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民法110条の基本代理権~事実行為(最高裁昭和35年2月19日)

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基本代理権

民法判例百選Ⅰ[第8版] No.29
民法110条の基本代理権~事実行為
(最高裁昭和35年2月19日)

今回も、表見代理です。

民法110条の適用要件「基本代理権」についての判例です。

110条の「基本代理権」は「事実行為をなす権限」であってもよいのか?

そんなお話です。

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事案からみていきましょう。

事案

登場人物は、A会社、勧誘員Y、長男S、お客様Xです。

A会社の業務は、勧誘外交員を使って一般人を勧誘して、金融機関の預金より高い利息で金員を借り受け、高利で貸し付けを行うことでした。

Yはその勧誘員でした。

ところが、Yは、健康上の理由から自らは勧誘行為をせず、事実上、長男Sに勧誘行為の一切を委ねていました。

Xは、長男Sの勧誘により、A会社に対して合計30万円を貸し付けました。その際、本件貸付債務について、Yが保証する旨の保証契約証が差し入れられています。

しかし、これはYの関知しない間に、長男Sが勝手にYの印鑑を使用して、Yの氏名を冒用して作成したものでした。

その後、XがYに対して保証債務の履行を請求。

これに対して、Yは、「当該保証契約は長男Sが勝手にやったことで自分は一切関知していない」として履行を拒否しました。そこで、Xは提訴しました。

そんな事案です。

判旨

本件において、民法一一〇条を適用し、Yの保証契約上の責任を肯定するためには、先ず、Yの長男SがYを代理して少くともなんらかの「法律行為をなす権限」を有していたことを判示しなければならない・・Yは・・株式会社A本社の勧誘員となつたが、その勧誘行為は健康上自らこれをなさず、事実上長男Sをして一切これに当らせて来た・・「勧誘それ自体は・・事実行為」であつて法律行為ではないのであるから、他に特段の事由の認められないかぎり、右事実をもつて直ちに長男SがYを代理する権限を有していたものということはできない

本件事案で、なぜ110条の適用が問題となるかというと、Yから長男Sに対して、何らかの代理権が与えられていたとすれば、「長男SがYの関知しないところで勝手にやった本件保証契約」は越権代理行為にあたり、これを相手方Xが正当に信頼していた場合には、表見代理の110条によってYが責任を負うことになる、からです。

事案をみると、Yから長男Sに委ねられていたのは”勧誘行為”ですね。勧誘行為というのは、法律行為ではありません。契約を結んでいるわけではない。ただ、声をかけて勧誘しているだけです。法律行為というのは、勧誘した後の借入契約(消費貸借契約)とか保証契約などのことです。その代理権は長男Sに与えられていません。

「勧誘行為という事実行為」を任されていただけ。これを110条の基本代理権とすることができるのか?その点が争われました。

110条は、現に代理権を有する者が、越権行為をした場面の条文ですね。

(権限外の行為の表見代理)
第百十条  前条本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。

(代理権授与の表示による表見代理)
第一〇九条 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。

表見代理(表見法理、権利外観法理)というのは、「本人の帰責性」と「第三者の信頼」とを比較衡量して(天秤にかけて)判断するのでした。

110条でも、「本人の帰責性」と「第三者の信頼」が要件となっています。「本人の帰責性」とは、越権代理をした代理人に対して、(基本)代理権を与えていたことです。「越権代理をするような人を信頼して代理権を与えたのは本人じゃないか」「そんな人に代理権を与えた本人がリスクを負うべきだ」「正当に信頼した「相手方の取引の安全」を優先するべきだ」そういう条文です。

つまり、「本人の帰責性」の存在を前提に、「取引の安全」を図るものです。この「取引の安全」の要請は、契約関係に入るとか、「法律行為をする場面」で働きます。とすれば、「本人の帰責性」とされる基本代理権は、「法律行為をなす権限」である必要があります。「取引の安全」の要請が働く「法律行為をなす代理権限」であること、そういう場面を想定した条文なのだと。

「いかがですか~」と勧誘しているにすぎない場面では、まだ「取引の安全」の要請は働きません。「いい話ありますよ。」と連れてくる行為は、事実行為にすぎないのであって、法律行為ではないのです。そこに、「取引の安全」を図る110条の適用は想定されていないといえます。つまり、「事実行為をなす権限」は、110条の基本代理権とはならない。

もう一度、判旨をみてみましょう。

本件において、民法一一〇条を適用し、Yの保証契約上の責任を肯定するためには、先ず、Yの長男SがYを代理して少くともなんらかの「法律行為をなす権限」を有していたことを判示しなければならない。・・Yは・・株式会社A本社の勧誘員となつたが、その勧誘行為は健康上自らこれをなさず、事実上長男Sをして一切これに当らせて来た・・勧誘それ自体は・・事実行為であつて法律行為ではないのであるから、他に特段の事由の認められないかぎり、右事実をもつて直ちに長男SがYを代理する権限を有していたものということはできない

「事実行為をなす権限は、110条の基本代理権とはならない」

そういっています。

これに関係する判例として、次のような判例もあります。

本人から与えられた代理権が、「印鑑証明書の下付申請という”公法上の行為”にすぎない場合、110条の適用を否定(基本代理権にあたらない)。-最判昭和39年4月2日

印鑑証明書が申請されても私法上の効果は生じないので、「取引の安全」の要請が働く場面ではないからです。

ただし、

本人から与えられた代理権が、「不動産贈与の履行として”所有権移転登記の申請行為”をする権限」である場合のように、”単に公法上の行為にとどまらず、私法上の取引の一環としてなされるもので、それが私法上の効果も生じる”場合には、110条の適用が認められる(基本代理権となる)。-最判昭和46年6月3日

私法上の効果も生じる以上、「取引の安全」の要請が働くからです。

まとめ

110条は、「本人の帰責性」の存在を前提に、「取引の安全」を図る規定です。「取引の安全」の要請が働く場面で適用される規定です。

今回紹介した判例は、この一点から説明することができます。

暗記する必要はありません。一度納得してしまえば、もう大丈夫ですよね。

今回は、以上です。

これを書いたひと🍊

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