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代理権の濫用(改正民法107条)-(改正前)民法93条但書類推適用(最判昭和42年4月20日判決)をわかりやすく

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代理権濫用

民法判例百選Ⅰ[第8版] No.26
代理権の濫用
(最判昭和42年4月20日)

今回は、『代理権の濫用』です。

有名な論点ですね。

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ここは、確立され、蓄積された判例法理のあるところで、「民法改正の要綱仮案」においても、判例と同じ立場(相手方の主観的要件)を採用した明文規定を設けることが、検討されています。

2020年4月1日施行の改正民法では、国民一般にとっての分かりやすさの向上を目的として、本件判例の趣旨を踏まえて、代理権の濫用について規定を新設、明文化しました(新法107条)。

(代理権の濫用)
新法第百七条  代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす

ここでは、旧法での議論(93条但書類推適用)についておさらいしておきましょう

有力な学説もありますけど、学説の知識を聞かれることはまずありません。

学説を読む余裕があるようなら、その時間を、判例を深く理解、納得することにあてることをオススメします。

事案

Y社のために商品の仕入れを行う代理権をもつ仕入主任Aは、法律行為の効果をY社に帰属させる(代金支払い債務を負わせる)意思をもちながらも、取引商品を他に転売して自らがその利益を横領する意図をもって、代理行為をしました。

取引相手方Xは、Aの意図について悪意でした。

この場合に、Y社は、Xに対して、本件取引による代金支払い債務を負うことになるのか?が争われました。

そんな事案です。

判旨

〈代理人が自己または第三者の利益をはかるため権限内の行為をしたとき〉は相手方が代理人の右意図を知りまたは知ることをうべかりし場合に限り、民法九三条但書の規定を類推して、本人はその行為につき責に任じないと解するを相当とするから、

原判決が確定した前記事実関係(取引相手方Xは、Aの意図について悪意であった)のもとにおいては、Y社に本件売買取引による代金支払の義務がないとした原判示は、正当として是認すべきである。

(心裡留保)
旧法第九十三条  意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする

新法第九十三条  意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
2 前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない

2020年4月1日施行の改正93条について

代理権の濫用

代理権の濫用とは、〈代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした〉場合をいいます。

まず、確認することは、代理権の濫用は、〈代理権の範囲内の行為である〉ということ。

つまり、有権代理であり、その代理権はあるのです。

したがって、その効果は本人に帰属するのが原則です。

Aには仕入れの代理権がありますね。本人に効果帰属させる意思(顕名)もある。代理行為の要件は満たしています。

ただ、〈代理人の内心に濫用の意図がある〉。内心にあるだけです。

こうした状況では、やはり、「相手方の信頼保護」「取引の安全」を図る必要があります。相手方としては、代理人の内心の濫用意図なんて分からないからです。

そこで、代理権濫用の法律行為も、原則として有権代理で有効、本人に効果帰属します。

ただし、「相手方の取引安全」を図る必要がない場合、、相手方が悪意や有過失の場合には、むしろ代理人による横領の被害者である「本人の保護」のほうを優先して、法律行為の効果は本人に効果帰属しないとされる。

問題は、この結論、法律構成の根拠となる、『代理権濫用』について直接に定めた明文の規定がない、ということです。『代理権の逸脱』についての規定はあるけれど(110条)、「代理権の濫用』についての規定はありません。

93条但書類推適用

じゃあということで、民法のなかを探してみたところ、うえの利益状況にピッタリあう条文があるじゃないの。93条但書があるじゃないの。類推適用すればいいじゃないのと。

本件判例も次のようにいっていますよね。

相手方が代理人の右意図を知りまたは知ることをうべかりし場合に限り、民法九三条但書の規定を類推して、本人はその行為につき責に任じない

(心裡留保)
第九十三条  意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする

新法第九十三条  意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
2 前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない

2020年4月1日施行の改正93条について

つまり、93条但書類推適用という法律構成は、「悪意または有過失の相手方は保護されない」という一般法理を93条但書に仮託したにすぎない、そういうものといわれています。

以上、今回は、超有名な判例でした。

旧法と新法の比較

旧法には、代理権濫用に関する規定はありませんでした。

判例は、相手方が悪意又は有過失の場合に、旧93条但書を類推適用して、「本人はその行為につき責に任じない」と解していました。

ただ、93条但書を類推適用する結果、代理行為は無効となり、無効行為については、本人は追認できないとされました。(119条本文)

(心裡留保)
旧第九十三条  意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする

(無効な行為の追認)
第百十九条  無効な行為は、追認によっても、その効力を生じない。ただし、当事者がその行為の無効であることを知って追認をしたときは、新たな行為をしたものとみなす。

これに対して、新法では、代理権を濫用した行為は、相手方が悪意又は有過失の場合、「代理権を有しない者がした行為とみなす」つまり無権代理行為とみなすとされました。(107条)

その結果、その行為が本人に有利なときは、本人は追認できることになり(113条、116条)、より柔軟な事案の解決が可能になったと指摘されています。

(代理権の濫用)
新法第百七条  代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす

(無権代理)
第百十三条  代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない
2  追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない。

(無権代理行為の追認)
第百十六条  追認は、別段の意思表示がないときは、契約の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

また、無権代理行為とみなされる結果、代理権を濫用した代理人は、相手方に対して、無権代理人の責任を負うことになります。(117条)

(無権代理人の責任)
第百十七条  他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
2   前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一  他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。
二  他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし、他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、この限りでない。
三  他人の代理人として契約をした者が行為能力の制限を受けていたとき。

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