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無権代理人の責任

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無権代理人の責任
民法判例百選Ⅰ[第7版] No.34
無権代理人の責任
(最高裁昭和62年7月7日)

今回は、「無権代理人の責任」のお話です。

117条というひとつの条文の知識ではありますけど、これだけで一問作れるほど、中身のギュッと詰まった中身の濃い条文だったりします。

 

photo credit: Lenny K Photography The Lone Tree via photopin (license)

 

さっそく、条文からみていきましょう。

(無権代理人の責任)
第百十七条  他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う
2  前項の規定は、他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき、若しくは過失によって知らなかったとき、又は他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったときは、適用しない。

条文だけ読んでもピンときませんよね。

判旨をみてみましょう。

〇 判旨 〇

民法一一七条による無権代理人の責任は、無権代理人が相手方に対し代理権がある旨を表示し又は自己を代理人であると信じさせるような行為をした事実を責任の根拠として、相手方の保護と取引の安全並びに代理制度の信用保持のために、法律が特別に認めた無過失責任であり、同条二項が「前項ノ規定ハ相手方カ代理権ナキコトヲ知リタルトキ若クハ過失ニ因リテ之ヲ知ラサリシトキハ之ヲ適用セス」と規定しているのは、同条一項が無権代理人に無過失責任という重い責任を負わせたところから、相手方において代理権のないことを知つていたとき若しくはこれを知らなかつたことにつき過失があるときは、同条の保護に値しないものとして、無権代理人の免責を認めたものと解されるのであつて、(a)その趣旨に徴すると、右の「過失」は重大な過失に限定されるべきものではないと解するのが相当である。また、(b)表見代理の成立が認められ、代理行為の法律効果が本人に及ぶことが裁判上確定された場合には、無権代理人の責任を認める余地がないことは明らかであるが、(c)無権代理人の責任をもつて表見代理が成立しない場合における補充的な責任すなわち表見代理によつては保護を受けることのできない相手方を救済するための制度であると解すべき根拠はなく右両者は、互いに独立した制度であると解するのが相当である。(d)したがつて、無権代理人の責任の要件と表見代理の要件がともに存在する場合においても、表見代理の主張をすると否とは相手方の自由であると解すべきであるから、相手方は、表見代理の主張をしないで、直ちに無権代理人に対し同法一一七条の責任を問うことができるものと解するのが相当である。(e)そして、表見代理は本来相手方保護のための制度であるから、無権代理人が表見代理の成立要件を主張立証して自己の責任を免れることは、制度本来の趣旨に反するというべきであり、したがつて、右の場合、無権代理人は、表見代理が成立することを抗弁として主張することはできないものと解するのが相当である。

注、(a)~(e)は僕が付けたものです

長いですけど、分かりやすいように論点ごとに(a)~(e)を付けたり、色分けしたりしてみました。いかがでしょうか。。

判旨の冒頭で117条の趣旨が書かれています。ここから全ての論点の結論が導かれます。正確に押えておきましょう。

民法一一七条による無権代理人の責任は、無権代理人が相手方に対し代理権がある旨を表示し又は自己を代理人であると信じさせるような行為をした事実を責任の根拠として、相手方の保護と取引の安全並びに代理制度の信用保持のために、法律が特別に認めた無過失責任であり、

117条の責任は、あたかも自分を代理人であるかのように装った無権代理人に対して、代理制度の信用保持のために、法律が特に重い責任を定めたもの、つまり、無過失責任を定めたものである。そう明言しています。
それを前提に、2項については次のようにいいます。

同条二項が「前項ノ規定ハ相手方カ代理権ナキコトヲ知リタルトキ若クハ過失ニ因リテ之ヲ知ラサリシトキハ之ヲ適用セス」と規定しているのは、同条一項が無権代理人に無過失責任という重い責任を負わせたところから、相手方において代理権のないことを知つていたとき若しくはこれを知らなかつたことにつき過失があるときは、同条の保護に値しないものとして、無権代理人の免責を認めたものと解される

無権代理人の責任は、相手方の保護、代理制度の信用保持のために、法律が特別に無過失責任という重い責任を定めたものでした。相手方の保護のためという趣旨ですので、相手方が悪意または有過失のときは117条の保護を与える必要はない、無権代理人の重い責任は免除される。そういっています。

以上を前提に、(a)~(e)をみてみましょう。

(a)その趣旨に徴すると、右の「過失」は重大な過失に限定されるべきものではないと解するのが相当である。

ここは、2項の「過失」の意味について最高裁の立場を明言したものです。ここは解釈上の争いがあって、下級審では重過失と解釈すべきだとする判例もあったため、当然のようなことをあえて書いているのです。判旨はこうもいっています。

民法は、過失と重大な過失とを明らかに区別して規定しており、 重大な過失を要件とするときは特にその旨を明記しているから(例えば、九五条、 四七〇条、六九八条)、単に「過失」と規定している場合には、その明文に反して これを「重大な過失」と解釈することは、そのように解すべき特段の合理的な理由がある場合を除き、許されないというべきである。

