民法判例百選Ⅰ[第9版] No.72
共有物分割の方法/全面的価格賠償
(最高裁平成8年10月31日)
今回は、「共有物の全面的価格賠償の方法による分割」というお話です。
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共有物分割の方法
《共有物分割の方法》として、
「現物分割」「代金分割」「価格賠償」があります。
「現物分割」 文字の通り、現物を分割する方法
「代金分割」 共有物を売却して代金を分ける方法
「価格賠償」 共有物を共有者の一人の単独所有または数人の共有として、他の共有者には持分の価格に相当する金銭を支払う方法
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分割は、共有者全員が協議して行います。
でも、協議が不調におわったり、共有者の一人が協議に応じなかったり、、
そんなときは、分割を裁判所に請求することができます(258条1項)。
(共有物の分割請求)
第二百五十六条 各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。
2 前項ただし書の契約は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から五年を超えることができない。
(裁判による共有物の分割)
第二百五十八条 共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
2 前項の場合において、共有物の現物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。
《裁判による分割の方法》は、原則、「現物分割」です。
ただし、分割不可能だったり、分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、共有物を競売して、「代金を分ける方法」によることができます(258条2項)。
とはいっても、換金できない、換金したくない財産ってありますよね。
共有物の分割という点で共通する、遺産分割の例で見てみましょう。
例えば、先祖代々引き継いだ不動産、代々ではなくとも、両親との思い出のつまった家と土地、競売になんてかけたくない。。
そうおもいます。
では、どうするか?というと、、
家督相続の慣習に従って、「長男が不動産を単独相続する」となる。
で、他の弟姉妹は、「お兄ちゃん独占ずるい。。」となる。
で、長男は、「お前たちの持分の価格分のお金を渡すから、我慢しろ。」となる。
すなわち、「共有物を共有者の一人の単独所有(または数人の共有)として、他の共有者には持分の価格に相当する金銭を支払う方法」。
これが、今回のタイトルにある、「全面的価格賠償の方法による分割」です。
いわゆる”争族”の原因として、「換金できない財産の存在」「家督相続の慣習」が挙げられています。
「全面的価格賠償の方法による分割」は、その解決策の一つといえそうです。
この、「全面的価格賠償の方法による分割」が、258条の共有物分割の場面でも許される、と最高裁が初めて認めたのが、今回の判決です。
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事案から、順次みていきましょう。
事案
3筆の土地と、その土地上のほぼ全面に建つ建物がありました。
その所有者は、X1とその夫A、およびYの3人で、それぞれ3分の1の持分で共有していました。
その後、Aが死亡。妻X1と子X2X3X4がAの3分の1の持分を法定相続しました。
その後、X1~X4の4人は、Yに対して不動産の分割協議を求めたものの、Yはこれを拒否。
そこで、Xたちは、不動産を競売して、売却代金を分割することを求めて提訴しました。
なお、Yは、以前から本件建物に家族と共に居住し、隣接する建物で薬局を営んでいました。そのことについて、Xたちとの間に争いはありませんでした。
Xたちの請求に対して、Yは、共有物分割請求が認められるとしても、本件不動産がYの生活と営業の基盤をなすものであることを考慮すれば、「競売による金銭分割の方法」ではなく、「価格賠償の方法」によるべきである、と主張して、争いました。
そんな事案です。
*本件事案は、「遺産分割」の事案か「共有物分割」の事案か?
