表見代理

(改正前)民法109条と110条の重畳適用(最判昭和45年7月28日判決)をわかりやすく

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重畳適用

民法判例百選Ⅰ[第7版] No.32
民法109条と110条の重畳適用
(最判昭和45年7月28日)

今回は「109条と110条の重畳適用」です。

重畳適用とは「重ねて適用する」「二重に適用する」そういう意味ですね。

109条の適用だけでは処理できない、110条の適用だけというわけにもいかない、第三者の信頼を保護するためには、109条と110条を重畳的に適用する必要がある。

そういう場面のお話です。

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*2020年4月1日施行の改正民法により、明文化されました。(新法109条2項)

(代理権授与の表示による表見代理等)
第百九条 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。
2 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う

事案をみてみましょう。

事案

Yは、Aに対して、Aの代理人Bを介して、Y所有の山林一筆を売り渡しました。

Yはその際、山林の所有権移転登記手続きのために、権利証、Yの印鑑証明書、売渡証書、白紙委任状をBを介してAに交付します。

その後、Aは、代理人Bをして、Xとの間で、本件山林とX所有の山林との交換にあたらせました。

ところが、BはXに対して、BがAの代理人であることを告げずに、Aから改めて交付を受けていた前記書類をXに呈示して、Yの代理人のように装います。

その結果、Xは契約の相手方をYと誤信し、X所有の山林とY所有の山林を交換する旨の契約を締結しました。

そこで、Xは、Yを相手として本件山林の所有権移転登記手続きを求めて提訴しました。

そんな事案です。

少々ややこしい事案ですね。。

Yが交付した書類(白紙委任状を含む)は、まず、Aの代理人Bに交付されて、Aのもとにいきます。

その後、再びBに交付されて、交換契約のために、Xに呈示されます。

さて、Aの代理人Bは、Yの白紙委任状を悪用して、あたかもYの代理人のように装って、XY間の交換契約を締結しています。

しかし、Bに対して、Yからその代理権を授与されたという事実はありません。Bの行為は、Yの白紙委任状を悪用した無権代理行為です。

ただ、Xは、BからYの印鑑証明書や白紙委任状等を呈示され、(1)契約の相手方をてっきりYだと信じ、かつ、(2)Bには交換契約をする代理権があるものと信じています。

Xのこの正当な信頼を保護する必要性がある。

表見代理規定の出番となります。

Xが、(1)契約の相手方をてっきりYだと信じた点について

Yによる白紙委任状の交付、そのXに対する呈示により、「Bに代理権を与えた旨を表示した」として、109条の適用が認められるか?が問題となります。

(代理権授与の表示による表見代理)
(旧法)第百九条  第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。

(新法)第百九条 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。
2 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。

白紙委任状については、前々回の投稿「白紙委任状と代理権授与表示」で書きましたね。

白紙委任状と代理権授与表示の論点では、交付された白紙委任状の性質・趣旨によって、類型を分けて考えられています。

1、〈輾転予定型〉白紙委任状の正当な取得者なら誰が行使しても差し支えない趣旨で交付された場合

→ 取得者が空白部分を濫用した場合どうなるか?

2、〈非輾転予定型〉代理権が特定の者に授与され、その者が利用するために白紙委任状が交付された場合

→ア、直接型;直接的被交付者が空白部分を濫用した場合どうなるか?

→イ、間接型;転得者が空白部分を濫用した場合どうなるか?

(ここはさらに、委任事項欄非濫用型と委任事項欄濫用型に分かれます)

前々回の判例も、今回の判例の事案もそうですけど、不動産登記手続に要する書類は、これを交付した者よりさらに第三者に交付され転々流通することを常態とするものではありません。

登記手続きに関する白紙委任状が輾転流通してしまったら恐ろしいことですよね。輾転流通することなんて予定していないことがフツーです(非輾転予定型)。

で、〈非輾転予定型〉には、ア、直接型;直接的被交付者が空白部分を濫用した場合とイ、間接型;転得者が空白部分を濫用した場合があります。

本事案はどちらでしょう?

形式的にみると、白紙委任状はYからAの代理人Bに交付され、それがAに渡り、その後、再びBへと交付されています。で、Bが空白部分を濫用しています。

とすると、転得者が濫用した間接型?本件の1審2審判決はそう解して109条の適用を否定しました。

でも、Aにとって代理人Bは第三者ではありませんよね。一体は言い過ぎかもしれませんけど、白紙委任状を交付したYからすれば、Yが信頼して白紙委任状を交付した特定の者とは、Aであって、現実には、Aの代理人Bですよね。代理人Bに交付することはAに交付することですから。

この点について判旨は次のようにいいます。

なるほど、右各書類はYからBに、BからAに、そしてさらに、AからBに順次交付されてはいるが、Bは、Yから右各書類を直接交付され、また、Aは、Bから右各書類の交付を受けることを予定されていたもので、いずれもYから信頼を受けた特定他人であつて、たとい右各書類がAからさらにBに交付されても、右書類の授受は、Yにとつて特定他人である同人ら間で前記のような経緯のもとになされたものにすぎないのであるから、

ア、直接型の事案といってよいです。

そして、直接的被交付者が空白部分を濫用した場合には、

直接的被交付者が予定外の相手方と取引したときは、その相手方に対して、白紙委任状によって授権表示されたといえるかが問題となり、判例は認める傾向にあるようです。

白紙委任状なんて交付している本人の自業自得ということのようです。

判旨もこういいます。

Bにおいて、右各書類をXに示してYの代理人として本件交換契約を締結した以上、Yは、Xに対しBに本件山林売渡の代理権を与えた旨を表示したものというべきであつて、・・

Xが契約の相手方をてっきりYだと信じた点について、109条の適用ありとなります。

Xが、(2)Bには交換契約をする代理権があるものと信じた点について

(1)により、白紙委任状の交付&呈示によって「Bに代理権を与えた旨を表示した」といえるとしても、それは本件山林の売買契約についてのものであって、Xとの間でなされた交換契約に関するものではありません。

ここは権限外の行為ということで、110条の適用の問題となります。

つまり、109条により表示された代理権を基本代理権と同視して、これを基礎として110条をさらに適用してXの信頼を保護することができるか?が問題となります。(109条と110条の重畳適用)

(権限外の行為の表見代理)
第百十条  前条第一項本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する

判旨は重畳適用を認めました。

Bにおいて、右各書類をXに示してYの代理人として本件交換契約を締結した以上、Yは、Xに対しBに本件山林売渡の代理権を与えた旨を表示したものというべきであつて、X側においてBに本件交換契約につき代理権があると信じ、かく信ずべき正当の事由があるならば、民法一〇九条、一一〇条によつて本件交換契約につきその責に任ずべきものである

まとめ

この判決は、最高裁として初めて、109条と110条の重畳適用を認めたものです。

今回は、以上です。

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