条文に「過失」と明記されてる以上「過失」だと。

法律の制定改廃をするのは国会の役割です。国民の権利義務に関わる法律の制定改廃は、国民の選挙で選ばれた、国民の代表機関である国会に権限がある。裁判所が解釈を通して事実上の立法作用をすることは控えるべきだとされています。行政書士試験では学説は不要です。混乱するだけなので見ないことが賢明です。条文に「過失」とある以上「過失」の意味でしょ、それで十分です。当然のこと。で、次にいきましょう。

(b)表見代理の成立が認められ、代理行為の法律効果が本人に及ぶことが裁判上確定された場合には、無権代理人の責任を認める余地がないことは明らかである

裁判上確定された場合の話です。相手方が裁判を起こして、表見代理の成立を認める判例が確定した。本人への効果帰属が確定したんですね。その場合には、もはや相手方保護を図るための無権代理人の責任を認める必要はないでしょ。そんなところです。裁判の意味がなくなってしまいますからね。で、次。

(c)無権代理人の責任をもつて表見代理が成立しない場合における補充的な責任すなわち表見代理によつては保護を受けることのできない相手方を救済するための制度であると解すべき根拠はなく、右両者は、互いに独立した制度であると解するのが相当である。

ここも余計なことが書かれていますね。上で、「過失」は重過失ではないと余計なことが書かれていました。ここでも、「無権代理人の責任をもつて表見代理が成立しない場合における補充的な責任すなわち表見代理によつては保護を受けることのできない相手方を救済するための制度であると解すべき根拠はなく」なんて余計なことに触れています。そういう有力な学説があったからです。そうではないとあえて触れただけです。最高裁の立場は、下線を引いた部分、つまり、表見代理と無権代理人の責任は互いに独立した制度である。どちらも相手方を保護するための独立した制度であると。補充的な責任などではありません。これを前提に、次のようにいいます。

(d)したがつて、”無権代理人の責任の要件と表見代理の要件がともに存在する場合”においても、表見代理の主張をすると否とは相手方の自由であると解すべきであるから、相手方は、表見代理の主張をしないで、直ちに無権代理人に対し同法一一七条の責任を問うことができるものと解するのが相当である。

選択責任説です。どちらも相手方を保護するための独立した制度でした。であれば、相手方は主張しやすいほうを主張することができる。選択的にどちらの責任も主張することができます。そうだとすると・・

(e)そして、表見代理は本来相手方保護のための制度であるから、無権代理人が表見代理の成立要件を主張立証して自己の責任を免れることは、制度本来の趣旨に反するというべきであり、したがつて、右の場合、無権代理人は、表見代理が成立することを抗弁として主張することはできないものと解するのが相当である。

表見代理も無権代理人の責任も、相手方を保護するための独立の制度でした。だから、相手方は選択的にどちらの主張もすることができます。無権代理人の側から、相手方に対して、「表見代理が成立するのだから、私に責任を追求するのはやめてよ」そんなことはいえるわけありません。表見代理は無権代理人の責任を免れさせるためのものではない、当たり前のことを確認したにすぎない、そう読んでおけば十分です。

まとめ

117条は意外にも中身の濃い条文でした。上では触れていない知識もまだあります。例えば、2項の後段には、無権代理人が行為能力のないときは適用しないとあります。制限能力者を保護するために、要件として無権代理人が行為能力を有することが加えられているのです。

また、責任の内容は、履行責任または損害賠償責任です。無権代理人が履行責任を負う?本人の所有物を無権代理人が履行する(引き渡す)なんてできませんよね。ここの意味は、相手方が履行責任を選択したときは、無権代理人が本人から目的物の所有権を取得すると、無権代理人と相手方との間に売買契約が結ばれたと同じ効果を生じる(相手方に所有権が移転する)、そういう意味です。そして、履行責任と並ぶ損害賠償責任の内容は、履行請求に代わる損害賠償として、信頼利益のみではなく履行利益も含むとされています。例えば、自分のものになると信じていろいろ揃えた出費だとか現地を見に行った交通費や調査費とかに限られず、履行を受けていたなら得ていたであろう値上がり益とかも含まれます。

117条で問題を作るとしたら、間違いの肢をだーっと並べればすぐ一問作れますね。例えば、117条は補充的な責任であるとか、2項の「過失」は重過失を意味するとか、相手方はまず表見代理の主張をするべきだとか、無権代理人は表見代理が成立することを主張立証して抗弁とすることができるとか、相手方は損害賠償できるにとどまり履行責任の追求はできないとか、無権代理人は行為能力の有無を問わず責任を負うとか。。すべて間違いですよ。念のため。

本試験では、出題の予想された本命部分をちょっとずらした、肩すかしのような、あったなあ・・というような、本命の周辺の少々細かい知識が問われたりします。そういう意味で、117条はいい感じの条文のようにおもいます。押えておくことをオススメします。

 

今回は、以上です。

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