不動産物権変動 物権法

解除後の第三者と登記(民法545条)をわかりやすく(最高裁昭和35年11月29日判決)

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解除と登記

民法判例百選Ⅰ[第9版] No.52
解除と登記
(最高裁昭和35年11月29日)

今回は、〈解除と登記〉です。

〈解除と登記〉とは、例えば、「甲から乙へ不動産が譲渡され、登記も乙へと移転、その状況で、一方で、甲は乙の債務不履行を理由に甲乙間の法律行為を解除し、他方で、乙から第三者丙へ不動産が譲渡された、その場合における、甲丙間の法律関係の処理をどうするか」そんなお話です。

ここも、諸説あるところですけど、やはり、判例でいきましょう。実務は判例で動いています。判例を100%にすること。その一点に集中することを強くオススメします。

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二元的な枠組み

〈解除と登記〉について、判例はどう処理しているか?

そうですね。第三者丙の登場が「解除のか」、《二元的な枠組み》で処理しています。

《二元的な枠組み》による処理方法は、前回の〈法律行為の取消しと登記〉、今回の〈解除と登記〉、さらに〈遺産分割と登記〉の場面でも採用されています。状況は同じ。処理方法も同じ。セットで覚えておきましょう。

判旨をみてみましょう。

判旨

不動産を目的とする売買契約に基き買主のため所有権移転登記があつた後、右売買契約が解除せられ、不動産の所有権が売主に復帰した場合でも、売主は、 その所有権取得の登記を了しなければ、右「契約解除において買主から不動産を取得した第三者」に対し、所有権の復帰を以つて対抗し得ないのであつて、その場合、 第三者が善意であると否と・・・に拘らない

(解除の効果)
第五百四十五条  当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負うただし、第三者の権利を害することはできない
2  前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
3  解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。

(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
第百七十七条  不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法 (平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない

判旨では、青字部分、「解除の第三者」の処理についてのみ触れられています。

処理方法は、前回の〈法律行為の取消しと登記〉と全く同じ。「解除の前と後」、《二元的な枠組み》で処理します。

ただ、「解除の第三者」の保護要件について、「詐欺取消の第三者」の場合は、善意を必要とされたのに対して、「解除の第三者」の場合は、善意悪意は問わないけど、登記を備えることが必要とされます。”第三者の保護要件”の違いには注意です。

解除前の第三者

「解除の第三者」については、545条1項但書の適用により、「第三者の権利を害することはできない」として、第三者の保護を図ろうとしています。

というか、545条1項但書は、「解除の遡及効を制限して第三者保護を図る」趣旨の規定だから、ここにいう「第三者」とは、「解除の遡及効により影響を受ける第三者」つまり「解除時には既に登場していた解除の第三者」に限定して解すべきだ、とされています。

なお、”第三者の保護要件”として、「詐欺取消の第三者」の場合と異なり、「解除の第三者」の場合は善意悪意は問われません。その代わりに、登記を備えることが必要とされています。

つまり、

「第三者の取引の安全保護」といえば、忘れてはいけない視点がありましたね。

そう。「本人の帰責性」との比較衡量です。

「第三者の取引の安全」を図るための「第三者の保護要件」の内容は、〈「本人の帰責性」の大きさとの比較衡量により相関的に決まる〉といえます。

例えば、「本人の帰責性」が大きい場合には、「第三者の保護要件」は緩やかでよい、といえます。逆に、「本人の帰責性」が小さい場合にば、「第三者の保護要件」は厳しくなる、といえる。

これを標語的にいうと、

「本人の帰責性」と「第三者の取引の安全の要請」とを天秤にかけて判断する。

でしたね。

で、545条1項但書。ここでは、「本人の帰責性」はあるの?ってくらい小さいです。

解除の場面です。本人が解除するというのは、相手方が履行期になっても代金を支払わない、催告しても支払わない。で、本人は解除するわけです。

本人に落ち度ありますか?あえて言えば、そんな相手方を信頼して契約を結んだことに帰責性がある、という程度でしょう。あるとしても、帰責性はとても小さいです。96条3項と比べてもさらに小さい。

とすれば、「第三者の保護要件」はさらに厳しくするべきだ、と。「本人側の保護」の要請が大きいと。そこで、「第三者の保護要件」として登記を備えることを必要とする、と。

なお、解除の場合、第三者の主観は考慮できません。善意や無過失を要件とすることはできません。

なぜなら、解除原因を第三者が知っていたとしても、例えば、相手方が代金の支払いを遅延していたことを第三者が知っていたとしても、解除されるか否かは第三者には分かりません。遅れたものの支払うかもしれません。代金支払いの遅延を知っていたから保護しない、なんていえない。善意を要件とするなんていえないのです。そこで、残された要件といえば、”登記を備えること”しかないのですね。)

また、判例は、この「第三者の保護要件としての登記」を、”対抗要件としての登記”としているようです。大判大正10年5月17日。古い判例です。でも、ここは177条の適用場面ではありません。「詐欺取消の第三者」も「解除の第三者」も、177条の適用場面ではない。

