民法判例百選Ⅰ[第8版] No.27
白紙委任状と代理権授与表示
(最判昭和39年5月23日)
今回は、《白紙委任状と代理権授与表示》というお話です。
ケースを分けたり、一見すると複雑そうにみえますけど、なんてことはない、「そうだろうなあ」の内容にすぎません。
暗記してもすぐ忘れます。。
納得しておけば、忘れても自力で引っ張りだすことができます。「この場合はこうだからこうでしょ」みたいな感じで。
何度も何度も納得しておけば、忘れてしまってもOK。
では、みていきましょう。
◇
photo credit: akigabo Yesterday via photopin (license)
◇
白紙委任状と代理権授与表示
(代理権授与の表示による表見代理)
第百九条 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。
2 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。
109条は、実際には代理権を与えていなかったのに、本人が「○○に代理権を与えました」旨を表示した場合の表見代理です。
第三者からすれば「○○に代理権あり」と信じるのが自然だから、軽率にもそんな表示をした本人とそれを信頼した第三者との利益衡量から、無権代理行為の効果を本人に帰属させてしまうというものです。
No.27の判例では、白紙委任状の交付と相手方への白紙委任状の呈示がされた場合、109条の授与表示があったものとして、本人は109条の責任を負うのか?が問題となりました。
《白紙委任状と代理権授与表示》の論点では、交付された白紙委任状の性質・趣旨によって、類型を分けて考えられています。
1、〈輾転予定型〉白紙委任状の正当な取得者なら誰が行使しても差し支えない趣旨で交付された場合
→ 取得者が空白部分を濫用した場合どうなるか?
2、〈非輾転予定型〉代理権が特定の者に授与され、その者が利用するために白紙委任状が交付された場合
→ア、直接型;直接的被交付者が空白部分を濫用した場合どうなるか?
→イ、間接型;転得者が空白部分を濫用した場合どうなるか?
(ここはさらに、委任事項欄非濫用型と委任事項欄濫用型に分かれます)
1、〈輾転予定型〉白紙委任状の正当な取得者なら誰が行使しても差し支えない趣旨で交付された場合
白紙委任状を正当に取得した者ならば誰でも行使してよいわけですから、白紙委任状の取得者が委任事項について代理行為をすると、有権代理となり、本人に効果帰属します。
しかし、取得者が空白部分を濫用して、委任事項以外のことをやってしまった場合には、無権代理となります。
この場合、一定の代理権はあったわけなので、権限外の行為ということで110条の適用が問題となりますね。
(権限外の行為の表見代理)
第百十条 前条第一項本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。
2、〈非輾転予定型〉代理権が特定の者に授与され、その者が利用するために白紙委任状が交付された場合
この場合は、代理権を与えられた特定の者が委任事項について代理行為をしたときに有権代理となり、本人に効果帰属します。
では、ア、本人から直接白紙委任状の交付を受けた特定の者が空白部分を濫用した場合(直接型)、どうなるか?
あるいは、イ、白紙委任状の転得者が空白部分を濫用した場合(間接型)、はどうなるか?
