法律行為

内心の意思の不一致~客観説/主観説(大審院昭和19年6月28日判決)をわかりやすく

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内心の意思の不一致

民法判例百選Ⅰ[第8版] No.18
内心の意思の不一致
(大審院昭和19年6月28日)

今回は、内心の意思の不一致です。

「民法をやっているなあ」そんな実感のする論点です。

ただ、とっても古~い判例です。現在も判例がこの考えをとるのか分かりません。それだけ学説一般から「疑問あり」とされている判例です。

まる

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事案

第二次世界大戦頃の統制経済下での話です。事案を少々、単純化します。

生糸製造販売業者XとYの間で、生糸製造権の譲渡契約が締結されました。

この契約では、「生糸繰糸釜に関する権利及び補償金」については、なんら意思表示がされていませんでした。

しかし、当時の状況では、生糸製造権譲渡契約には、当然、「生糸繰糸釜に関する権利の譲渡を含むこと」及び「代金額に補償金が含まれること」が通常であったとのこと。

従って、なんら意思表示がなかった場合でも、生糸製造権譲渡契約は、それらを含む趣旨であると解釈するのが相当とされていました。

ところが、Xは、契約の文言通り、「生糸製造権のみを譲渡する意思」で契約をしていました。

他方、Yは、通常、考えられている通り、「繰糸釜に関する権利及び補償金についても含まれるとの意思」で、契約をしていました。

つまり、XとYは、本件契約の意思表示に、別々の意味を付与していたことになります。

このような事情のもと、本件契約の成立または効力が争われました。

そんな事案です。

で、判旨は後述するとして、

まず、契約当事者間において、《内心の意思の不一致がある場合の処理手順》について、まとめておこうとおもいます。

内心の意思の不一致がある場合の処理手順(客観説)

契約は、『当事者の2つの意思表示が合致すること』で成立します。

で、一般に、契約の成立要件有効要件とは分離して把握され、いったん成立した契約も、契約を構成する意思表示が、民法93条以下の意思表示の効力を定めた規定により無効または取り消された場合には、その法律行為の効力を失う、と理解されています。

このような理解に立った上で、、

そもそも、当事者間の意思表示の文言それ自体が食い違っているなど、《外形的に意思表示の内容が合致していない場合》には契約が成立しないこと、に異論はないようです。

問題は、一見すると意思表示は合致しているけれど、《契約当事者の双方、あるいは、一方が、合致したかにみえる意思表示の内容とは違う意味で意思表示の内容を理解していた場合》、契約の成立を認めてよいのか、成立を認めた上で95条錯誤無効の問題とするのか、です。

これは結局、「どのような意味で意思表示の内容を確定するのか(客観的にみるのか、それとも、表意者の内心をみるのか)」、契約の解釈基準の問題といえます。

これについては、現在の通説では、

契約解釈とは、当事者の意思表示の社会的な意味を客観的に明らかにすることである」(客観説)

とされています。

従って、原則として、「表意者が内心でどのような意味で意思表示をしたのか」は問題とされません。表意者の内心を問題とすれば、取引の安全を著しく害することになるからです。

内心の意思の不一致があったとき》は、有効要件のレベルで、錯誤の問題として扱うことになります。

具体的な場面で、みてみましょう。

1、意思表示の客観的な意味と両当事者の内心が食い違っているものの、両当事者の内心は一致する場合

「当事者の双方が勘違いしていた場合で、その勘違いが合致していた」という場合です。

例えば、1ダースの契約をしました。1ダースは12個ですけど、「両当事者とも、10個だと内心で勘違いしていた」そんな場合です。

この場合、客観説によれば、客観的な意味である12個で契約が成立することになりそうです。

でも、そもそも、客観的に解釈するのは、取引の安全のためでしたよね。その点、確かに、客観的な意味と当事者の内心とは食い違っているものの、両当事者の内心は一致している(双方とも勘違いして10個だとおもってる)のだから、相手方の取引の安全が害される危険性はない、ということができます。つまり、客観的に解釈する必要がない、ということができる。両当事者で一致しているのだから、その勘違いしていた内容で成立させて問題ないです。

