所有権 物権法

共有者の一人による不実登記の抹消手続請求(民法249条)をわかりやすく(最高裁平成15年7月11日判決)

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共有者

民法判例百選Ⅰ[第9版] No.71
共有者の一人による
不実登記の抹消手続請求
(最高裁平成15年7月11日)

今回は、「共有者の一人による不実登記の抹消手続請求」の判例です。

《共有物について実体関係と合致しない不実登記がある場合》に、共有者の一人は、単独で、不実登記の抹消登記請求できるか?

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共有の法的性質

前提となる論点として、『共有の法的性質』をめぐって、争いがあります。

すなわち、〈共有者が抹消登記請求をする根拠となる権利は、「共有権」なのか、それとも「持分権」なのか〉。

すなわち、〈単一説(共有とは、所有権の個数は一個であり、共有者全員に帰属する所有権を「共有権」と呼ぶ)か、複数説各共有者は、それぞれ独立した所有権を有していて、それを「持分権」と呼ぶ)か〉。

民法の起草者は単一説にたっていたとされ、かつての判例も単一説を採用していたようです。

でも、戦後、複数説が通説化、判例も、平成15年の今回の判例で、複数説の採用に踏み切った、と評価されています。

そこで、ここでも、複数説の立場にたって、みていくことにしようと、おもいます。

(*ただ、「共有権」概念が全く不要ということはできず、紛争類型ごとに判例を整理・分析する必要がある、とされているようです。)

さて、複数説では、各共有者は、それぞれ独立した所有権を有していて、それを「持分権」と呼びます

複数説の立場から、問題点を整理してみましょう。

1《不実登記の登記名義人が、無権利の第三者である場合》

各共有者は、その「持分権」に基づいて、 「単独で」、妨害排除請求として、「全部」抹消登記を請求することができます。

根拠条文は、民法249条です。

(共有物の使用)
第二百四十九条  各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる

「各共有者は、「共有物の全部について」、その持分に応じた使用をすることができる」とあります。

したがって、各共有者は、一人であっても、その「持分権」に基づいて、「単独で」、「共有物の全部について」、妨害排除としての「全部」抹消登記請求ができる、とされています。

→(妨害排除請求について詳しくは「土地崩壊の危険と所有権に基づく危険防止請求」)

これに対して、

2《不実登記の登記名義人が、共有者の一人である場合》

他の共有者は、その「持分権」に基づいて、登記名義人である共有者の一人に対して、「全部」抹消登記を請求することができるでしょうか?

というのも、この場合、登記名義人である共有者の一人も、その「持分権」をもっていますよね。

したがって、「この場合の登記は、登記名義人である共有者の、その持分の範囲では有効」ということができる。

したがって、他の共有者が妨害排除として請求できるのは、「自己の持分の限度での」、「一部」抹消登記つまり「更正」登記の請求のみである、とされています。

で、今回の事案は、どちらの場合にあたるかというと、前者の、1《無権利者登記型》の事案でした。

具体的に、どんな事案だったのか?

特殊な事案だったようです。

みていきましょう。

事案

資産家Aには、4人の子、X1、X2、X3、Yがいました。

Aが死亡、4人の子、X1、X2、X3、Yが、本件土地を共同相続しました。

Aの死亡直後、Yは、法定相続分にしたがって、各持分を4分の1とする、相続を原因とする所有権移転登記をしました。

そのうえで、Yは、自己の持分について、代物弁済を原因とする、Zへの持分移転登記をしました。

その後、Zの取得した持分については、Zの債権者らによる処分禁止仮処分登記、および、差押登記が経由され、その結果、○億円の相続税につき、本件土地を物納(処分)できない状態となってしまいました。

そこで、困ったX1~X3は、YZ間の持分移転登記の登記原因である代物弁済契約が、虚偽表示ないし公序良俗違反により無効であり(第一審で無効と認定)、この不実の持分移転登記のために、本件土地を物納することができず、自己の持分が侵害されている、と主張して、Zに対して、持分登記の抹消を求めて、提訴しました。