→ア、直接型;白紙委任状の直接的被交付者が空白部分を濫用した場合
白紙委任状の直接の被交付者は一定の代理権はもっていたわけなので、権限外の行為ということで110条の問題となりますね。
第百十条 前条第一項本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。
なお、直接的被交付者が予定外の相手方と取引したときは、その相手方に対して、白紙委任状によって授権表示されたといえるかが問題となり、判例は認める傾向にあるようです。白紙委任状なんて交付している本人の自業自得ということのようです。
→イ、間接型;白紙委任状の転得者が空白部分を濫用した場合
ここでの転得者はなんの代理権もありません。
この場合であっても、本人が交付している白紙委任状によって授権表示があったといえるか?が問題となります。
ここはさらに、委任事項欄非濫用型と委任事項欄濫用型に分かれます。
委任事項欄非濫用型とは、単に代理人の空白部分あるいは相手方の空白部分が濫用されたにすぎず、委任事項の部分の濫用があっても顕著ではない場合です。
本人にとって、予定していた結果(委任事項)は一応達成されるているわけで、本人の不利益はさほど大きくないといえます。
判例は授権表示を認める傾向にあるようです。つまり、109条の適用を肯定する〜第三者の信頼を保護して本人に責任を負わせる。
これに対して、委任事項欄濫用型は、委任事項の部分の濫用が顕著な場合です。
本人は予定外の不利益を被ることになるので、本人保護の必要があります。
判例は授権表示を認めず、つまり、109条の適用を否定する傾向にあるようです〜第三者の信頼保護よりも本人保護を優先する。
○
以上、複雑なようですけど、それぞれの内容は一言でいえるような簡単なことです。
外観法理や表見法理の適用場面においては、「本人の利益(帰責性)と第三者の利益(信頼)とを比較衡量して(天秤にかけて)判断する」のでしたね。
上の各類型においても、本人の利益と第三者の利益とを天秤にかけて結論を導き出しています。確認してみてくださいね。
で、No.27の判例です。
○
事案
XはAから12万円を借り受け、担保としてX所有の不動産に抵当権を設定。
登記手続きのために不動産の権利証、白紙委任状、印鑑証明書をAに交付しました。
ところが、Aは、金融を得る目的で、白紙委任状等をBに交付してしまいました。
Bはなんの代理権もないのに、白紙委任状等をYに呈示して、自分はXの友人で承諾を得ているとウソをついて、Yとの間で、BのYに対する債務の担保として、本件不動産に極度額100万円の根抵当権設定契約を結んで、登記もしてしまいました。
これに気付いたXは、右根抵当権設定登記の抹消登記を請求。
これに対して、Yは、109条が適用され、表見代理が成立する(つまりXに効果帰属する)と主張しました。
そんな事案です。
[注。上の類型でいうと、2、非輾転予定型 →イ、間接型;白紙委任状の転得者が空白部分を濫用した場合(そのなかの委任事項欄濫用型)の事案になります。
つまり、判例は授権表示を認めず、109条の適用を否定する傾向にある〜第三者の信頼保護よりも本人保護を優先する場面ですね。]
○
判旨
不動産登記手続に要する前記の書類は、これを交付した者よりさらに第三者に交付され、転々流通することを常態とするものではないから(注。非輾転予定型)、
不動産所有者は、前記の書類を直接交付を受けた者において濫用した場合(注。直接型)や、とくに前記の書類を何人において行使しても差し支えない趣旨で交付した場合(注。本人が転々流通OKというならOK)は格別、
右書類中の委任状の受任者名義が白地であるからといって、当然にその者よりさらに交付を受けた第三者がこれを濫用した場合(注。間接型)にまで民法109条に該当するものとして、濫用者による契約の効果を甘受しなければならないものではない。
授権表示を否定していますね。
Xが予定していた委任事項は、自分の12万円の債務のために抵当権の設定登記をすることでした。
これに対して、白紙委任状の転得者Bによって実際になされたのは、Bの債務を担保するための極度額100万円の根抵当権設定登記でした。
予定は自分の12万円の債務のための抵当権だったのに、実際にされたのは、他人Bの債務のための極度額100万円の根抵当権設定契約。
本人Xは予定外の大きな不利益を被ってしまいます。本人保護を図る必要がある。
そういう事案でした。
○
まとめ
表見法理の適用場面においては、「本人の利益と第三者の利益とを比較衡量して判断」をします。
第三者を保護するということは、本人が犠牲になっても仕方がないということです。
本人に犠牲になってもやむを得ない帰責性があるといえるのか?
帰責性が認められるとしても、被る不利益が帰責性の大きさに不釣合いなほど大きくなり過ぎではないか?
第三者の側にも代理権を疑うべき落ち度があったのではないか?
一方に偏ることなく、双方の利益を自分の言葉にして天秤にかけて、類型ごとの判例の結論を納得しておくことをオススメします。
○
今回は、以上です。
○
○
これを書いたひと🍊