今回は、「民法177条の「第三者」とは?」判例の定義は?というお話です。
基本こそ正確に!
早速いってみましょう。
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事案
事例として、最判平成10年2月13日を取り上げてみます。
この判例自体は、極めて特殊な判例です。
ここでは、判例の解説という趣旨で取り上げるのではなく、「177条の基本を正確につかむための素材として、この特殊な判例を使う」そんな趣旨で取り上げてみようとおもいます。
こんな事案でした。
○
甲土地の所有者Aは、隣接する乙土地に「通行を内容とする地役権」を設定して通行していたところ、乙土地の所有権が第三者Cに譲渡され、移転登記も完了しました。
Aの地役権は、未登記です。
この場合、Aは、地役権の登記がなくても、乙土地の第三取得者Cに、地役権を対抗できますか?
そんな、事案でした。
○
民法177条の適用
公示制度とは
地役権も物権である以上、177条の適用があります。
(地役権の内容)
第二百八十条 地役権者は、設定行為で定めた目的に従い、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利を有する。ただし、第三章第一節(所有権の限界)の規定(公の秩序に関するものに限る。)に違反しないものでなければならない。
(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
第百七十七条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法 (平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
177条の公示制度とは、
「物権の設定や変動があったらみんなに分かるようにその旨登記をして公示してくださいね。登記をしないでいると権利を第三者に対抗できなくなりますよ」というものです。
逆にいえば、
「登記をしてしまえば、権利を第三者にも対抗できるようになってもう安心!」といえます。
これにより、安心して不動産取引をすることが可能となり、「円滑な不動産取引」が実現されるのです。
条文上は「登記をしないと、権利を第三者に対抗できない」となっています。
つまり、「登記をしないと、権利主張できなくなる」というペナルティーを与えることで、半ば登記を強制しているのです。登記をするには登録免許税などお金がかかるので、そうでもしないと誰も登記なんてしないからです(^.^;
これを上の事案でみてみましょう。
Aは、乙土地に通行地役権という物権を「設定」しているので、その旨第三者にもわかるように、登記して公示する必要があります。
乙土地の第三取得者にとって、「乙土地が通行地役権の制約のある土地か否か」は重大な関心ごとですから、公示してわかるようにしておく必要があるのです。
事案のAは、未登記なので、原則的には、地役権の設定を「第三者」に対抗できません。
つまり、「乙土地の第三取得者Cが177条の「第三者」にあたるならば、未登記のAは、地役権をCに主張/対抗できない」ということになる。
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民法177条の「第三者」とは
判例の定義
では、Cは、177条の「第三者」にあたるでしょうか?
そもそも、「第三者」とは?
「第三者」を文字通りに解釈すると、当事者以外はすべて第三者です。
でも、通りがかりのなんの関係もない人まで「第三者」にあたる、という必要はありませんよね。未登記なので通りがかりのひとに権利を対抗できない?通りがかりのひとに土地の所有権を対抗できないから土地を明け渡す?占拠されても返せといえない?そんなわけないですよね。
そこで、「第三者」とはすべてのひとではなく、限定的に解釈する必要があります。
それを判例は、
といっています。
小難しい言い回しですね。もっと分かり易い言葉で言えよ!そうツッコミたくなりますね。。
上の事例でいうと、Cが「第三者」にあたるためには、「Aの登記の欠缺(登記を欠いていること)を主張する正当な利益を有する者」である必要があるわけです。
では、「正当な利益を有する者」とはどんな人をいうのでしょう?
わかるようでよくわからない表現ですよね。
「正当な利益を有する者」とは、、
これは、判例の蓄積によりそういうものかとわかる、そんな性質のものです。
では、判例はなんといっているのか?
視点として、
- 客観的要件(第三者とされる者の有する権利もしくは法的地位)
- 主観的要件(その主観的態様)
という区別された基準を用いることが、提唱されています。
客観的要件
具体的には、不法占拠者はこれにあたらない、とされます(大判大正9年11月11日)。
不法占拠者は、その占有の継続を法的に承認されるような地位にありません。物権取得者の登記不存在を主張させて、明渡しの拒絶を認めてあげる必要などない。そういうことが、できそうです。
主観的要件
で、客観的要件を充たす者について、その次に問題となるのが、主観的要件(その主観的態様)になります。
判例は、
しかし、
〈背信的悪意者〉は「第三者」つまり「正当な利益を有する者」にあたらない。
そういっています。
〈悪意者〉が「正当な利益を有する者」にあたる?
