不動産物権変動 物権法

特約によらない中間省略登記請求権をわかりやすく(最高裁昭和40年9月21日判決/最判平成22年12月16日)

更新日:

中間省略登記請求権

民法判例百選Ⅰ[第9版] No.49
特約によらない中間省略登記請求権
(最高裁昭和40年9月21日)

今回は、中間省略登記のお話です。

中間省略登記とは、例えば、P→Q→R の順に物権変動があったときに、中間者Qを省略して、直接に、P→Rへと移転登記をすることをいいます。

photo credit: Geraint Rowland Photography Sunset Surf Art, Peru via photopin (license)

中間省略登記《2つの場面》

中間省略登記の問題は、大きく2つの場面にわけて議論されています。

・〈すでになされた中間省略登記の効力が問題となる場面〉。

・〈これから中間省略登記をしようとする中間省略登記請求の可否の場面〉 (本判例はこちら)。

〈すでになされた場面〉と〈これからしようとする場面〉とでは、考慮すべき利益は微妙に異なります。

ただ、全ての議論を導き決する、中心的な理念、原則があります。

それは、物権変動の過程を忠実に登記記録に反映させようとする不動産登記法の理想・原則です。

不動産登記というのは、「物権の得喪及び変更が生じたときは、その変動の過程を登記の形で公示することにより、みんなにみえるようにして、不動産取引の安全を図ろうとする」そんな制度です。

虚偽の登記はもちろん、登録免許税の節約などのために物権変動の過程を一部省略した登記をすることも、《不動産登記法の理想》からすれば、許されないことといわざるをえません。

近年における不動産登記法の全面改正により、《物権変動過程の忠実な公示の要請》が強まっている状況もあり、中間省略登記をめぐる議論の再検討の必要性が示唆されていたようです。

そのような状況のもと、〈これから中間省略登記をしようとする中間省略登記請求の可否の場面〉について、今回の判例の立場を実質的に修正する新判例として、最判平成22年12月16日がでています。

〈すでになされた場面〉と〈これからしようとする場面〉、今回の判例、そして、今回の判例の立場を実質的に修正する新判例。

順を追って、みていきましょう。

すでになされた中間省略登記の効力が問題となる場面

不動産登記法の理想》に反する中間省略登記がすでになされている場合、すでになされた登記を無効にすることは、法的安定性を害し、かえって不動産取引の安全を害しかねない危険があります。

そこで、「すでになされた中間省略登記の無効の主張(抹消登記請求)は、それを主張することのできる正当な利益をもつ中間者だけ」というのが判例の立場です。

例えば、中間者Qを無視して中間省略登記P→Rがなされた結果、中間者Qは、Rに対して、「代金を支払ってくれないなら、移転登記に協力しませんよ」という同時履行の抗弁権を主張する機会を奪われてしまった、つまり、中間省略登記によって、自らの権利を奪われてしまった、そんな「無効の主張をする正当な利益を有する中間者が存在する場合のみ、その中間者にだけ抹消登記の請求を認める」それが、判例の立場です。

「法的安定性の要請」「中間者の正当な利益の保護」との調整を図ろうとする立場、といえます。

これから中間省略登記をしようとする中間省略登記請求の可否の場面 (本判例はこちら)

他方、〈これから不動産登記法の理想に反する中間省略登記をしようとする中間省略登記請求の場合〉は、真っ向から不動産登記法の理想・原則と衝突することになります。

これ、認められませんよね。中間者がOKだとして、関係当事者の合意があったとしても、そんな申請、認めないでしょ?

「登録免許税を払って、ちゃんと登記してよ 」

「節約とかいわないでよ」

そういいたくなります。

実際、登記実務において、申請による中間省略登記は、たとえ全員の合意があっても、行われていないようです。

今回の判例は、「原則、中間省略登記請求は許されないとしつつ、登記名義人および中間者の同意ある場合は別である」といっています。

しかし、それはやはり、不動産登記法の理想に真っ向から反することになります。しかも、近年における不動産登記法の全面改正により、物権変動過程の忠実な公示の要請が強まっている状況もあります。

そんな中、最判平成22年12月16日がでました。

最判平成22年12月16日は、「登記名義人や中間者の同意の有無を問うことなく、中間省略登記請求を否定」しています。今回の判例の立場を実質的に修正する新判例として、評されています。

では、今回の判例の判旨と、最判平成22年12月16日の判旨と、続けてみてみましょう。

今回の判例の判旨

実体的な権利変動の過程と異なる移転登記を請求する権利は、当然には発生しないと解すべきであるから、甲乙丙と順次に所有権が移転したのに登記名義は依然として甲にあるような場合に、現に所有権を有する丙は、甲に対し直接自己に移転登記すべき旨を請求することは許されないというべきであるただし、中間省略登記をするについて登記名義人および中間者の同意ある場合は別である(論旨引用の当裁判所判決は、すでに中間省略登記が経由された後の問題に関するものであつて、 事案を異にし本件には適切でない。)本件においては、登記名義人の同意について主張、立証がないというのであるから、上告人の中間省略登記請求を棄却した原判決の判断は正当であつて、不動産登記法に違反するとの論旨は理由がない。また、 登記名義人や中間者の同意がない以上、債権者代位権によつて先ず中間者への移転登記を訴求し、その後中間者から現所有者への移転登記を履践しなければならないのは、物権変動の経過をそのまま登記簿に反映させようとする不動産登記法の建前に照らし当然のことであつて、中間省略登記こそが例外的な便法である

「中間省略登記をするについて登記名義人および中間者の同意ある場合は別である」として、合意がある場合に限り、例外的に中間省略登記請求を認めています。

これに対して・・

最判平成22年12月16日の判旨

不動産の所有権が,元の所有者から中間者に,次いで中間者から現在の所有者に,順次移転したにもかかわらず,登記名義がなお元の所有者の下に残っている場合において,現在の所有者が元の所有者に対し,元の所有者から現在の所有者に対する真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を請求することは,《物権変動の過程を忠実に登記記録に反映させようとする不動産登記法の原則》に照らし,許されないものというべきである

登記名義人および中間者の同意の有無を問うことなく、中間省略登記請求を否定しています。

まとめ

今回のタイトルは「特約によらない中間省略登記請求権」となっています。

これは、「特約(中間省略登記の同意)があれば中間省略登記請求が例外的に認められる」そんな意味を含んでいます。最高裁昭和40年9月21日では、同意による例外を認めていました。

しかし、最判平成22年12月16日の判例では、そのような例外には言及されておらず、従来の判例の立場は実質的に修正された、と評されています。

今回は、以上です。

これを書いたひと🍊

-不動産物権変動, 物権法

Copyright© 民法判例わかりやすく総則物権編 , 2024 All Rights Reserved Powered by STINGER.