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共有者相互間の明渡請求(民法249条)をわかりやすく(最高裁昭和41年5月19日判決)

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共有者

民法判例百選Ⅰ[第9版] No.70
共有者相互間の明渡請求
(最高裁昭和41年5月19日)

《共有者の一人が共有物を単独で占有する場合》に、他の共有者は、共有物の明渡請求できるか?

今回は、そんなお話です。

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共有の法的性質

前提となる論点として、『共有の法的性質』をめぐって、争いがあります。

すなわち、〈共有者が明渡請求をする根拠となる権利は、「共有権」なのか、それとも「持分権」なのか〉。

すなわち、〈単一説(共有とは、所有権の個数は一個であり、共有者全員に帰属する所有権を「共有権」と呼ぶ)か、複数説各共有者は、それぞれ独立した所有権を有していて、それを「持分権」と呼ぶ)か〉。

民法の起草者は単一説にたっていたとされ、かつての判例も単一説を採用していたようです。

でも、戦後、複数説が通説化、判例も、平成15年の最高裁判決(次回No75)で複数説の採用に踏み切った、と評価されています。

そこで、ここでも、複数説の立場にたって、みていくことにしようと、おもいます。

(*ただ、「共有権」概念が全く不要ということはできず、紛争類型ごとに判例を整理・分析する必要がある、とされているようです。)

 さて、複数説では、各共有者は、それぞれ独立した所有権を有していて、それを「持分権」と呼びます

複数説の立場から、問題点を整理してみましょう。

1《占有者が、無権原の第三者である場合》各共有者は、その「持分権」に基づいて、 「単独で」、物権的返還請求権として、共有物の明渡請求をすることができます

→(物権的返還請求権について詳しくは「土地崩壊の危険と所有権に基づく危険防止請求」)

これに対して、

2《占有者が、共有者の一人である場合》、他の共有者は、その「持分権」に基づいて、共有物を占有する共有者の一人に対して、共有物の明渡請求をすることができるのでしょうか?

というのも、「明渡せ!」と請求されている、共有物を占有する共有者の一人も、他の共有者と同様、その「持分権」をもっているからです。

そして、民法249条には、次のように規定されています。

(共有物の使用)
第二百四十九条  各共有者は共有物の全部についてその持分に応じた使用をすることができる

各共有者は、「持分権」に基づいて、「共有物の全部について」、「その持分に応じた」使用をすることができる、とあります。

つまり、「共有物を占有する共有者の一人には、自らの「持分権」に基づいて、共有物を占有する権原がある」といえる。

したがって、「共有物を占有する共有者の一人は、占有権原があって占有している」以上、他の共有者による共有物の明渡請求は認められないのではないか?

そう、考えることが、できそうです。

しかし、他方で、民法252条には、次のようにあります。

(共有物の管理)
第二百五十二条  共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決するただし、保存行為は、各共有者がすることができる。

とすれば、共有物の占有者が、少数持分権者である場合には、他の多数持分権者は、過半数のチカラをもって、共有物を占有する少数持分権者に対して、共有物の明渡しを請求できてしまうのではないか?

そのように考えることも、可能であるように、おもわれます。

で、本判決は、どのように判断したのか?

事案から、順次、みていくことにしましょう。

 

事案

Aは、宅地および宅地上に建物を所有していました。

建物には、当初、A夫婦と次男Y夫婦が同居していましたが、その後、A夫婦は転居することになりました。

建物には、「Yが、Aの存命中、月2万円ずつ仕送りすること」を条件に、Y夫婦が居住することになりました。

ところが、Yは、仕送りを数ヶ月支給しただけで、その後、Aの催告にもかかわらず、支払いを滞るようになりました。

家庭裁判所での調停も不調におわったため、Aは、Yに対して、本件土地・建物の明渡しを求めて、提訴しました。

第一審継続中にAが死亡。妻X1、子X2、X3、およびYが共同相続人になりました。

X1X2X3が原告の地位を承継、Yに対して、土地・建物の明渡しを求めました。

そんな、事案です。(単純化してあります)

 

判旨

共同相続に基づく共有者の一人であつて、その持分の価格が共有物の価格の過半数に満たない者(以下単に少数持分権者という)は、他の共有者の協議を経ないで当然に共有物(本件建物)を単独で占有する権原を有するものでないことは、原判決の説示するとおりであるが、