??ですよね。
ここで〈悪意者〉とは、法律用語で「事情を知っていた人」という意味ですね。
事情を知らなかった人は、〈善意者〉。
事情を知り得た人は、〈有過失者〉。
特殊な用語ですね。
で、なぜ〈悪意者〉は「正当な利益を有する者」にあたるのか?事情を知っていたのに?
例えば、二重譲渡の事例で、すでにBからAに売却済の土地であることを「知っていたC」が、さらにBから土地を買い受ける契約を結んで、Aより先に登記をしてしまった場合。
単に事情を知っていたにすぎない〈単なる悪意者のC〉は、「Aの登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者」つまり「第三者」にあたるのです。
未登記のAからすれば、〈悪意者C〉に自らの所有権取得を対抗できない、ということになります。
なぜ?
判例は、理由を明確に説明していません。
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自由競争の範囲内?
範囲を逸脱?
学説で言われているのは次のようなことです。
資本主義の競争原理というやつです。
つまり、資本主義の社会では、ある物件をめぐって他者より良い条件を提示して競うことが許される。
二重譲渡の場合でいえば、Cは、Aよりさらに良い買値を提示して競うことが許される。
売主は、たとえすでにAに売却済であっても、Cから提示された買値がとても高くて契約済のAに違約金を支払ったとしてもまだCに売ったほうが得だ、というのであればCに売るでしょフツー。。
Aは、すぐに登記をしておけば防げたわけで、登記を怠ったのだから仕方ないでしょ。。
そんな趣旨のことです。
登記できたのに怠ったAに対するペナルティーという意味合いも強いのかなと思います。
ただ、「資本主義の競争原理」とか「Aに対するペナルティー」とかいっても、Cがとっても悪い奴で、害意を持ってAに先んじて登記してしまってザマアミロとか..そんなCが「正当な利益を有する者」にあたるのか?おおいに疑問ですよね。
そこで判例は、〈背信的悪意者〉すなわち、物権変動があった事実を知る者において,登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情がある場合には、「正当な利益を有する者」つまり「第三者」にあたらない、といいます。
「資本主義の競争原理」という視点からは、〈背信的悪意者〉は、もはや自由競争の範囲を逸脱している、といわれたりします。
(基本原則)
第一条 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3 権利の濫用は、これを許さない。
ここでも、〈背信的悪意者〉とは具体的にどんなひとをいうのか?は、判例の蓄積によります。
基準はあってないようなものですけど、あえて言えば、犯罪的な行為者でしょうか。
例えば、詐欺的行為でAの登記をさせずにおいて自ら登記してしまうとか、Aの取引に関わりながら背信的に自ら登記してしまうとか。。
具体例は、テキスト等で確認してみてくださいね。お願いします。
で、以上のことを前提に最判平成10年2月13日の判例をみてみると、あれ?おかしくね?と思いますよね。
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最判平成10年2月13日
最判平成10年2月13日は、次のようにいっています。
通行地役権(通行を目的とする地役権)の承役地(上の事例の乙土地)が譲渡された場合において、「譲渡の時に、右承役地(上の事例の乙土地)が要役地(上の事例の甲土地)の所有者によって継続的に通路として使用されていることがその位置、形状、構造等の物理的状況から客観的に明らかであり、かつ、譲受人がそのことを認識していたか又は認識することが可能であったとき」は、譲受人は、通行地役権が設定されていることを知らなかったとしても、特段の事情がない限り、地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらないと解するのが相当である」(最判平成10年2月13日)
第三者である譲受人は、「通行地役権が設定されていることを知らなかったとしても」つまり〈善意者〉であっても!?、「地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらない」といっています。
え?〈悪意者〉もOKだったはずでしょ?
〈善意者〉でもダメなの!?
