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法律行為の取消しと登記

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詐欺取り消しと登記

民法判例百選Ⅰ[第7版] No.53
法律行為の取消しと登記
(大審院昭和17年9月30日)

今回は、〈法律行為の取消しと登記〉です。

〈法律行為の取消しと登記〉とは、例えば、「XからYへ不動産が譲渡され、登記もYへと移転、その状況で、一方で、XはXY間の法律行為を取消し、他方で、Yから第三者Zへ不動産が譲渡された、その場合における、XZ間の法律関係の処理をどうするか」そんなお話です。

様々な見解のあるところです。でも、やはり、判例でいきましょう。実務は判例で動いています。判例を100%にすること、その一点に集中することをオススメします。

 

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で、〈法律行為の取消しと登記〉について、判例はどう処理しているのでしょう?

そうですね。第三者Zの登場が「取消しの前か後か」、《二元的な枠組み》で処理しています。

今回の判旨をみてみましょう。

〇 判旨 〇

凡そ民法96条第3項に於いて「詐欺による意思表示の取消しはこれをもって善意の第三者に対抗することを得ざる」旨規定せるは、取消によりその行為が初めより無効なりしものと看做さるる効果則ち”取消の遡及効を制限する趣旨”なれば、ここに所謂「第三者」とは「取消の遡及効により影響を受くべき第三者」、則ち「取消前より既にその行為の効力につき利害関係を有せる第三者」に限定して解すべく取消以後において始めて利害関係を有するに至りたる第三者」は、仮にその利害関係発生当時詐欺及取消の事実を知らざりしとするも右条項の適用を受けざること、原判示の如くなりといえども、右条項の適用なきの故をもって直ちにしかる第三者に対しては取消の結果を無条件に対抗し得るものと為すを得ず。今これを本件について観るに、本件売買が・・詐欺により取消し得べきものなりとせば、本件売買の取消しにより土地所有権はXに復帰し初めよりY1に移転せざりしものと為るも、この物権変動は民法177条により登記を為すに非ざれば之をもって第三者に対抗することを得ざるを本則と為すをもって、取消後Y1との契約により権利取得の登記をなしたるY2にこれを対抗し得るものとなすには、取消による右権利変動の登記なきこと明らかなる本件に於いては、その登記なきもこれをY2に対抗しうべき理由を説明せざるべからず。然るに原判決はこの点につきなんら説示するところなくして、取消による右権利変動を当然Yに対抗し得るものと如く解し・・・

(詐欺又は強迫)
第九十六条  詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる
2  相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3  前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない

(取消しの効果)
第百二十一条  取り消された行為は、初めから無効であったものとみなすただし、制限行為能力者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。

(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
第百七十七条  不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法 (平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない

赤字部分が「取消前の第三者」。青字部分が「取消後の第三者」の処理について触れた部分です。

取消前の第三者

まず、「取消前の第三者」については、96条第3項の適用により、「善意の第三者には詐欺取消しを対抗することができない」として「善意の第三者の保護」を図ろうとしています。

というか、96条第3項は、「取消しの遡及効を制限して第三者保護を図る」趣旨の規定だから、ここにいう「第三者」とは、「取消しの遡及効により影響を受ける第三者」つまり「取消時には既に登場していた取消前の第三者」に限定して解すべきだ、といっています。

取消後の第三者

これに対して、「取消後の第三者」については、取消しによる復帰的物権変動と第三者への物権変動とを対抗関係とみて、177条の適用により処理しています。

177条で処理するということは、悪意の第三者であっても、登記を先に備えることで所有権取得を確定できてしまうことを意味します(背信的悪意者は除く~民法177条「第3者」とは?基本は正確に!というお話。)。

「取消前の第三者」は、善意の第三者のみ保護され(なお、権利保護資格要件としての登記は不要というのが判例の立場です~No23.詐欺における善意の第三者の登記の必要性)、「取消後の第三者」は、悪意であっても、登記を備えてしまえば権利を確定できてしまう。

詐欺取消をした本人の立場からみれば、取消前の第三者に対しては、第三者を保護する特別な規定が存在し(96条第3項)、かつ善意の第三者である場合に限り、取消しの効果を対抗できない、というにとどまります。その場合以外は、取消しの遡及効による無効を誰にでも主張できる、ということになります(例えば、強迫による取消し(96条第3項は詐欺による取消に限定しています))。他方、取消後の第三者に対しては、取消しによる復帰的な物権変動を登記しない限り、取消しの効果を対抗することができず、悪意の第三者であっても、先に登記を備えられてしまうと、もう取消しによる復帰的物権変動を対抗できなくなってしまいます。取消後は、いわば、第三者と登記の先後をめぐって競い合う関係にはいる、そんなことになってしまいます。

登記可能性

この違いはどこからくるのでしょう?

取消しの前後で法律構成が全く異なる根拠はどこにあるのでしょう?

キーワードとなるのが、”登記可能性”です。

取消後の第三者との法律関係を、なぜ177条の適用により処理しているのか?

それは、詐欺取消をした本人は、取消し以降は、その旨の登記を備えることが可能な状態となるからです。取消しによって、移転していた所有権が戻ってきた、つまり、不動産に関する物権の変更を生じたということです。「不動産に関する物権の変更を生じた」、その時は、「登記による公示をすることで、みんなにわかるようにしてくださいね、不動産取引の安全を図るためにね。登記をしないでいると、権利を第三者に対抗できませんよ、はやく登記をした方がいいですよ。」こんな感じで、なかば登記を強制するかたちで、登記制度によって不動産取引の安全を図ろうとしている、これが177条の法意、趣旨です。

登記可能な状態にある以上、不動産取引の安全を図るため、登記の先後をめぐって競い合う対抗関係、つまり、177条にのせられて処理されてもやむを得ない。そういえます。

取消前の第三者との法律関係では、このことはあてはまりません。

取消し前である以上、取消しによる物権変動を登記しなさいとは、いえませんよね。まだ取消していないのだから。。まだ、騙されたことに気づいていないのかもしれません。その状態で、取消しによる復帰的な物権変動を登記しなさいとか、無理です。取消前は、登記可能性がない、といえる。登記可能性がない以上は、177条の処理にのせることはできないのです。そこで、取消前の第三者の保護は、第三者を保護する特別な規定によって図られる、そういうことになります。

まとめ

「法律行為の取消しと登記」の処理についてみてきました。

第三者の登場が取消しの前か後か、取消前の第三者か取消後の第三者か、二元的な枠組みで処理します。

この判例の処理方法は、結局のところ、177条の適用により処理するのが妥当な場面か、177条の適用可能性の問題にいきつくとおもいます。その際のキーワードとなるのが、”登記可能性”となります。

二元的な枠組みによる処理方法は、「法律行為の取消しと登記」の場面のほか、「解除と登記」、「遺産分割と登記」の場面でも採用されています。解除した以降は、登記可能性あり、177条で処理する(解除前の第三者は545条1項但書で保護)。遺産分割がされた以降は、登記可能性あり、177条で処理する(遺産分割前の第三者は909条但書で保護)。状況は同じ。処理方法も同じ。そういうことになります。

 

今回は、以上です。

 

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