他方、他のすべての相続人らがその共有持分を合計すると、その価格が共有物の価格の過半数をこえるからといつて(以下このような共有持分権者を多数持分権者という)、共有物を現に占有する前記少数持分権者に対し、”当然に”その明渡を請求することができるものではない。けだし、このような場合、右の少数持分権者は「自己の持分」によつて、共有物を使用収益する権原を有し、これに基づいて共有物を占有するものと認められるからである

従つて、 この場合、多数持分権者が少数持分権者に対して共有物の明渡を求めることができるためには、その”明渡を求める理由”を主張し立証しなければならないのである

(共同相続の効力)
第八百九十八条  相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
第八百九十九条  各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。

判旨は、結論として、

共有者の一人が、共有物を現に占有する場合、共有者間では、当然には、共有物の明渡しを請求することはできない。」

といっています。

その理由は、

各共有者は、自己の「持分権」に基づいて、共有物を占有する権原を有するからである。」

つまり、

占有権原に基づいて、共有物を占有している以上、他の共有者といえども、当然には、明け渡せとはいえない。」

そういっています。

ここで、注意すべきは、”当然には”共有物の明渡しを請求できない、といっている点です。

ということは、「明渡請求できる場合もある」ということ。

判旨の最後でも、

従つて、 この場合、多数持分権者が少数持分権者に対して共有物の明渡を求めることができるためには、その”明渡を求める理由”を主張し立証しなければならないのである。

明渡を求める理由」を主張・立証すれば、明渡を求めることができる、そう、いっています。

明渡を求める理由」とは、具体的には、次のような場合が挙げられています。

例えば、「共有者間に、共有物の使用方法について、特段の合意が存在する場合に、共有者の一人が、その合意に反して、共有物を占有する場合、他の共有者は、その合意を主張・立証して、明渡しを請求できる」とされています。

本件では、特段の合意の存在等、共有物の「明渡を求める理由」について、なんら主張・立証がなかった、ということのようです。

その結果、他の共有者による、共有物明渡請求は棄却されました。

まとめ

《共有者の一人が、共有物を単独で占有する場合》に、他の共有者は共有物の明渡請求できるか?

判旨は、

共有者の一人が、共有物を現に占有する場合、共有者間では、”当然には”共有物の明渡しを請求することはできない。なぜなら、各共有者は、自己の「持分権」に基づいて、共有物を占有する権原を有するからである。

ただし、

明渡を求める理由”を主張・立証すれば、明渡を求めることができる。

本件では、「明渡を求める理由」について、なんら主張・立証がないから、他の共有者による、共有物明渡請求を棄却する。

以上が、本判決の流れ、となります。

こうして、判旨をみてくると、

でも、他の共有者、可哀想じゃない?

共有者の一人が独占しちゃってていいの?

そんな、疑問を感じますよね。

「明け渡せ!」とは言えないとしても、他の共有者にも、それぞれ「持分権」があって、共有物を使用する権利があるわけですからね。。

そこで、この場合には、「他の共有者が被る不利益は、金銭で解決しよう」という判例があります。

不動産の共有者は、当該不動産を単独で占有することができる権原がないのにこれを単独で占有している他の共有者に対し、「自己の持分割合に応じて」占有部分に係る賃料相当額の不当利得金ないし損害賠償金の支払を請求することができる。 (最高裁平成12年4月7日)

(不当利得の返還義務)
第七百三条  法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う
(悪意の受益者の返還義務等)
第七百四条  悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。
(不法行為による損害賠償)
第七百九条  故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う

つまり、

他の共有者は、当然には、明渡しを請求できないとしても、「自己の持分権に応じた共有物の使用が防げられている」という事実があるわけだから(持分権侵害)、「持分割合に応じた」地代相当額の不当利得金ないし損害賠償金の支払い請求をすることが、可能である。

と、いっています。

 

◯   ◯   ◯

 

なお、本判決は、《共有者相互間での明渡請求に関する》リーディングケースとなっています。

その後、本判決は、

一部の共有者から共有地の一部を買い受けた第三者に対する、他の共有者による明渡請求の事案』(最判昭和57年6月17日)、

さらに、

一部の共有者から占有使用を承認された第三者に対する、他の共有者による明渡請求の事案』(最判昭和63年5月20日)、

にも先例として引用されています。

リーディングケースである本判決が採用した、

「共有者間(承継人、共有者の一部から占有使用を承認された第三者も含む)では、当然には、共有物の明渡しを請求することはできない。」

との判例法理が、確立している、と評価されているようです。

今回は、以上です。

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