2、意思表示の客観的な意味と両当事者の内心が食い違っていて、両当事者の内心も一致しない場合

「当事者の双方が勘違いしていた場合で、その勘違いが一致しない」という場合です。

例えば、1ダースの契約をしました。Aは「10個だと内心で勘違い」していて、Bは「8個だと勘違い」していた、そんな場合です。

これは、少々、やっかいです。

まず、「客観的な意味と一方当事者の内心のみ食い違っていた場合」を考えてみましょう。

例えば、1ダースの契約をしました。Aは「1ダースを10個だと内心で勘違い」していました。Bは12個だと考えていました。

この場合、1ダースは12個だと客観的に正しく考えていた、Bの取引の安全を図る必要があります。客観説は、こういう場面を想定した見解なのですね。

従って、この場合、契約は客観的な意味である12個で成立することになり、Aの内心の勘違いは、有効要件のレベルで錯誤の問題として扱うことになります。

では、「客観的な意味と両当事者の内心が食い違っていた場合で、しかも、両当事者の内心も一致しない場合」をどう処理するのか。。

例えば、1ダースの契約をしました。Aは「10個だと内心で勘違い」していて、Bは「8個だと勘違い」していた、そんな場合でした。

この場合、客観説を貫けば、客観的な意味である1ダース12個で契約が成立することになります。

でも、AもBも、そうはおもってないですよね。Aの内心の意思は10個、Bの内心の意思は8個です。双方とも、12個なんて望んでいないのだから、取引の安全の保護になっていません。信頼の保護になっていない。むしろ、誰も望まない内容の契約を押し付けている、そんな変なことになってしまいます。

ここは、争いのあるところで、契約は不成立とする見解もあり、説得力があるようにおもわれます。

判例は、ないようです。。

以上を前提として、本判例をみてみましょう。

判旨

本件事案は、上記のように、

生糸製造販売業者XとYの間で、生糸製造権の譲渡契約が締結されました。

この契約では、「生糸繰糸釜に関する権利及び補償金」については、なんら意思表示がされていませんでした。

しかし、当時の状況では、生糸製造権譲渡契約には、当然、「生糸繰糸釜に関する権利の譲渡を含むこと」及び「代金額に補償金が含まれること」が通常であったとのこと。

従って、なんら意思表示がなかった場合でも、生糸製造権譲渡契約は、それらを含む趣旨であると解釈するのが相当とされていました。

つまり、客観的な意味では、生糸製造権譲渡契約には、当然、「生糸繰糸釜に関する権利の譲渡も含まれ、代金額には補償金も含まれる」、それが、当時の状況における解釈として相当であった、とのこと。

ところが、Xは、契約の文言通り、「生糸製造権のみを譲渡する意思」で契約をしていました。

他方、Yは、通常、考えられている通り、「繰糸釜に関する権利及び補償金についても含まれるとの意思」で、契約をしていました。

つまり、XとYは、本件契約の意思表示に、別々の意味を付与していたことになります。

つまり、Yの理解に正当性がある、ということになります。このYの信頼の保護を図る必要があります。

上の場面分けでいえば、「客観的な意味と一方当事者(X)の内心のみ食い違っていた場合」にあたることになります。まさに、客観説が想定している場面でしたね。

この場合、客観的な意味である、Yが信頼した内容の契約が成立することになり、Xの内心の勘違いは、有効要件のレベルで錯誤の問題として扱うことになります。

これが、現在の一般的な考え方です。

ところが、、本判例はちょっと違った処理をしています。

判旨は、

XYともに、契約の文言とは異なる意味を付与していて、相互に食い違っているのだから、契約は成立しない

としました。。

これは、意思表示の客観的な意味を考慮せず、両当事者の内心が食い違っていることだけで、契約の成立を否定したといえます。契約の成立に関する意思主義だ、と指摘されています。

この考え方によれば、表示の錯誤の事案は、契約は不成立という結論になってしまいます。民法95条を適用する余地はないことになってしまいます。おかしいですよね。

民法は、表示の錯誤があった場合でも、表意者に重過失があるときは、法律行為を有効としています。

(錯誤)
新法第九十五条  意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2  前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
3  錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき
4 第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

「うっかり勘違いしました。。」

そんな軽率な勘違いによる無効主張を、民法は認めていません。もちろん、取引の安全を図るためです。

こうした、民法95条の「表意者の保護」と「相手方の取引の安全の保護」との利益衡量の図り方と、判旨の立場とは、相容れない考え方である、と指摘されています。学説一般に、「この判例には疑問がある」とされています。

古い判例です。疑問のおおい判例です。この判例が知識として問われる、その出題の可能性は低いかな、とおもいます。こんな判例もあるんだな、程度におもっておいて、おさえるべきは、現在の一般的な通説とされている、上記のような処理手順かな、とおもいます。

今回は、以上です。

内心の意思

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