死亡したAの共有持分をめぐる、共同相続人X1~X4の間における分割は、「遺産分割」の問題となります。これに対して、Yは、Aの共同相続人ではないので、X1~X4とYとの間における分割は、「共有物分割」の問題となります。したがって、本件は、「共有物分割」の事案となります。
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判旨
民法二五八条二項は、共有物分割の方法として、「現物分割」を原則としつつも、 共有物を現物で分割することが不可能であるか又は現物で分割することによって著しく価格を損じるおそれがあるときは、「競売による分割」をすることができる旨を規定している。
ところで、この《裁判所による共有物の分割》は、民事訴訟上の訴えの手続により審理判断するものとされているが、その本質は非訟事件であって、法は、裁判所の適切な裁量権の行使により、共有者間の公平を保ちつつ、当該共有物の性質や共有状態の実状に合った妥当な分割が実現されることを期したものと考えられる。したがって、右の規定は、すべての場合にその分割方法を「現物分割」又は「競売による分割」のみに限定し、他の分割方法を一切否定した趣旨のものとは解されない。
そうすると、共有物分割の申立てを受けた裁判所としては、「現物分割」をするに当たって、持分の価格以上の現物を取得する共有者に当該超過分の対価を支払わせ、 過不足の調整をすることができる(最高裁昭和五九年(オ)第八〇五号同六二年四 月二二日大法廷判決・民集四一巻三号四〇八頁参照)のみならず、当該共有物の性質及び形状、共有関係の発生原因、共有者の数及び持分の割合、共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値、分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無等の事情を総合的に考慮し、〈当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するとき〉は、共有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし、これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法、すなわち「全面的価格賠償の方法による分割」をすることも許されるものというべきである。
これを本件についてみるに、前記一の事実関係等によれば、本件不動産は、 病院、その附属施設及びこれらの敷地として一体的に病院の運営に供されているのであるから、これらを切り離して「現物分割」をすれば病院運営が困難になることも予想される。
そして、被上告人が「競売による分割」を希望しているのに対し、上告人らは、本件不動産を競売に付することなく、自らがこれを取得する「全面的価格賠償の方法による分割」を希望しているところ、本件不動産が従来から一体として上告人ら及びその先代による病院の運営に供されており、同病院が救急病院として地域社会に貢献していること、被上告人が本件不動産の持分を取得した経緯、その持分の割合等の事情を考慮すると、本件不動産を上告人らの取得とすることが相当でないとはいえないし、上告人らの支払能力のいかんによっては、本件不動産の適正な評価額に従って被上告人にその持分の価格を取得させることとしても、共有者間の実質的公平を害しないものと考えられる。
「当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するときは、」「全面的価格賠償の方法による分割」をすることも許される、といっています。
「特段の事情」の存否については、共有物を取得する者(本件ではY)の支払能力の有無が重要である、とされています。
その点、本件のYに支払能力があったという事実については、原審ではなんら確定されていなかったようです。
そのため、さらに審理を尽くさせる必要があるとして、 本件は原審に差し戻されました。
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まとめ
不動産の共有は”争いのもと”であるようです。
遺産分割でも、後々の争いの火種になるので、相続不動産を共同相続人の共有名義にすることは避けたほうがよい、とされています。
かといって、売却もしたくない。
ということで、家督相続の慣習のとおり、長男の単独相続となることが、現在でも多いようです。
そのとき、相続財産として、他に預貯金等現金が十分にあればよいですけど、そうでない場合、他の共同相続人からは不満噴出、いわゆる「争族」で兄弟がいがみあうということになりかねません。。
そうした事態を避けるために、長男から他の兄弟に、その持分の価格相当の金銭を支払うことで相続人の間の公平をはかる、それが、今回のテーマである「全面的価格賠償の方法による分割」というものでした。
このような方法による分割は、そもそも相続が発生する前から、つまり、あらかじめ遺言のなかでその旨の意思を明記しておくことで、相続発生後の「争族」を防ごうという動きが、超々高齢社会に突入しようとしている日本で、近年、みられるようです。
例えば、「不動産を長男に単独相続させる」としたうえで、「次男の相続分(少なくとも遺留分)については、代償資金として相応の現金を準備して渡すこと、あるいは、相応する金額の生命保険の受取人を次男とすること」そんな内容の遺言を書いておく。
そして、書いた遺言は、読んでもらったほうがよい、といわれています。納得してもらうことで、相続発生後の争いを防ぐため、です。
「争族」を防ぐためにも、親の意思、気持ちを、書面で残しておくことが大事だ、といわれています。
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なお、「共同相続人からその共有持分を譲り受けた第三者が、共同所有関係を解消するためにする分割請求は、遺産分割請求ではなく、258条の共有物分割請求である」という判例があります(最判昭和50年11月7日)。
遺産分割では、「各相続人の生活の状況など、個人的な事情も考慮して、分割を行う」とされています。
(遺産の分割の基準)
第九百六条 遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。
でも、共同相続人からその共有持分を譲り受けた第三者は、相続人ではありません。
第三者には、その生活の状況など、個人的な事情も考慮される、遺産分割の適用はないのですね。
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このように、相続と共有とは、切っても切れない関係にある、といえそうです。
相続が大きな関心を集めている、いま、そして、これからの時代、共有の理解は必要性が高まっていく、そんなふうに感じています。
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今回は、以上です。
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これを書いたひと🍊