。

今回の判例を、みてみましょう。

事案

Aが所有する山林がありました。

まず、山林の土地上の立木がAからBに売却され、立木に明認方法が施されました。

しかし、年月の経過により明認方法は消滅してしまいました。

明認方法の消滅後、山林の地盤である土地がAからCに売却され、所有権移転登記がされました。

こうした事実関係のもと、BとCの間で、立木の所有権をめぐって争いとなり、Cは、立木の所有権確認を求めて提訴しました。

そんな事案です。(単純化してあります)

判旨

明認方法は、立木に関する法律の適用を受けない立木の物権変動の公示方法として是認されているものであるからそれは、登記に代るものとして第三者が容易に所有権を認識することができる手段で、しかも、第三者が利害関係を取得する当時にもそれだけの効果をもつて存在するものでなければならず、従つて、たとい権利の変動の際一旦明認方法が行われたとしても問題の生じた当時消失その他の事由で右にいう公示として働きをなさなくなつているとすれば明認方法ありとして当該第三者に対抗できないものといわなければならない旨の原判決の見解は、当裁判所もこれを正当として是認する。そして、Bが本件山林の買受当初判示のごとき明認方法を施したが大正十四年頃かかる標示は既に見受けられなかつたこと、同社は昭和十年前後まで本件立木に対する明認方法につき無関心であり、結局Cが本件山林の立木を買い受ける昭和八年七月当時 右立木につきBのためその権利取得を公示するに足りる明認方法は存在していなかつたこと、竝びに、Cは本件山林買受後間もなく同山林の要所に同人の所有であることを標示する標杭を立てた外山林中の四、五箇所において立木を削つて同様の標示をし、これらの標示は右山林をDが本件土地立木を買い受ける当時も現存していた旨の原判決の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照し、すべて、これを肯認することができる。従つて、Cが、Aから取得した本件山林の立木の所有権は、Bが先に取得した同立木の所有権に優先するとし、CからDを経て取得したEの所有権を是認した原判決は正当である。

Cが登場した時、立木のみ取得したBの施した明認方法は消滅していました。

明認方法の消滅により、Bは、立木の第三者対抗力を喪失しています

Bの明認方法の消滅後に、山林の地盤である土地を取得し、土地と一体の立木の所有権も取得したCは、土地の所有権移転登記を具備したことで、土地と一体である立木の対抗力も備えたことになります

したがって、Cの立木所有権取得は、Bの立木所有権取得に優先する、そういう結論になります。

まとめ

原則、「土地と立木は一体をなすもの」として、土地所有権の移転により立木も一体となって移転します。

この場合、土地の所有権移転登記により、立木の移転についても公示され対抗力を備えます。

これに対して、「立木のみを取引の対象とする」場合、立木のみの所有権取得は、明認方法により、公示され対抗力を備えます。

したがって、「立木を含む土地全体の所有権取得者」と、「立木のみの所有権取得者」との間での、立木の所有権取得をめぐる優劣関係は、前者の土地の移転登記と後者の立木の明認方法の先後により決することになります

明認方法とは、立木のみを取引対象とする場面で利用される公示方法にすぎません。立木を含む土地全体を取引対象とする場面での公示方法は、土地の移転登記となります。

不完全な公示方法である明認方法は、消滅してしまうと、第三者対抗力を喪失してしまいます。

今回は、以上です。

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