ですよね。。
この判例は、とても特殊な判例です。
〈通行地役権の特殊性〉による、ということのようです。
つまり、通行地役権では、「自ら通路を開設して、20年間継続的に通路として使用して、地役権を時効取得した」という判例がありましたね。
通行するために通路を開設したりするんです。そうであれば、通行地役権が設定されている土地を買おうとする第三者にとって、通行地役権の存在は容易にわかるといえそうです。客観的に明らかじゃないかと。
そもそも、「登記をして公示してくださいね」と半ば登記を強制する目的は、「みんなにその旨わかるように」でした。
その目的からすれば、通行地役権の場合は、「通路の開設等により、地役権の存在は、客観的にみんなにわかるようになっているではないか。」と。つまり「公示の目的を満たしているといえるではないか。」と。「登記されているのと同じではないか。」と。
そういうことのようです。
もう一度判例をみてみますと、
「譲渡の時に、右承役地(上の事例の乙土地)が要役地(上の事例の甲土地)の所有者によって継続的に通路として使用されていることがその位置、形状、構造等の物理的状況から客観的に明らか」であり、かつ、「譲受人がそのことを認識していたか又は認識することが可能であったとき」は
つまり、「客観的に第三者にも認識し得た」という状態は、登記されているのと同じではないかと。であれば、第三者に対抗できる、第三者は対抗される、としても第三者には不意打ちとならないでしょと。
客観的に明らかなのに、第三者に「登記してないじゃないか!」なんて言わせる必要ないでしょと。
あえて一言で言えば、「登記はないけど公示の趣旨は満たしているからOK。」ってところです。
登記しているのと同じだから、第三者に登記の欠缺を主張させる必要ないでしょ。そういう特殊な判例なのです。
以上、通行地役権の特殊な性質による、極めて特殊な判例でしたね。
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小難しい言い回しの判例
なお、上の判例にみられる「第三者」の定義のように、小難しい言い回しをしている判例って結構あります。
例えば、賃借権の無断譲渡、無断転貸の事例で、「賃貸人の解除権の行使を制限する判例」があります。
判例は、次のようにいっています。
賃借人が賃貸人の承諾なく第三者をして賃借物の使用または収益をなさしめた場合でも、「賃借人の当該行為を賃貸人に対する背信的行為と認めるにたらない特段の事情があるとき」は、賃貸人は契約を解除することはできない。
ややこしいですね^^;
条文上は、賃借権の無断譲渡、無断転貸があった場合、賃貸人は、原則として解除できます。
(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
第六百十二条 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
2 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。
ただ、賃借人の方にも事情があってやむを得ないこともあります。例えば、「妻子に又貸しした形にして、自分も引き続き同居していた」という事例があります。このように、利用実態に変化は無くて、賃貸人に何の損害も生じないのに、形式的に解除を認めていいのかと。賃借人の立場は弱いから守ってあげないと。。
そんなことから、賃貸人の解除権行使に制限を加えました。
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信頼関係理論
つまり、賃貸借契約は、「当事者間の信頼関係を基礎とする継続的な契約関係」です。「この人なら信頼できるから貸してもいいや」という契約で、一回だけでなく、継続的に続いていく契約です。
であれば、「信頼関係が破壊されていない限り」解除を認める必要はないでしょと。賃貸人に何の損害も生じないのなら解除させる必要はないでしょと。
『信頼関係理論』といわれます。「信頼関係を破壊する背信行為がない段階では解除を認めないよ」そんな理論です。
これを判例は…
「賃借人の当該行為を賃貸人に対する背信的行為と認めるにたらない特段の事情があるとき」は、賃貸人は契約を解除することはできない。
といっているのです。
「~にたらない特段の事情があるときは~解除~できない」。
ホントややこしいですね。
よろしいでしょうか。もう一度確認します。
賃借権の無断譲渡、無断転貸があった場合、賃貸人は、原則として契約を解除できる。ただし、「賃借人の当該行為を賃貸人に対する背信的行為と認めるにたらない特段の事情があるとき」は、賃貸人は契約を解除することはできない。
こういう判例の小難しい(ややこしい)言い回しというのは、記述式でそのまま書かされたりします。
そういうものを全部書き出しておいて、記述式用に書けるように覚えてしまうことは、とても有効な方法だと思います。
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まとめ
基本中の基本こそ正確に!
判例の小難しい(ややこしい)言い回し部分は、記述式用に要チェック!
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今回は、以上です。
○
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