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代表理事の代表権の制限と民法110条(最高裁昭和60年11月29日)

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代表理事の包括的代表権の制限と民法110条

民法判例百選Ⅰ[第8版] No.31
代表理事の代表権の制限と民法110条
(最高裁昭和60年11月29日)

今回も、110条です。

タイトルをみると、「代表理事」という単語が気になりますよね。

今回は、「代表理事の越権行為」という場面に特有の論点のお話です。

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包括的代表権

キーワードは「包括的代表権」です。

一般社団法人及び一般財団法人に関する法律
(一般社団法人の代表)
第七十七条  理事は、一般社団法人を代表するただし、他に代表理事その他一般社団法人を代表する者を定めた場合は、この限りでない。
2  前項本文の理事が二人以上ある場合には、理事は、各自、一般社団法人を代表する
3  一般社団法人(理事会設置一般社団法人を除く。)は、定款、定款の定めに基づく理事の互選又は社員総会の決議によって、理事の中から代表理事を定めることができる
4  代表理事は、一般社団法人の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する
5  前項の権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない

「理事」は、法人を代表します(1項2項)。

「代表理事」を定めた時は、代表理事が法人を代表します(3項)。

「代表理事」は「包括的な代表権限」を有しています。つまり、「業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限」を有している(4項)。

ここが、これまで勉強してきた、「(任意)代理人」の代理権と決定的に違う点です。

「(任意)代理人」というのは、例えば、「土地売却の代理権」とか「登記申請の代理権」とか、「特定の範囲に限られた代理権」を与えられた者であるのが一般的です。だから、その範囲を越えた越権代理行為が問題になるわけです。

これに対して、「代表理事」の場合には、代表権の範囲に限定はありません。「一切の」権限を有しています。だから、越権行為なんてないはず、ですよね。法律上の原則はそうです。

包括的代表権限の制限?

でも、法人内部で、代表理事の暴走を防ぐ等の目的で、代表理事の権限に制限を加えることがあります。例えば、「特定の重要な事項に関する代表行為について、理事会の決議を要する」旨を定款に定めてある場合などです。

包括的であるはずの代表理事の代表権限に、内部的に制限を加えている。「内部的な定款の定め」「内部的な理事会の承認決議」これは、外部からは、なかなか、実際のところは、よくわからないですよね。

「包括的な代表権限をもつ」と法律に定めてある代表理事の権限について、取引ごとに、いちいち内部的な制限の有無や承認決議が本当にあったのかなど、間違いなく確かめないといけないとしたら、取引の迅速性や安全性が著しく害されてしまいます。

この場面では、法の原則をねじ曲げている法人側の利益よりも、法の原則を信頼している第三者の利益をより保護するべきだと感じます。

そこで、《包括的権限を有する代表理事の代表権の制限》という場面では、〈第三者の信頼保護〉を、2つの条文で、2段階で図る、そんな法律構成がとられています。

1段階目)は、上で挙げた「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」第77条5項です。

4  代表理事は、一般社団法人の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する
5  前項の権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない

内部的な制限なんて知らなかった」善意の第三者には、「代表理事の権限に加えた内部的制限を対抗できない」。

1段階目は、まず、「内部的な制限自体について」善意の第三者を保護しようとしています。

2段階目)は、第三者が「代表理事に加えられた代表権限の制限自体について」は知っていたけれど、理事会の承認決議があったものと..

よって1段階目の保護は受けないけれど、「制限の解除事由である理事会の承認決議等があったものと、偽造の議事録などを見せられて信頼したという場合」つまり、「当該具体的行為の代表権限があると正当に信頼した第三者を、民法110条で保護しようとする」これが2段階目の保護です。

なぜ、民法110条か?それは、代表理事の権限は内部的に制限されていた。にもかかわらず、それを無視して(越権して)理事会の承認決議なく行為してしまった。つまり、越権代表行為ですよね。だから、民法110条を使います。

(権限外の行為の表見代理)
第百十条 前条本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する

(代理権授与の表示による表見代理)
第百九条 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。

確認しましょう。

ポイントは「第三者の信頼の対象(主観)」です。

1段階目)第三者の主観は、「内部的な制限なんて知らなかった」つまり、「内部的な制限自体について」善意であることです。

ここで善意であれば、この段階で第三者は保護されます。

しかし、第三者が内部的な制限の存在自体は知っていた場合には、この段階では保護されません。

2段階目)第三者の主観、信頼の対象は、「制限の解除事由である、理事会の承認決議等があったこと」です。内部的な制限があることは知っていたけど、「制限を解除する理事会の承認決議があったと、偽造の議事録を見せられて信頼した」「当該行為の具体的な権限の存在について正当に信頼した」。そういう第三者を、民法110条で保護しようとする、それが2段階目の保護になります。

本件判例も、2段階の法律構成をとり、結局、第三者は1段階目でも、2段階目でも、保護されないと判示しています。

本件の事案からみていきましょう。

事案

「代表理事の包括的な代表権限を制限する(特定の事項について理事会の承認決議を要する)」旨の定款の定めがあるにもかかわらず、

代表理事が理事会の承認決議を経ずに行為をしてしまった。

そんな事案です。

判旨

漁業協同組合は、水産業協同組合法四五条の準用する(旧)民法五三条、五四条の規定により、定款の規定又は総会の決議によつて特定の事項につき理事が代表権を行使するためには理事会の決議を経ることを必要とするなどと定めて理事の代表権を制限することができるが、善意の第三者に対してはその制限をもつて対抗することができないものであるところ、1)右にいう善意とは、「理事の代表権に制限が加えられていることを知らないこと」をいうと解すべきであり、また、右の善意についての主張・立証責任は第三者にあるものと解すべきである。そして、2)第三者が右にいう善意であるとはいえない場合であつても、第三者において、「理事が当該具体的行為につき理事会の決議等を得て適法に漁業協同組合を代表する権限を有するものと信じ、かつ、このように信じるにつき正当の理由があるとき」には、民法一一〇条を類推適用し、漁業協同組合は右行為につき責任を負うものと解するのが相当である。
上告人は、1)被上告組合の定款上本件土地の売却には理事会の承認が必要であることを認識していた、(四) 上告人が、2)本件土地の売却につき理事会の承認があり組合長Dが本件売買契約締結の権限があるものと信じたとしても、そう信じるにつき正当の理由があるとはいえない・・

第三者(上告人)は、1段階目でも、2段階目でも、保護されない、といっています。

まとめ

キーワードは、代表理事の「包括的代表権」。

〈第三者の保護〉を、2段階で図ります。

その際、注意すべき点は、「第三者の主観(信頼の対象)」です。

今回は、以上です。

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