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民法110条と112条の重畳適用(大審院昭和19年12月22日)

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重畳適用

民法判例百選Ⅰ[第7版] No.33
民法110条と112条の重畳適用
(大審院昭和19年12月22日)

今回も、重畳適用です。

「代理権消滅後の越権代理」の事案です。

112条だけでは処理できない。110条だけというわけにもいかない。第三者の信頼を保護するためには、110条と112条を重ねて適用する必要がある。

そんな場面のお話です。

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結論だけみれば、110条と112条の重畳適用を認めて、第三者の信頼の保護を図った判例である。以上!

単純な判例ではあります。覚えるまでもないですね。

でも、せっかくなので、”重畳適用”という法律構成が可能となる、その背景について、基本にまでさかのぼって、確認しておきましょう。

表見法理/権利外観法理

(権限外の行為の表見代理)
第百十条  前条本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する

110条は、現に代理権を有する者が〈越権行為をした〉場面の条文です。

(代理権消滅後の表見代理)
第百十二条  代理権の消滅は、善意の第三者に対抗することができない。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない

112条は、〈代理権消滅後に〉過去に有していた代理権の範囲内で、無権代理行為をした場面の条文です。

とすると、〈代理権消滅後に〉〈越権代理をした〉という事案には、110条も112条も、そのまま適用するということはできません。適用要件を充たしていませんよね。

でも、第三者の信頼を保護して取引の安全を図る要請は、110条や112条の適用場面と変わりません。

表見代理の3つの条文。109条、110条、112条。

これら条文の背景にあるのが、表見法理とか権利外観法理と呼ばれるものです。

表見法理、権利外観法理というのは、本人の帰責性と第三者の信頼とを比較衡量して判断するのでしたね。

一方的に第三者の取引の安全を図るのではなくて、本人に権利を失ってもやむを得ない帰責性があるので、第三者の信頼の方を優先して保護しようという、そんな法理です。

上の3つの条文でも、それぞれ、「本人の帰責性」と「第三者の正当な信頼」が適用要件となっていますね。

つまり、3つの条文は、表見法理(権利外観法理)を背景にもつ、表見代理の典型的場面を規定したにすぎないもの、ということができます。

これに当てはまらない事案では、第三者の信頼を保護しない、というものではない。条文にはあらゆる場面を網羅的に規定することができなかった、だけのことです。だから、想定していなかったけど、取引の安全を図る必要がある事案では、なんとか工夫をして、表見法理(権利外観法理)の理念を実現しようとするのですね。

で、今回の、〈代理権消滅後〉の〈越権代理〉の事案。110条と112条を重ねて適用すれば、第三者の取引の安全を確保できるじゃないかと。

まず、〈代理権が消滅している〉点について、112条を適用して、善意無過失の第三者との関係で、代理権の存続を擬制して、その上にさらに、〈越権代理〉の部分について、擬制された代理権を基本代理権として、110条を重ねて適用して、代理権の存在を正当に信頼した、第三者の取引の安全を図ることができる。

これが、110条と112条の重畳適用という法律構成になります。

本判例は、大審院の判例で、漢字とカタカナで書かれた、句読点もない、読めない漢字もあるものです。

言っていることは、重畳適用を認めるという、上に書いてきたことです。そのままの判決文が出題されることはないとおもいます。判旨の引用は省略します。

ということで、今回は、表見代理の重畳適用を認めた初めての最上級審判例でした。

今回は、以上です。

これを書いたひと🍊

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