そんな事案です。(単純化してあります)

判旨

不動産の共有者の1人は,その持分権に基づき,共有不動産に対して加えられた妨害を排除することができるところ,不実の持分移転登記がされている場合には,その登記によって共有不動産に対する妨害状態が生じているということができるから共有不動産について全く実体上の権利を有しないのに持分移転登記を経由している者に対し,単独でその持分移転登記の抹消登記手続を請求することができる

「その持分権に基づき」と明記されています。

「判例が、複数説の採用に踏み切った」そう評価されている、判決です。

まとめ

今回は、『共有の法的性質』に関して、「かつては単一説にたっていたとされる判例が、複数説の採用に踏み切った」そんな評価を受けている、最高裁判決でした。

共有は、相続の場面で、必ずといってよいほどでてきます。

(共同相続の効力)
第八百九十八条  相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する

つまり、「共同相続人相互間の争い」は、「共有者相互間の争い」に他ならないのですね。

でも、「共有」は複雑そうで苦手かな・・

もし、そんなおもいをもっているとしたら、一度、共有の条文にざっと目を通してみてください。

十数条にすぎません。

これだけかと、気が楽になることと、おもいます。

まずは、そこから。。

オススメ。。

今回は、以上です。

第三節 共有

(共有物の使用)
第二百四十九条  各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる

(共有持分の割合の推定)
第二百五十条  各共有者の持分は、相等しいものと推定する

(共有物の変更)
第二百五十一条  各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない

(共有物の管理)
第二百五十二条  共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる

(共有物に関する負担)
第二百五十三条  各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負う
2  共有者が一年以内に前項の義務を履行しないときは、他の共有者は、相当の償金を支払ってその者の持分を取得することができる

(共有物についての債権)
第二百五十四条  共有者の一人が共有物について他の共有者に対して有する債権は、その特定承継人に対しても行使することができる

(持分の放棄及び共有者の死亡)
第二百五十五条  共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する

(共有物の分割請求)
第二百五十六条  各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない
2  前項ただし書の契約は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から五年を超えることができない
第二百五十七条  前条の規定は、第二百二十九条に規定する共有物については、適用しない。

(裁判による共有物の分割)
第二百五十八条  共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができる
2  前項の場合において、共有物の現物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる

(共有に関する債権の弁済)
第二百五十九条  共有者の一人が他の共有者に対して共有に関する債権を有するときは、分割に際し、債務者に帰属すべき共有物の部分をもって、その弁済に充てることができる。
2  債権者は、前項の弁済を受けるため債務者に帰属すべき共有物の部分を売却する必要があるときは、その売却を請求することができる。

(共有物の分割への参加)
第二百六十条  共有物について権利を有する者及び各共有者の債権者は、自己の費用で、分割に参加することができる。
2  前項の規定による参加の請求があったにもかかわらず、その請求をした者を参加させないで分割をしたときは、その分割は、その請求をした者に対抗することができない。

(分割における共有者の担保責任)
第二百六十一条  各共有者は、他の共有者が分割によって取得した物について、売主と同じく、その持分に応じて担保の責任を負う
(共有物に関する証書)
第二百六十二条  分割が完了したときは、各分割者は、その取得した物に関する証書を保存しなければならない。
2  共有者の全員又はそのうちの数人に分割した物に関する証書は、その物の最大の部分を取得した者が保存しなければならない。
3  前項の場合において、最大の部分を取得した者がないときは、分割者間の協議で証書の保存者を定める。協議が調わないときは、裁判所が、これを指定する。
4  証書の保存者は、他の分割者の請求に応じて、その証書を使用させなければならない。
(共有の性質を有する入会権)
第二百六十三条  共有の性質を有する入会権については、各地方の慣習に従うほか、この節の規定を適用する。

(準共有)
第二百六十四条  この節の規定は、数人で所有権以外の財産権を有する場合について準用するただし、法令に特別の定めがあるときは、この限りでない。

これを書いたひと🍊

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