不動産物権変動

民法177条の物権変動の範囲〜無制限説(大審院明治41年12月15日)

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民法177条の物権変動の範囲

民法判例百選Ⅰ[第8版] No.54
民法177条の物権変動の範囲~一般論
(大審院明治41年12月15日)

今回は、『民法177条の物権変動の範囲』についてのお話です。

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判例の立場:無制限説

判例の立場を、確認しておきましょう。

判例は、177条の物権変動の範囲について、同条の《物権の得喪及び変更とは、「あらゆる物権変動を意味し、あらゆる物権変動について登記を必要とする」(無制限説)といい、
他方、同条の《第三者については、「あらゆる第三者をさすものではなく、「正当な利益を有する」第三者に限定される」(制限説)、という立場に立ちます。

《第三者》要件については、No62「民法177条の第三者~不法占拠者」で扱います。

今回は、《物権の得喪及び変更》要件について、無制限説をとることを明言した大審院判例をみていきましょう。

(物権の設定及び移転)
第百七十六条  物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。

(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
第百七十七条  不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法 (平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない

判旨をみてみましょう。

カタカナで、しかも、かなり長い判旨ですけど、177条の基本的な部分に触れられていて、たいへん勉強になる判例だとおもいます。

判旨

民法第百七十六条ニ物権ノ設定及ヒ移転ハ当事者ノ意思表示ノミニ因リテ其効力ヲ生ストアリテ当事者間ニ在リテハ動産タルト不動産タルトヲ問ハス物権ノ設定及ヒ移転ハ単ニ意思表示ノミニ因リテ其効力ヲ生シ他ニ登記又ハ引渡等何等ノ形式ヲ要セサルコトヲ規定シタルニ止マリ又其第百七十七条ニハ不動産ニ関スル物権ノ得喪及ヒ変更ハ登記法ノ定ムル所ニ従ヒ其登記ヲ為スニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ストアリテ不動産ニ関スル物権ノ得喪及ヒ変更ハ其原因ノ如何ヲ問ハス総テ登記法ノ定ムル所ニ従ヒ其登記ヲ為スニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ対抗スルヲ得サルコトヲ規定シタルモノニシテ右両条ハ全ク別異ノ関係ヲ規定シタルモノナリ之ヲ換言セハ前者ハ物権ノ設定及ヒ移転ニ於ケル当事者間ノ関係ヲ規定後者ハ物権ノ得喪及ヒ変更ノ事為ニ於ケル当事者ト其得喪及ヒ変更ニ干与セサル第三者トノ関係ヲ規定シタルモノナリ故ニ偶第百七十七条ノ規定即チ物権ノ得喪及ヒ変更ニ付テノ対抗条件ノ規定カ前顕第百七十六条ノ規定ノ次条ニ在ルトノ一事ヲ以テ第百七十七条ノ規定ハ独リ第百七十六条ノ意思表示ノミニ因ル物権ノ設定及ヒ移転ノ場合ノミニ限リ之ヲ適用スヘキモノニシテ其他ノ場合即チ意思表示ニ因ラスシテ物権ヲ移転スル場合ニ於テ之ヲ適用スヘカラサルモノトスルヲ得ス何トナレハ第百七十七条ノ規定ハ同一ノ不動産ニ関シテ正当ノ権利若クハ利益ヲ有スル第三者ヲシテ登記ニ依リテ物権ノ得喪及ヒ変更ノ事状ヲ知悉シ以テ不慮ノ損害ヲ免ルルコトヲ得セシメンカ為メニ存スルモノニシテ畢竟第三者保護ノ規定ナルコトハ其法意ニ徴シテ毫モ疑ヲ容レス而シテ右第三者ニ在リテハ物権ノ得喪及ヒ変更カ当事者ノ意思表示ニ因リ生シタルト将タ之ニ因ラスシテ家督相続ノ如キ法律ノ規定ニ因リ生シタルトハ毫モ異ナル所ナキカ故ニ其間区別ヲ設ケ前者ノ場合ニ於テハ之ニ対抗スルニハ登記ヲ要スルモノトシ後者ノ場合ニ於テハ登記ヲ要セサルモノトスル理由ナケレハナリ加之家督相続ノ如キ法律ノ規定ニ因リ物権ヲ取得シタル者ニ於テハ意思表示ニ因リ物権ヲ取得シタル者ト均シク登記法ノ定ムル所ニ従ヒ登記ヲ為シ以テ自ラ其権利ヲ自衛シ第三者ヲモ害セサル手続ヲ為シ得ヘキハ言ヲ俟タサル所ナレハ其間敢テ区別ヲ設ケ前者ハ登記ヲ為サスシテ其権利ヲ第三者ニ対抗シ得ルモノトシ後者ノミ登記ナクシテ其権利ヲ第三者ニ対抗シ得サルモノトスルノ必要ヲ認ムルニ由ナケレハナリ

まず、冒頭で、

「176条は、当事者間においては意思表示のみによって物権変動を生ずる、と規定しているにとどまり、他方、177条は、物権変動は登記をしない限り第三者に対抗できない、と規定した条文である、両条は、全く別異の関係を規定したもの

つまり、「176条は、物権変動における当事者間の関係を規定し、177条は、物権変動における当事者と第三者との関係を規定したものといっています。

その上で、「たまたま、177条が176条の次条にあるからといって、177条が意思表示に基づく物権変動のみに適用され、意思表示によらない物権変動には適用されない、とすることはできない」といいます。

なぜなら、「177条は、同一の不動産に関して正当な利益を有する第三者に対して、登記によって物権変動の事実を知らしめることで、不測の損害を被らないようにするためにあるのであって、その法意は第三者保護にあることは疑いようがない。」

「第三者にとっては、物権変動が当事者の意思表示によって生じたか、意思表示によらず法律の規定により生じたか、はなんら異なるところがないのであって、第三者保護の観点からすれば、両者を区別して、意思表示による物権変動を第三者に対抗するには登記を必要とされ、意思表示によらない物権変動を第三者に対抗するには登記を必要としない、とすべき理由はない。」

加えて、「意思表示によらずに物権を取得した者も、意思表示により物権を取得した者と同じく、登記を備えることによって、自らの権利を自衛し、かつ第三者に損害を与えることのないように、手続きをなしうることはいうまでもないことであり(登記可能性)、両者を区別して、意思表示によらずに物権を取得した者は、登記をしなくてもその権利を第三者に対抗できるとし、意思表示により物権を取得した者のみ、登記をしないとその権利を第三者に対抗できない、とする理由はない。」

そういっています。

つまり、177条は、意思表示に基づく物権変動のみならず、意思表示によらない物権変動も含む、あらゆる物権変動に適用される》(無制限説)ことを明言した判例、といえます。

まとめ

今回は、177条について一般論を展開した判例、についてみてきました。

華々しい論点展開があるわけでもなく、地味で、面白みのない印象の判例ではあります。

でも、こうした基本的な部分をきちんと押さえることは、177条をめぐる数ある論点の、一貫性をもった確かな理解の土台となり、助けとなります。

飛ばされがちで、あまり読まれることも少ない判例とはおもいつつ、あえてとりあげた理由は、そんなところにあります。

今回は、以上です。

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