177条というのは、「登記をしないでいると権利を対抗することができませんよ」「先に登記されたら権利を対抗できなくなってしまいますよ」そう脅かして、間接的に登記を強要する規定です。そうしないと、誰も登記なんてしないのです。お金かかるから。。

「登記をしないでいるとペナルティーがあるよ」そんなことをいえるのは、「登記ができる状態にある」からですね。「登記できるのに登記しないという状態」。この点で、「取消」や「解除」の本人は、まだ、「登記できる状態」にありません。

取り消したら、登記を取り戻せる状態になる。解除したら、登記を取り戻せる状態になる。だから、「詐欺取消の第三者」「解除の第三者」の場面では、177条の適用となるのです。本人は、「所有権の復帰を登記できるのに登記しないでいると第三者に対抗できなくなるよ」といえる。第三者も、「登記しないでいると所有権取得を対抗できないよ」といえる。177条の適用場面ですね。

にもかかわらず、、判例は、「解除の第三者」について、”対抗要件としての登記”を要件としています。大判大正10年5月17日。その意味するところは明らかではない、とされています。僕のおもうには、「第三者は登記をしないと保護されない、本人に権利を対抗できない」それはつまり”対抗要件”でしょ。そんな意味で使ったのかな?とおもっています。私見です。。ここの登記は、一般に、「権利保護資格要件としての登記」といわれています。

(「第三者の保護要件」の比較について詳しくは~No23 詐欺における善意の第三者の登記の必要性)

解除後の第三者

これに対して、「解除の第三者」については、解除による復帰的物権変動と第三者への物権変動とを対抗関係とみて、177条の適用により処理しています。

177条で処理するということは、「悪意の第三者であっても、登記を先に備えることで所有権取得を確定できてしまう」ことを意味します。(背信的悪意者は除く~民法177条「第3者」とは?基本は正確に!というお話。)

177条の適用可能性~登記可能性

上のように、結果的に、解除の前後で、第三者に必要とされる要件は「登記」という点で一致しています。

ただ、一般に、その意味するところは違う、とされています。

「解除の第三者」を、177条の適用により処理している、その根拠はどこにあるのでしょう?

キーワードとなるのが、”登記可能性”です。

「解除の第三者」との法律関係を、なぜ177条の適用により処理しているのか?

それは、解除をした本人は、解除以降は、その旨の登記を備えることが可能な状態となるからです。

解除によって、移転していた所有権が戻ってきた、つまり、「不動産に関する物権の変更を生じた」ということです。

「不動産に関する物権の変更を生じた」その時は、「登記による公示をすることで、みんなにわかるようにしてくださいね。不動産取引の安全を図るためにね。」「登記をしないでいると、権利を第三者に対抗できませんよ、はやく登記をした方がいいですよ。」こんな感じで、なかば登記を強制するかたちで、登記制度によって不動産取引の安全を図ろうとしている、これが177条の法意、趣旨です。

「登記可能な状態にある」以上、不動産取引の安全を図るため、「登記の先後をめぐって競い合う対抗関係」つまり、177条にのせられて処理されてもやむを得ない。そういえそうです。

「解除の第三者」との法律関係では、このことはあてはまりません。

解除である以上、「解除による物権変動を登記しなさい」とは、いえませんよね。まだ解除していないのだから。。その状態で、解除による復帰的な物権変動を登記しなさいとか、無理です。「解除は登記可能性がない」といえる。登記可能性がない以上、177条の処理にのせることはできないのです。

そこで、「解除の第三者」の保護は、第三者を保護する特別な規定によって図られる、そういうことになります。

「解除の第三者」の保護をはかる、第三者を保護する特別な規定とは、545条1項但書です。

その「第三者保護要件」として、上記のように、登記の具備を必要とされる。

つまり、結果的に、解除の前後で、「第三者には登記が必要とされる」点、共通している。

そういうことになります。

まとめ

「解除と登記」の処理についてみてきました。

〈第三者の登場が解除の前か後か〉、「解除の第三者」か「解除の第三者」か、《二元的な枠組み》で処理します。

この判例の処理方法は、結局のところ、「177条の適用により処理するのが妥当な場面か」「177条の適用可能性」の問題にいきつくとおもいます。その際のキーワードとなるのが、”登記可能性”となります。

《二元的な枠組み》による処理方法は、前回の〈法律行為の取消しと登記〉、今回の〈解除と登記〉、さらに〈遺産分割と登記〉の場面でも採用されています。

「取消した以降」は、登記可能性あり、177条で処理する。(「取消の第三者」は96条第3項で保護)

「遺産分割がされた以降」は、登記可能性あり、177条で処理する。(「遺産分割の第三者」は909条但書で保護)

状況は同じ。処理方法も同じ。ただ、「○○の第三者の保護要件」に違いがでます。そこだけ注意です。

(詐欺又は強迫)
第九十六条  詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる
2  相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3  前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない

(遺産の分割の効力)
第九百九条  遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない

今回は、以上です。

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