民法判例百選Ⅰ[第9版] No.62
占有~法人の代表機関
(最高裁昭和32年2月15日)
今回から、占有権です。
今回は、〈法人の占有が認められる場合に、実際に物を所持している代表機関個人にも占有が認められるか?〉というお話です。
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具体的には、
・「代表機関を被告とする明渡請求が認められるか?」
・「代表機関を原告とする占有訴権(占有回収の訴え等)の行使が認められるか?」
が問題となります。
今回の判例は、前者、「法人の代表機関を被告とする明渡請求がなされた」事案です。原則、否定されると判示しました。ただし、特別の事情がある場合の例外を認めています。
順を追って、みていきましょう。
法人とは、「自然人以外で、法律上、権利・義務の主体になりうるもの」をいいます。
つまり、法人も、「占有権の主体」になりえます。
そして、法人は、法的主体になりうる社会的実体であり、実在するものです(法人実在説)。実際には、法人の代表機関が手足となって行為をなし、「代表機関の行為」は「法人の行為」とみなされます。これを占有についてみれば、「代表機関が法人の業務として所持をする場合、法人に占有がある」「法人が直接占有者」とみなされます。"手足"に占有は認められません。
以上が、原則となります。
ただし、代表機関が、単に代表機関として所持するにとどまらず、〈代表機関個人のためにも所持すると認めるべき特別の事情がある場合〉は、「代表機関は直接占有者たる地位をも有する」とされます。
つまり、例外として、〈代表機関個人のためにも所持すると認めるべき特別の事情〉がある場合には、代表機関の所持には、「法人の直接占有という側面」と「代表機関個人の直接占有という側面」が同時に併存している、そういうことができます。
ここで、〈代表機関個人のためにも所持すると認めるべき特別の事情〉とは、どんな事情のある場合をいうかというと・・
「代表機関たる個人が地上建物に家族と共に居住しているような場合」が〈特別の事情〉にあたる、とされています。「代表機関が、個人的にも、家族と共に居住しているような場合」は、「法人の目的のための占有」とは別の「代表機関の固有の利益のための占有」を認めることができる、そういえます。
その場合、代表機関も、占有に「固有の利益」を有する以上、占有権原を争う機会が保障されるべきである、占有者の地位を認めてあげて「明渡請求の被告となりうる」「原告として占有訴権を行使しうる」そう解すべきだ、といえます。
具体的な問題にあてはめてみましょう。
代表機関を被告とする明渡請求が認められるか?
代表機関が法人の業務として所持する場合、「法人が直接占有者」となります。
手足にすぎない代表機関に固有の占有はありません。
占有者ではない代表機関を被告とする明渡請求をすることは認められません。
「直接占有者である法人」を被告としなければなりません。
ただし、代表機関が、単に代表機関として所持するにとどまらず、〈代表機関個人のためにも所持すると認めるべき特別の事情〉がある場合は、代表機関は直接占有者たる地位をも有しています。
この場合は、直接占有者たる地位を有する代表機関にも、占有権原を争う機会が保障されるべき(手続保障の要請)といえるので、代表機関を明渡請求の被告とすることも認められます。
代表機関を原告とする占有訴権(占有回収の訴え等)の行使が認められるか?
(占有の訴え)
第百九十七条 占有者は、次条から第二百二条までの規定に従い、占有の訴えを提起することができる。他人のために占有をする者も、同様とする。
(占有保持の訴え)
第百九十八条 占有者がその占有を妨害されたときは、占有保持の訴えにより、その妨害の停止及び損害の賠償を請求することができる。
(占有保全の訴え)
第百九十九条 占有者がその占有を妨害されるおそれがあるときは、占有保全の訴えにより、その妨害の予防又は損害賠償の担保を請求することができる。
(占有回収の訴え)
第二百条 占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。
2 占有回収の訴えは、占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができない。ただし、その承継人が侵奪の事実を知っていたときは、この限りでない。
同様に、代表機関が法人の業務として所持する場合、「法人が直接占有者」となります。
手足にすぎない代表機関に固有の占有はありません。
占有者ではない代表機関が占有訴権の原告となることはできません。
「直接占有者である法人」が原告でなければなりません。
ただし、代表機関が、単に代表機関として所持するにとどまらず、〈代表機関個人のためにも所持すると認めるべき特別の事情〉がある場合は、代表機関は直接占有者たる地位をも有しています。
この場合は、直接占有者たる地位を有する代表機関には、占有権原を争う機会が保障されるべき(手続保障の要請)といえるので、代表機関を原告とする占有回収の訴え等も認められます。
最判平成10年3月10日、最判平成12年1月31日は、〈特別の事情〉を認めた上で、代表者個人の占有訴権の行使を認めています。
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今回の判例は、前者、つまり、法人の代表機関を被告とする明渡請求がなされた事案です。
判旨をみてみましょう。
判旨
YはB社の代表取締役であって同会社の代表機関として本件土地を占有しているというのである。そうすると、本件土地の占有者はB社であってYはB社の機関としてこれを所持するにとどまり、したがって、この関係においては本件土地の直接占有者はB社であってYは直接占有者ではないものといわなければならない。なお、もしYが本件土地を単にB社の機関として所持するにとどまらず〈Y個人のためにも所持するものと認めるべき特別の事情〉があれば、Yは直接占有者たる地位をも有するから、本件請求は理由があることとなる。
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まとめ
今回は、論点としては、どちらかというと地味な、基本的知識の確認のような内容だったかもしれません。
ただ、こういう、基本的な原則知識に、例外で〈特別の事情〉がある場合には・・という判例は要チェックです。
裁判で争いとなるのは、大抵、〈特別の事情〉がある場合です。原則通りでは納得できないから、もめてるわけで。。
〈特別の事情〉がある場合の例外則を認める判例、けっこうありますよね。そういう箇所は、問題として問われることも多いようです。
〈特別の事情〉を意識しながら、判例をチェックすることは、有益なことかな、とおもっています。
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今回は、以上です。
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これを書いたひと🍊